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追伸

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新生活という文字があちこちに散らばった家具屋でメモを片手に彷徨いていると、理想的なテーブルを見つけた。折り畳み式で、何段階か足の高さを変えることができるそれは一年前に卒業したばかりの高校にいた友人の部屋にあったものに酷似していて、胸の奥に閉まっていたはずの気持ちが滲んで来る。
二年と半年の間、新設の硬式野球部の仲間として過ごした水谷。何度も足を運んだあいつの部屋で、決まって部屋の隅に立て掛けられた水色のテーブルは組み立てられ部屋の真ん中に姿を現した。
二人分の飲み物やお菓子、時には参考書や雑誌を並べた机と同じ型の色違いのそれが今度からは一人暮らしの部屋に置かれるのを想像すると少しだけ寂しい。
大学二年になるこの春に実家を出ることはずっと前に決めていたことで、それを決めた当時は栄口が一人暮らししたら俺も入り浸りやすくなるねと笑う水谷が側にいてくれていた。
楽しみだと笑って二人で予想した未来はどこにもない。
学部は違うけれど同じ大学に進学すればきっと一緒にいられると思っていたのに、実際はそうもいかなかった。理系の水谷と文系の俺じゃ時間割や授業をうける建物すらも違う。
それでも最初のころは昼だけは一緒に過ごそうと気をつかったけれど、新しい友人や環境に馴染むために一緒に昼御飯を食べることをやめたのは自然な流れだった。
サークルや慣れない授業、新しい生活サイクルに疲労して連絡も取らないようになった頃には、もうどうやって前と同じように水谷と接すればいいのかが分からなくてきっとそれは水谷も同じだったと思う。
交わす言葉が無くなれば、自然と忙しい毎日に向き合うことしかできなくて結局構内で偶然すれ違った時に挨拶を交わすだけになっていた。
姿を見つけたら教室の中から慌てて飛び出してくれた水谷はもういない。水谷の隣に立つのは俺ではなくて長い茶色い髪を揺らす女子だった。
折れそうに細い肩を抱きながら歩く水谷を見て、会えなくても、いつも考えているわけじゃなくなっても相手のことを好きだと思っているのは俺だけだと知った。
好きだと甘く囁き熱を分け合った事実が水谷の中では思い出になっているんだと数度体を重ねたベッドで一人で泣きながら明かす夜は酷く長くて早く一人立ちしたいと願った日々がようやく終わる。
思い出の多すぎる部屋からやっと解放されて、これで水谷から離れられると思った。
作品名:追伸 作家名:東雲