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死人に口なし

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蠢動@臨也


「ちょ、こいつ手ぇ噛みやがった!」
 臨也の口を袖口で押さえていた男は、力任せに臨也を突き飛ばす。
 渦中の臨也は、腕をロープでしばられ、収納空間と一体になった後部座席に転がされていた。プラスチック製の収納箱がいくつか積まれている。倒れこんだ臨也のちょうど目の前に、拭き取ろうとした擦れた血の痕があった。
 後部座席には、キャップを被った男が一緒に乗り込んでいた。静雄に電話をかけたのは、この男だ。運転席と助手席に乗っている二人の顔を臨也は知っていたが、このキャップの男だけは知らない顔だった。とはいえ、前二人と同じグループの連中だろうと見当をつける。
 キャップの男は、臨也の携帯をいくらか操作すると、何の前触れも無く逆向きに折った。妙に軽い音がして、無残にプラスチックの残骸が散らばる。
「オトモダチ、来てくれるといいねー? ま、どっちにせよ助からないんだけどさ」
 臨也は動じることなく、微笑すら浮かべて男を見た。
「あいつは来ないよ。友達どころか、俺のこと大嫌いだから」
「またまたぁ。来るなとか言っちゃって、そりゃないでしょ。それに、昨日も助けに来たって話じゃん? 静雄君」
 キャップの男はへらへらと臨也に語りかける。顔が近すぎて、キャップのつばが臨也の額にぶつかりそうだ。
「……仮にそうだとして、あいつが来るのは君達にとってデメリットだ。話聞いたんなら分かるだろ。三人やそこらで敵うわけない」
 間近で目を逸らせることも無く、臨也が淡々と話して聞かせる。
「だーかーらー、そのために君がいるんじゃん? 人質がさぁ」
 キャップの男は、ナイフをこれ見よがしに振りかざした。刃先が臨也の首元すれすれを通り過ぎる。
「そもそも、あいつに口封じする価値、無いと思うよ? あいつにそんな頭があったら、俺はとっくに死んでるさ」
 臨也は憎々しげに口の端を上げた。
「……俺だって、君達が捕まったらタダじゃ済まないんだ。どうして俺を始末しようという結論に至ったか、甚だ疑問だよ。死体はどうするんだ? 俺の他にあてがあるわけでも無いんだろう? 余計なリスクを抱え込むのは、利口とは言えないな」
 臨也が口先で丸め込もうとすると、それまで黙っていた助手席の男が口を開いた。短い髪を派手な金髪に染め、ピアスがいくつも覗いている。
「お前が信用ならないってことだよ。……おい、そいつあんま喋らせるな。妙に口が達者だからな」
 金髪の男は、前半は臨也に、後半はキャップの男に向けて言った。
「はいはーい、と」
 キャップの男は、積んである荷物を探り始めた。中からガムテープを取り出し、雑に千切る。用途を察した臨也は思わず顔を背けたが、狭いバンの後部座席で腕の自由を奪われていては、拙い抵抗だった。
「よっしゃ黙った」
 キャップの男が臨也の口を塞ぐと、最後まで沈黙していた運転手の男が、キャップの男に声をかけた。こちらは黒い髪で、髭を生やしていた。
「……お前よぉ、怖いもの知らずというか何というか、ちょっとネジ飛んでるよなぁ」
「はは、この前兄貴にも言われましたよ」
「……全く、暢気なこった」
 黒髪の男は、僅かに苛立たちを滲ませた。しかし、少しも動じることなく、キャップの男はへらへらと笑っている。
 臨也は、じっとそのやりとりを観察していた。勘違いした男達が、静雄に電話をかけたときこそ動揺したが、臨也は現状にさほど危機感を持ってはいなかった。
 ただ、虎視眈々とタイミングを狙いながら、臨也は殺人犯のバンに揺られる。



 前日、静雄を突き飛ばして家に帰った臨也は、夕食を摂りながらニュースを見ていた。何の気なしに流し見していたのだが、一つのニュースで箸を止める。
 それは、深夜に起きた強盗殺人事件を報道していた。テレビ画面に写し出される一軒家と、表示される被害者の名前を見て、臨也は片方の眉を上げた。

 その夜、自室に戻って調べ物をしていた臨也に、不意に電話がかかってきた。興味なさげに携帯を取った臨也だったが、表示された画面を見て、にやりと笑った。
「もしもし?」
『よぉ、折原さん。その……昼間は悪かったな。あいつらちょっと気が立っててよ』
 受話器の向こうから、へりくだった男の声が響く。
「でしょうね。ニュース、見ましたよ? いやぁ、驚きました。まさか家族五人全員皆殺しだなんて。……僕は情報を流しただけですけど、さすがに良心が咎めました」
 上辺の言葉を口にしながら、臨也は相手の出方を待つ。相手は電話先で一瞬詰まったようだったが、すぐに話を切り出した。
『……支払いが遅れてるのは悪いと思ってるが、それどころじゃなかったんだ、分かるだろ?』
 男が早口に弁明するが、臨也はあくまでも冷ややかに対応する。
「……ええ、それで? 電話してきたってことは、払っていただけるんですよね?」
『もちろんだ。……ただ、もう一つ仕事を頼みたい』
「はい?」
『…昨日、撤収する時に顔を見られてな…………あんたなら、死体をうまく隠す方法、知ってるだろ?』
 臨也の脳裏に、昼間遭遇した死体が浮かんだ。考えてみれば、男の仲間と揉めた場所と、死体のあった位置は妙に近かった。丁度人通りの無いところまで尾行して始末し、車を回すまでの見張りをしていたのだろう。少々ずさんな犯行だが、急ごしらえの計画だと思えば仕方ない。
 ――――――タイミングの悪い時に出くわしたな。
 臨也は自嘲しながら、頭の中で素早く段取りする。
「……本当に支払って頂けるんでしょうね?」
『あぁ、金はある』
 男の答える声ははっきりしていた。ニュースでは強盗という報道だった。偽装のつもりかどうかは分からないが、金銭も盗んだのだろう。どちらにせよ、その家の長男がギャンググループのリーダーだと知れたら、遅かれ早かれ捜査の手が伸びるはずだ。
 そんなことを考えているとはおくびにも出さず、臨也は笑みを浮かべて男に告げた。。
「……いいでしょう。そういうツテがありますからね、引き受けましょう。ついでに口止め料も頂けますか?」
 冗談めかして言うと、電話口から焦りが伝わってくる。
『おい! それは……』
 跳ね上がる男の声を聞きながら、臨也は電話越しに笑みを深めた。
「やだなぁ、冗談ですよ。……昼間、お仲間を病院送りにしてしまいましたしね。見舞金でチャラってことで。手はずを整え次第折り返しますよ」
『……出来るだけ早く頼む』
「今日中に。……一つお伺いしたいんですが」
『何だ』
 男が不審げに答える。
「…………今日始末したっていう人、中年のおじさんでした?」

作品名:死人に口なし 作家名:窓子