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みかど☆ぱらだいす@11/27UP

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未だ蕾は硬く閉じたまま




(笑って良かったねって言える自分になりたい)







(ミカド、ミカド、)
濡れた眸と赤くなった頬をそのままに、秘密を打ち明けるようにそっと耳に震える声で囁いた大切な片割れ。
(今日、静雄さんに会って)
くらりと眩暈がした。帝人の気持ちが一気に流れ込んで、ざあっとぐるぐると呑まれていく。
(言われたんだ)
溢れる想い、止められない気持ち、帝人の心が、たったひとりだけに向けられた想いが溺れそうなほど伝わる。ミカドは一瞬片割れの口を塞いでしまいたかった。言わないでと、柔らかな声に蓋をしてしまいたかった。
(好きだって)
ああ、柔らかで温かな想いの下で不安と焦燥と得体の知れない何かが蠢く。ごめんね、ごめんね帝人。僕はまだ覚悟はできてなかったみたいだ。どうしようと囁く片割れに、ミカドは(どうしようか)と応えることしかできなかった。






(生まれる前から一緒だった手をいつか離す覚悟を)








あれから数日が経った。帝人は一見変わらないように見えるが、実際はため息の量が増えたりぼーっとしてることが多かったりと心在らずだ。そして寄り道せず真っ直ぐ帰宅していることから、あからさまに某喧嘩人形(伏せてない)を避けているのがわかる。ミカドとしては片割れとの時間がその分増えているし、どちらかといえば喧嘩人形に対して「ざまあww」と思っているので、特に何かするつもりなど無いのだが、日に日に帝人の元気が失われていくのは見るのは本意ではない。きっと、今の帝人の心は無防備で、意識しなくても容易くミカドの心に想いが流れ込んでくるだろう。しかしミカドはあえて意識的にシャットアウトする。辛くなれば帝人は言葉で伝えてくれるか、心で問い掛けてくれる。そうしないのは、帝人が自分の心と1対1で向き合ってるからだ。ミカドが知らない、帝人だけの想いと。閉じていた瞼をふと押し上げる。机の前で片割れが柔らかく微笑んで佇んでいた。
「ミカド、帰ろうか」
僅かに疲れの色が見える目元に気付かぬ振りをして、ミカドもまたにこりと笑って頷いた。




