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死人に口なし

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懇願@新羅


「んー、結構遠いね。海の方だ」
 静雄の携帯に送られてきたメールを見ながら、新羅が言った。それを覗き込みながら、セルティが携帯に文字を打ち込む。
『そういえば、何で相手は静雄の連絡先を知っていたんだ?』
 セルティの疑問に、新羅が溜め息交じりに答える。
「あぁ、臨也だよ。あいつ全校生徒の連絡先把握してるから。静雄のまであるとは思わなかったけど、これ、臨也のメアドだしね」
『……なんというか、気持ち悪い奴だな』
 セルティは気味悪げに、肩を寄せる仕草をした。
「あいつは人類に対してストーカーなんだよ。まぁ、おかげで行き先も分かったし、おかしな趣味に身を助けられたってわけだ」
『おかしな趣味のせいで身を滅ぼしかけてる気がするが』
 セルティが正論を示すと、新羅は肩を竦めて降参のポーズを取った。

 一通りのやりとりを終えると、二人はほぼ同時に、横目で静雄の方を伺った。静雄は、先ほどの電話から一言も話さない。恐ろしいほどの無表情で、じっとそこに佇んでいた。
 セルティは携帯の画面を、新羅にだけ見えるように傾けた。
『……ヤバいんじゃないのか?』
 新羅は微妙に口の端を引きつらせながら、ゆっくり頷いた。今の静雄は、辛うじてタガが引っかかっている状態だろう。
「静雄……?」
 新羅が恐る恐る声をかけた。静雄は何気ない仕草で顔を上げた。まるでいつも通りに見えたが、それが逆に恐ろしかった。
「……あー、悪いけどよ、俺、無理だわ」
 静雄は表情を動かさず、ぼそぼそと呟いた。静雄は、対象不在の苛立ちを溜め込んで、どうすることも出来ず堪えているだけの状態だった。新羅がしどろもどろに訴える。
「でも、もう名指しされてるわけだし、君が行かなきゃ……。臨也だって、うっかり殺されちゃうかも」
「死ねばいいだろ!」
 新羅の語尾に被せて、突然静雄が怒鳴った。新羅とセルティは思わず身を竦ませる。静雄は無表情だった顔を歪め、苦しげに新羅を睨めつけた。赤信号だ。部屋に沈黙が落ちる。

 しばらく無言が続いた室内だったが、不意に新羅が口を開いた。
「……あのさ、静雄。君ってしょっちゅう死ねとか殺すとか言うけど、それって本気で言ってるの?」
 静雄がキレた時のためだろう、セルティが若干新羅の傍に寄る。それに一瞬微笑を浮かべ、新羅は話を続けた。
「確かに君達の喧嘩は命がけだけど……僕は時々思うんだ。臨也はともかく、君はさ、そういうタイプじゃないよ。……さっきだって、死体の話でげんなりしてたじゃないか。もう子供じゃないんだから、分かるだろう? ……臨也をそうしたいって、本気で思ってるの?」
 新羅の言葉に、静雄は一瞬混乱した。昨日の映像がフラッシュバックする。血に沈んで見開かれた瞳が、じっと静雄を見つめていた。
「……臨也は、確かに原油湾で流出した油みたいな奴だけど、一応僕の友達だからね」
 新羅はそこで、一瞬躊躇するように言葉を切った。言おうか言うまいかと唇を戦慄かせ、何かを諦めるように溜め息を吐く。そして、教室では言えなかった言葉を告げた。
「お願いだよ。僕の友達を助けておくれ」

 静雄はしばらくじっと黙っていたが、急にふらりと歩き出した。新羅とセルティは思わず後ずさる。帰るのかと思った二人だったが、静雄は表情の無い顔で言った。
「……行くんだろ?」
 一瞬呆気に取られた二人だったが、すぐに新羅は目を瞠り、セルティは肩を震わせた。喜色満面に頷く二人を視界の端に、静雄は黙って玄関へ向かう。静雄は、胸中の葛藤を完全に放棄していた。
『新羅、お前はどうする? 一緒に来るか?』
 静雄の後について、セルティが新羅に携帯を差し向けた。新羅は首を横に振る。
『そうか』
 玄関に到着し、セルティが新羅を振り返った。
『では、行ってくる』
「うん。静雄と臨也をよろしく」
 新羅はセルティに笑みを向け、それから静雄に視線をやった。静雄が玄関に下りたので、二人の視線の高さはほぼ同じになていた。静雄は表情の無い顔で新羅を見つめ返した。新羅は少し眉を下げ、それから軽い調子で言い放つ。
「なに、さっさと臨也を見つけて、昨日の仕返しをしてやればいいさ」
 静雄は声を出さずに軽く頷き、そのまま玄関を出て行った。セルティもそれに続く。振り返ったセルティに軽く手を振って、新羅は玄関の扉を閉めた。

 室内に戻りながら、新羅は一人呟いた。
「僕は思うんだよ。どうして臨也はまだ生きてるのかなって。……ま、静雄にも言えることだけどね」
 新羅は苦笑して一つ息を吐き、携帯電話を取り出した。

作品名:死人に口なし 作家名:窓子