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風邪にまつわるエトセトラ

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佐藤の場合



鈴木は小言を言うのが大概得意な事の一つなのだと思っていた。いつも傍にいて、何か気に食わないことがあるとああだこうだ口出しをして、言い終わるとすっきりしたのかなんなのか知らないけれど、まるでそんな言葉自分が発したんじゃありません、みたいな顔をする。反論できないのは己の怠惰の所為だがたまに反抗精神を見せるとすぐにその鋭い眼光で貫かれるのだから堪ったものではない、と思っていたのだけれども。
「あれ、鈴木、休みなの」
平介が間抜けそうなあくびを噛み締めながら鈴木の不在を物珍しげに問う。
佐藤が平然を装って、(というからにはそうでないのは平介以外には歴然であったが)うん、と首を縦に振った。
「熱だって。珍しいこともあるよね」
「まったくだ」
友人としてそれってどうなの、みたいな言われ方に突っ込みはもちろんのこと用意されていない。
「あ、今日数学あるっけ。鈴木居ないとこういうとき困るんだよー」
「お任せください、ばっちり鈴木君のノートは入手済みです」
「おおおお佐藤様ああああ」

水道の蛇口を捻ると、手に触れた水の温度が昨日までと明らかに違って俄かに驚いた。帰ってきたら家中真っ暗で捨てられたかと思ったけど、虎太郎はリビングですうすう寝息を立てていて、妹は友達とライブに行っただけだった。
テーブルに置かれたメモ用紙には、妹特有の女の子らしい字で、(そー兄ィへ)(お米といでおいてね、)(はあと)。
優しい兄貴でお前本当によかったよ、とメモを見て微笑んでみる。妹も弟も俺が育ててきたようなものだ。お願いとあっては断る理由がないのだ。(それくらい、可愛がっている、)(俺の大事な)
ポケットに入れていた携帯電話がバイブレーションして、佐藤の尻のあたりを揺する。ちょっとびっくりして浸していた水から腕を出して、ぱっぱとして携帯を取り出した。
てっきり妹がそう言えばこんなことも忘れてた!とか言ってメールをよこしたのかと思ったら、表示名が鈴木なことにギョッとした。(しかも、電話……)(ワン切りってそんなに早く出れませんからー……俺!)
ちらっと隣の部屋を覗いたら寝惚け眼で虎太郎が台所に歩いてきていた。
目をごしごしとする姿が年相応で愛らしい。
「んー?」
「おい虎太郎、お前もうちょっと留守番出来るか?」
「馬鹿にすんなよー、出来るよー」
やっぱり眠いのか語尾がいちいち延びる。ふっと笑ってから虎太郎の頭を優しく撫でてやる。佐藤が玄関に向かうとその後ろをカルガモの子供のように虎太郎がついて回る。
「どっかいくのか?」
「留守番、頼んだぞ」
鈴木や平介の名前を出すとすぐにあっくんもいると思って着いてきたがるので何も言わなかった。もう一度虎太郎の頭を撫でてやると出したままにしてある靴を履いて玄関を飛び出す。
(鈴木が電話だなんて、)(只事じゃないからな……)
うちを出て一目散に鈴木の家の方向へ走りだした。どうしてだか、この時佐藤は、妹や弟とは違う愛おしさで、なんと、鈴木を守ってやらねばならぬ気がしていたのだ。

当たり前にチャイムを押しても、誰も出てこないので嫌がらせに近い回数押してやった。どたどたと転げ落ちるような音がして、ようやく扉が開いたかと思ったらマスクにどてら姿の情けない鈴木がガラガラの声を精いっぱい荒げて「帰れ!」だって。
佐藤は一体自分がなにを持って鈴木の家まで押し掛けたのかわからなくなっていた。だけれども扉を閉められる前に無理に足を捻じ込んで、力なら負けないよといった感じで扉を抑えつけてまんまと潜入に成功した。鈴木は諦めたように玄関に座りこむ。風邪を引いているというのは本当のことだったらしい。顔が耳まで真っ赤だ。
「具合、どう、」
「見りゃあわかんだろう」
佐藤は見知った鈴木の家に勝手に上がりこむと抵抗することを最早止めていた鈴木を引っ張ってリビングに座らせた。流しでこれもまた勝手に手を洗うと、冷蔵庫を覗き込んで、うーん、と唸った後、ぱっと行動し始めた。
「……何すんだよ」
「たまご酒つくるだけ。俺だって平介みたいにお菓子は作れないけど、料理位、出来んだぞ」
背中から声はしなかったが、ごほんごほん。苦しそうな咳が聞こえる。