校門前が妙にざわめいていた。正臣は委員会、杏里は用事とあって今日は久々に二人だけで帰るのだが、皆が遠巻きに何かを見て囁く姿に揃って首を傾げる。
「何だろう」
「何だろうね」
持ち前の好奇心で近づくと、たくさんある頭から一際目立つ金を見つけた帝人の大きな目を見開かれ、ミカドはため息を抑えるようにそっと瞼を伏せた。
繋いでいた掌が硬く強張るのを感じる。ミカドがちらりと視線を片割れの横顔を移せば、唇が「しずお、さん」と象るのが見てとれた。
まるでその声が聞こえたかのように、金色の頭が動き、サングラスの下の目が二人を、―――否、帝人だけを捉えた。かちりと合わせられた視線に震えた身体を掌越しに感じたミカドは、宥めるように一度だけ強く握り、そしてそっと離した。消えていく温もりに帝人が片割れを見る。
赤く腫れた目元、縋る視線、ミカドはそれらに微笑み、静かに首を横に振った。
「逃げちゃ駄目だよ」
「・・・・・ミカド」
「最近の帝人見てらんないよ。辛かったでしょう?すごく悩んだでしょう?でも答えは見つからなかったでしょう?誰にも聞けないことだったもんね。だって聞かなきゃ、・・・・言わなきゃいけない相手はたったひとりだもの」
同じ顔から視線を逸らし、ミカドは前を向いた。導かれるように帝人の視線もついてくる。いつのまにか、数歩前に佇む金髪のバーテン服の青年。池袋で1、2を争う有名人はミカドの片割れをじっと見つめて逸らさない。ミカドは一歩後ろに下がる。そして片割れの背中に手を添えた。
「行ってらっしゃい、帝人」
とん、と強めに押せば、簡単に身体が傾く。わわっと倒れ込みそうだった帝人を青年は当たり前のように抱きとめた。
「っ、静雄さ、」
「悪ィ、竜ヶ峰妹」
「・・・・何ですか?」
「こいつ、今日帰ってこれねぇかも」
「は?・・・・・・・・・ぅえええええええええ!!」
一瞬の空白の後、意味を呑み込み声を上げた片割れとは反対に、ミカドは心底嫌そうに顔を歪めた。
「年上らしく、もう少し理性的に待ったらどうですか」
「充分待った。むしろ猶予期間くれてやったぐらいだ」
「・・・・・・・・・・大した自信で」
「逃がすつもりはこれっぽっちも無かったからな」
腕の中であわあわと可哀相なぐらいうろたえる少女をサングラスでも隠せないほど甘ったるい眼差しで見つめる青年に、ミカドは呆れたと額に手をやる。
「ああもうさっさと行ってください。これ以上やると帝人が登校拒否になりますから」
「おう」
「え?え?待って、ミカドッ、静雄さ!?」
ミカドは思わず半目になった。確かにそのほうが早いとは思うが、俵担ぎはどうよ?
「ししししししずおさーんんん!???」
ああ哀れなり、大切な片割れよ。完全に混乱しているな。
さすがというか重さを感じさせない足取りで去っていく姿に、帝人が本当に登校拒否にならないよう、ミカドは心の中で十字を切る。
「・・・・・・」
二人の姿が見えなくなっても、ミカドは暫くその場に佇んでいた。未だざわめく周囲など目にも入らないし、耳にも聞こえない。ミカドはふと瞼を伏せた。長い髪を風が悪戯に揺らしていく。心の中で30秒カウントして、ミカドは漸く歩きだす。
ひとりで帰る道は少しだけ肌寒く感じた。








(貴方にだけは寂しいだなんて言いたくない)








帰り際、スーパーに寄り夕飯の買い物をする。一応二人分買ったが、あの宣言通り片割れはきっと帰ってこないだろう。冷凍保存しとけばいいかと、がさがさエコバックを揺らしながらミカドはアパートの階段を昇った。しかし自分の部屋のドアの前に佇む人影を見つけた途端、ミカドは思わず後退する。
「ええー、その反応は酷くない?」
「・・・・・何でここに居るんですか、折原さん」
「臨也でいいってば」
黒づくめの自称素敵で無敵な情報屋は愉しげに笑った。
「一人なの珍しいね」
「(質問に答えてない)・・・・そうでも無いですよ。帝人にも僕にも個人的な用事ぐらいあります」
鍵を取り出しドアを開ける。当然のように臨也も入ってくるのを、ミカドは止めない。止めても無駄だと学習したからだ。
それなりに重たかった袋をシンクの上に置く。臨也はすでに食事用のテーブルがある部屋でくつろぎの姿勢を取っていた。
「今日のご飯はなーにー?」
「苦学生にたかるつもりですか成金。言っときますけど、折原さんの分なんかありませんから」
「二人分買ってきたんでしょ?」
「これは、」
「お姉ちゃんは帰ってこないよね。静ちゃんに拉致られたし」
「・・・・・・・」
ミカドが振り返れば臨也はにっこりと笑った。
「ミカドくんのお姉ちゃんも趣味悪いよねぇ。よりによって静ちゃんがいいなんてさ」
「・・・・帝人のこと悪く言わないでください」
「でもミカドくんも面白くないって思っているだろう?」
「・・・・・」
解っていたけれど、本当に底意地の悪い男だ。人が必死で隠しているところを平気で突いて暴こうとする。
作品名:みかど☆ぱらだいす@11/27UP 作家名:いの