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この手が届いたら

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始まり





東京、池袋。
今日からここで、僕の新しい生活が始まる。竜ヶ峰帝人は緊張の面持ちで肩にかけた斜めがけバックのひもを握りしめた。両親の説得は本当に大変だった。正臣も協力してくれたからいいものの、自分ひとりだったら反対に押し切られて今日という日はなかったかも知れない。けれども今、帝人は池袋にいる。憧れの都会に。
そして明日からはこの東京の高校に通うのだ。幼なじみと一緒に、楽しい高校生活が始まるのだ。修学旅行ですら県外に出たことがなかった自分が、よくここまで来たものだ。しみじみとしつつ、帝人はアパートの前にたった。
ボロボロのこのアパートは、しかし池袋にあるにはびっくりするくらいの格安価格。何かわけありのような気さえする。そんなおんぼろアパートでも、今日からここが帝人のお城なわけで。
1階の、指定された部屋に鍵を挿し込んでゆっくりとそれをまわす。一応郵便物とかあるだろうし、後でボール紙で表札を作っておこうと考えながら、玄関を開放った。



大変です、そうしたら中に黒尽くめの不審な男がいました。



帝人はぽかんと口を開けて、呆然とその人影を見つめた。
この場合、一般的に人間が取る行動と言ったらどういうことか、ノロノロと考える。
1・悲鳴を上げて逃げる
2・何事もなかったかのように扉を締めて逃げる
3・いっそ完全に存在を無視して家の中に入る
はい、3番却下。結論からいうと逃げるべき。だけど凝視して静止したまますでにたっぷり十秒程度経過しているし、危害を加えるつもりならもうとっくに襲われているはず。それがないならもしかして安全かもしれな・・・いやいや、空き家に忍び込む黒ずくめの男のどこに安全要素が在るんだよ。
帝人は こんらん している!
静止したままだった帝人に、室内の人影はようやく振り返った。サラリと黒髪を揺らしてこちらを見たのは、どっかの映画にでも出ていそうな綺麗な男の人だ。帝人はそこまでぼんやり考えて、いや美形だから安全ってことはないよな、と自分にツッコミを入れた。何者か、と、声に出さずに目で問いかける。
「・・・参ったな」
青年は(多分二十代前半?)その眉目秀麗な顔を曇らせて、ポツリと呟く。
「ここって入居者いたのか。せっかくの秘密基地だったのに。こんなオンボロアパートに住むなんて、奇特な子だなあ」
美形は声まで美形らしい。帝人はその耳障りの良い声にうっかり流されそうになりながら、聞き捨てならない単語だけはきっちりと拾い上げて、思わずツッコミを入れた。
「オンボロとか奇特とか・・・これから住む人間に失礼な形容詞使わないでください」
思うに、そのツッコミを入れなければよかったのだ。
帝人は今もそう思う。あの時言葉を聞き逃して、後しばらくあのまま静止していたら、彼はきっとさっさと別の場所に移動して、それでもう二度と帝人との接点はなかったに違いない。ところがだ。
帝人のツッコミを聞いた黒尽くめの男は、その整った顔に、ばああっと光がさすような笑顔を広げ、一瞬のうちに帝人との距離を詰めたかと思えば、


「君、俺が見えるの!?」


と、なんだかとんでもないことを叫んで。
は?とか思っていた帝人に、おもいっきり飛びついてきたかと思ったら、そのまま帝人をすり抜けて通りすぎてしまったのだ。
一瞬の静寂。
「・・・え!?」
今、何が。
そう思って振り返ったその先に、黒尽くめの男は居た。
「失敗!そうだった俺今実体じゃないんだった!触れるわけないか!」
後数センチ近づけば触れるくらいの位置にある顔が、爽やかに微笑んでそんなことを言う。
唖然とする帝人に向かい、男はこれ以上無いくらい上機嫌な顔で、にっこりと微笑んでみせた。


「俺は臨也、世間一般的に言うところの幽霊ってやつだよ。よろしくね」


よろしくなんか、したくねえ。
なんてこと、言えるはずもなく。
帝人にできたことといえば、思い切り息を吸い込んで叫ぶことくらいだった。



「え・・・えええええ!?」


作品名:この手が届いたら 作家名:夏野