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梅花色の幸福な夢

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後日談


 眠るその顔を見て、少し痩せたかも知れない、とその頬に触れる。心地好い体温がじんわりと杏里の指先に移った。
 帝人が杏里の事実上の宿主となってしばらく経つ。長らく苦しんできた飢餓も今は忘れる程で、日本刀は本来の鈍く光る刀身を取り戻している。拒絶の欠片もない帝人の生気はすんなりと咽喉を滑り落ち、消化され、身体へ馴染み、数年間の空白はほとんど埋められてしまった。その数年間分を数回で埋める、となれば当然、帝人への負担が大きいのだが、彼は何でもないように笑う。それが余計に申し訳なく思えてならないのだか、それでも食べなければならない事情が生じた。
 杏里と同じく寄生蟲かどうかは知れないが、別個体が帝人に目をつけたらしい。当然と言えば当然だ。宿主は如何なる理由があろうとも自らの意思で己を提供し、人を食う者達を公から隠してくれる貴重な存在で、需要に対して供給が絶対的に足りていないのは常のこと、それ故に奪い合いの対象に他ならない。更に現在の帝人には寄生者を全面的に許容するという付加価値までついている、これで目をつけられない筈がなかった。
 勿論、杏里は帝人を手放すつもりはない。帝人だけは食べたくなかったが、一度食べてしまえば彼が良いに変わった。その内に彼でなければ嫌だと駄々を捏ねるのでは、とすら思う。そして手放すつもりもなければ誰かと共有するつもりもない。寄生蟲の『祖』である杏里は結構な大食だ、これ以上食われれば生命維持に関わる恐れもある。
 故に戦う決意をする。戦うためには自身に等しい日本刀が必要で、そのためにまた帝人を食わなければならないのだが

「ごめんなさい、誰にも渡したくないんです」

矛盾する行為は理由に帰結する。
 届くことのない謝罪を述べて、断りもなく眠るその呼気に食らいついた。
作品名:梅花色の幸福な夢 作家名:NiLi