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死人に口なし

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衝突@セルティ


 静雄を後部座席に乗せ、セルティは内心ドキドキしていた。静雄は、セルティの腹の前で手を組んでいる。不安定な状態の静雄が、勢い余って自分の胴を真っ二つにしないか、正直保障は無い。怪我の治りは尋常じゃなく早いが、首以外の部分が分離しても元に戻るのか、セルティは知りたくもなかった。

 心地よい速度で車道を飛ばす、首無しライダーと金髪の高校生。彼らの存在は街から異様に浮いていたが、まだ誰も咎める者はいない。ヘルメットを被っていない静雄の金髪が、風を受けてなびいていた。
「……なぁ、セルティ」
 ずっとだんまりだった静雄が、呟くように口を開いた。聞こえても聞こえなくてもいい、そんな声量だった。
「俺にはわかんねぇよ。臨也はむかつくし、死ねばいいと思ってるけど……。死体見たとき気持ち悪かったし、……怖かったと思う。……なぁ、俺って力は強いけど、まだ人死なせたりはしてねぇんだ。よく考えたらすごいことだよな? 俺にもまだ、ストッパーみたいなもんが残ってるのかな? …………そうだといいなぁ」
 静雄は僅かに組んでいた腕に力を込めたが、セルティの胴が千切れるようなことはなかった。

 セルティは、結局何も答えなかった。静雄も、それ以上口を開かなかった。漆黒のバイクはひたすら目的地に向けて疾走する。心優しき首無しライダーと、苦悩する高校生を乗せて。






 法廷速度を無視して、二人は目的地に到着した。メールに示されていた場所は、セルティが昨日赴いた倉庫街と程近い埠頭だった。今は使われていないようで、人気は全く無い。
 ――――――偶然こんな近く、とは考えにくいな。やはり私の仕事と、今回の件は関係があるようだ。
 つまり、臨也の自業自得が濃厚なのだが、セルティは深く考えないことにした。無音のバイクを生かして、慎重に埠頭の中を探す。

「…………おい」
 不意に、静雄が声をかけた。何事かと振り向くと、静雄がすっと指を差した。指の先には白いバンが、海に面したところにぽつんと停まっている。
 セルティはすぐにバイクを発進させ、通路を大回りしてバンの方へ向かおうとした。しかし、通路に身を隠したところで一端停止し、携帯に文字を打ち込む。
『大丈夫か?』
「何が?」
 静雄は首を傾げた。
『何というか……キレそうだったりしないか? 何ならここで待っててもいいぞ? 大した人数でも無いようだし、私一人でも大丈夫そうだ』
 セルティに渡された携帯をスクロールさせながら、静雄は軽く頷いた。
「あー、大丈夫。つーか知り合いだったら困るんだろ? なんか今、何にも思わないっつーか、考えられないっつーか、そんな感じだから」
 ――――――それは逆に危ないのでは……。
 静雄はいたって普通の表情をしていたが、セルティは不安を隠せなった。嵐の前の静けさのような、そんな予感がする。
 思案するセルティの内心を読み取ったのか、珍しく静雄が笑った。その笑みは苦笑の域だったが、状況にそぐわない穏やかさだった。
「ありがとな、セルティ。……でもよぉ、俺、大丈夫だと思ってても、いつも駄目なんだ。いっつもキレちまう。だからきっと、今回も駄目だと思う。……だからさ、ヤバイと思ったら、すぐ逃げてくれよな。このバイク、なんかすげぇんだろ? 新羅が良く自慢してるから、知ってるよ。……迷惑かけて悪いと思うんだけどさぁ、行かないとすっきりしない気がしてよ。頼むよ」
 セルティは何も言わなかった。ただ、答えの変わりに、静かにバイクを発進させる。静雄は呟くように言った。
「……ありがとな」
 ――――――そこまで言われたら、連れて行かないわけにはいかないだろう。
 セルティは内心溜め息を吐きながら、慎重にバンの前に出られる道に向かう。のろのろ出て行くのも格好悪い気がして、少しスピードをつけてバンの前に飛び出した。

 しかし、そこで目にした光景は、想像していたものとかなり違っていた。バンの前で、チンピラ風の男が三人、バイクのブレーキ音に振り返った。そこまでは良かったのだが、肝心の臨也が、両手にナイフを携え、バンの上で仁王立ちしていた。まるで敵の親玉か何かのようだ。セルティは一瞬、昨日の疑念を思い起こしたが、大音声がその思考を掻き消した。
「黒バイク!!」
 叫んだのは、チンピラでも静雄でもなく、当然セルティでもなかった。臨也が、何故かセルティを親の敵のように睨みつけている。臨也がこんなに大声を張っているところを、セルティははじめて見た。
 一瞬静雄を見ているのかと思ったセルティだったが、臨也の視線は確かにセルティを、空っぽのヘルメットを捉えていた。返事をすることも出来ず、セルティは臨也を見つめた。特に外傷も無いようだし、機嫌はすこぶる悪そうだが、元気そうだ。
 ――――――帰っていいかな……。
 前方に不機嫌な折原臨也、背面に不安定な平和島静雄、泣く子も逃げ出す面子に挟まれて、セルティは密かに思った。

作品名:死人に口なし 作家名:窓子