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ノマカプAPH年賀詰め合わせ

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An der schönen blauen Donau



クリスマスも終わり、年末を慌ただしく過ごしていたハンガリーに、オーストリアから電話があったのは、12月31日の昼のことだった。
「もしもし、オーストリアさん!クリスマス以来ですね。どうかしましたか?」
突然の電話に、ハンガリーは心を躍らせながら受話器を持った。デートのお誘いだろうか。
「ええと、明日の昼、時間はありますか?」
オーストリアは受話器越しに少しすまなそうに話していた。ハンガリーは何だろうと思いながら、耳を傾ける。
「ええ、大丈夫ですよ。」
お出かけですか?と聞くとオーストリアは、はあと溜息をつきながら話を続けた。
「…突然で悪いのですが、明日のウィーンフィルのニューイヤーコンサートのチケットが余っているんです。」
オーストリアは手元にあるチケットに目を向けた。しかもかなり上等な席である。受話器越しから、ハンガリーの叫び声が聞こえた。
「ううううううウィーンフィルのニューイヤーコンサートって!あの!え、ええと、あの、ウィーンフィル、ですよね…?」
動揺するハンガリーの声を聞いて、落ち着きなさいお馬鹿さん、と言ったオーストリアだったが、内心彼もハンガリーと同様に落ち着きを隠せないのだ。
「そうです、あの、ウィーンフィルですよ」
自分でも確認するために、もう一度、声に出してみた。
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、通称ウィーンフィルはオーストリア・ウィーンにあるウィーン楽友教会大ホールに本拠を置くオーケストラである。その歴史は170年にも及ぶ、伝統のある楽団であり、ニューイヤーコンサートは1989年から毎年1月1日に行われている。これは世界で最も有名なクラシックのコンサートだと言われているのだ。
「だって、あれ、倍率すっごい高いんですよね…!?」
ハンガリーはまだ落ち着かない様子で声を高くした。ニューイヤーコンサートのチケットは全世界を対象に抽選が行われるため、かなりの倍率になると言われている。
毎年1月、世界中の音楽ファンは翌年のコンサートのことを思いながら、チケットの応募をする。オーストリアも毎年応募しては抽選に外れていた。
「ええ、私の上司の一人が、幸運にもチケットが当たったそうなのですが、仕事で行けないからと私にチケットを寄こしてきたんです。」
オーストリアは再び手元のチケットに目を向けた。折角のコンサートに空席を作るのは楽団員にも失礼だからと、上司はチケットを寄こしてきた。オーストリアは勿論二つ返事でそれを受け取ったが、ペアチケットだったことを失念していた。前々から予定していたのならまだしも、前日になって電話をするとは…。
「明日のマチネですが、大丈夫ですか?」
すみません、もっと早くわかれば…とオーストリアはすまなそうに言ったが、ハンガリーはいえ、と首を振る。
「私も前からウィーンフィルの演奏聞いてみたかったんです!すごく嬉しいです!明日、楽しみにしてますね!」
ハンガリーの嬉しそうな声を聞いて、オーストリアはほっと胸を撫で下ろした。
「そう言って貰えて嬉しいですよ。それでは、また明日」
受話器を置いたハンガリーは、うきうきしながら明日着ていく服を探し始めた。

新年、1月1日。
オーストリアとハンガリーはウィーン楽友教会の前で待ち合わせをしていた。フォーマルなドレスやタキシードを着る多くの人のなかで、ハンガリーはひときわ輝いて見えた。
「お、お待たせしましたオーストリアさん!遅れてすみません!」
薄紅のシフォンドレスをひらひら舞わせて、ハンガリーは待ち合わせ場所に走って来る。周りの人は、彼女が通るたびに振り返って見ていた。いつもとは違う、アップにした髪を見て、オーストリアは鼓動が速くなるのを感じた。
「いえ、まだ時間はありますから。そんなに急がなくてもいいですよ。それより…そのドレス…」
息を切らしているハンガリーに、笑いかける。ドレスに目をやると、ハンガリーはなんでしょうと笑った。
「よくお似合いですよ。新年早々よいものが見れました。」
にこりと笑ったオーストリアを見て、ハンガリーはかあと頬を赤らめた。彼はこういうとき、照れずに真顔で褒めたりするから、余計恥ずかしいのだ。
「あ、ありがとうございます…」
昨日たくさん悩んでよかった、とハンガリーは心の中で思った。オーストリアのこの言葉を聞くために昨日の夜の死闘があったと言っても過言ではない。
「行きましょうか。」
オーストリアが手を差し出すと、ハンガリーはおずおずとその指に触れた。
「は、はい!」
二人は楽友教会大ホールに、足を進めて行った。

ウィーン楽友教会。1812年に開館したこの建物は、世界でも有数の音楽ホールである。毎年ニューイヤーコンサートが行われる大ホールは通称「黄金のホール」とも呼ばれ、多くの人に親しまれている。その名にふさわしく、大ホールはそこかしこに金色の装飾がなされていた。
「うわあ…綺麗ですねー…」
大ホールに入ったオーストリアとハンガリーは、天井を見上げて溜息をついた。眩しくなるほどの一面の金色に、歓声しかでない。
「本当に…何度来てもここは素晴らしいですね…。」
まるで我が子のようにそれを見て嘆息するオーストリアを、ハンガリーはくすくすと笑いながら見守った。オーストリアは何度もここに訪れているけれど、ニューイヤーコンサートに来るのは初めてだと言う。毎年テレビで見て、憧れつづけた場所だった。
「装飾とか、あの像とか、すごいですよねー…とっても綺麗。」
ハンガリーが指を差した先には、黄金の女性が柱の役割をしている像が建てられていた。
「カリアティード、ですね。あれや、全ての装飾は音がよく響くように置かれているのですよ。」
オーストリアは得意そうに話をする。楽友教会の大ホールはシューボックス型のホールで、音がすみずみまで響くように、様々な工夫が凝らされているのだ。装飾やカリアティードが作られているのは、響いた音が柔らかく客席に降りてくるように、である。壁に当たって跳ね返る音よりも、湾曲した像や装飾に当たった音のほうが、柔らかく温かく聞こえる。
「ほあー…勉強になります…」
なるほど、と頷いたハンガリーに、オーストリアははっと気付いて眼鏡を押し上げた。
「あ、す、すみません。つい…」
ここには勉強をしに来たわけではないですからね…と苦笑いする。好きなものを語る時のオーストリアの顔を見るのが、ハンガリーは好きだった。いいえ、と首を振る。
「オーストリアさん、すごく楽しそう。音楽の話をしてるときのオーストリアさん、私大好きです。」
にこにこと笑ったハンガリーを見て、オーストリアは、そうですか、と呟いた。
「ありがとうございます、ハンガリー。貴女と来れて、よかったです。」
「はい、私もです!」

楽団員が現れ、指揮者とコンサートマスターが握手を交わした。
「今年は日本さんのとこの指揮者の方の予定だったんですよね。」
ハンガリーが呟いた。初の日本人指揮者がウィーンフィルを指揮する、と話題になったのだが、結局は体調不良のためオーストリア人の指揮者に変更になったのだった。
「日本は残念がっていましたね…」