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輪廻の果て

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九話





「帝人様-!これどうしたらいいですか?」

「それは右の戸棚へ!あぁ、その反物一式は酒楼の間へ!」

帝人は今慌ただしく新年へ向けての大掃除をしている。今でも不思議なのだが、ここにいる妖怪達は帝人を頼ってきてくれた。
初めて臨也から紹介されたとき、どうなるかと思っていたのだが。
皆すぐにうち解けてくれて、自分を臨也の北の方として扱ってくれた。
何かをする度に帝人に断りをいれてくれる。最初はもちろん帝人も戸惑った。
自分を恨んでいるはずの妖怪達が、どうして自分をまるで臨也と同等に扱うのかその理由が分からなかったから。
だから臨也に訪ねたのだ。どうしてここにいる妖怪達は己を上役として臨也の妻として見るのか、と。
その時の臨也の顔を帝人はきっと忘れないだろう。

『君はむやみに俺たち妖怪を殺さなかっただろ。みーんな知ってる。君が小さい害のない妖怪を逃がしていたことを。
 傷ついた妖怪を癒していた事を。俺たちを対等として見てくれていたことを』

臨也は目元を和らげ、帝人の頭を撫でた。帝人はしゃくりをあげ涙を零す。
そんな帝人を臨也は愛おしそうに抱きしめた。

『君の優しさは、みんな知ってる。ぜったに無駄にならないよ』

臨也のあの言葉が今でも帝人の胸に灯っている。
あの言葉があれば、帝人は頑張れる。胸を張っていられる。
帝人は離れたところでこちらを見ている臨也をチラリと視線に入れ、柔和に笑った。

臨也はころころ動き回る帝人を見て、柔らかく笑う。その笑みを見ていた牛鬼は呆れたため息を漏らした。
そのため息を聞いて、臨也は牛鬼に対し眉をひそめる。

「何そのため息」

「何って、君ねぇ。前までの臨也を知っていたら誰だって呆れてしまうよ。
まぁ、君がそれで良いのなら私は別に構わないのだけれども・・・。ただ、」

「ただ、なに?」

牛鬼は肩をすかして臨也を静かに見つめた。臨也は牛鬼の言葉を待つ。

「拳拳服膺(けんけんふくよう)、私たちは妖怪であの子は人だ。生きるときが違い過ぎる。
それの理は絶対に覆せない」

臨也は心に走る痛みを歯を食いしばる事で耐えた。大きく息をすい、息を吐く。

「新羅・・・。俺は、俺と彼女はそれを知っている。解っている。それでもお互いの手を取ったんだ」

「臨也・・・」

「俺は後悔しない。きっとあのとき彼女の手を取らなかったら・・・もっと後悔していただろうから」

臨也は鮮やかに笑って見せた。その笑みに新羅は言葉を飲み込む。何もかも知り、達観した笑みを浮かべていたから。

「和顔愛語(わがんあいご)だね・・・」

「お前からそんな言葉をもらえるとは思わなかった」

「僕だって君にこの言葉を言う日が来るなんて思いもよらなかった」

臨也と新羅が苦笑していると、明るい少女の声が響く。

「臨也さーん!新羅さーん!そろそろ昼餉でーす!集まってくださーい!」

満面の笑みで臨也達に手を振る帝人。臨也は帝人に手を振ると、跳躍する。
ほんの一瞬の間で臨也は帝人の前に着地し、華奢な帝人の体を抱き上げた。

「いざやさっ」

「お疲れ様帝人くん。俺が運んであげる」

「い、いいですから!おおおろしてくださっ、はずかしっ」

「ふふ、やーだ」

「臨也さん!」

顔を紅く染め上げ帝人は臨也の腕の中で暴れる。けれど、臨也は楽しそうにそんな帝人の額に唇を落とした。
音を立てて帝人の顔が紅くなる。臨也は喉で笑うと、おとなしくなった帝人をもう一度抱え治して屋敷の中へと消えていった。

「・・・人と妖怪・・・これからどうなるだろうね・・・君もそう思うだろう?」

新羅はいつの間にか自分の後ろにいた陰に声をかける。大きな黒い影は一度大きく揺れると、また溶けるように空気の中へと霧散していく。

「どうか、あの二人につかの間の平安を・・・」





作品名:輪廻の果て 作家名:霜月(しー)