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臨帝超短文寄集

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3:理由はどうあれ



「君は別に俺のことを愛しているわけじゃないんだろうね」
 唐突にそんなことを言われて戸惑ってしまう。現在の状況は一般的に言って『恋人同士が愛を確かめあうための』行為を行った直後であって、そんなときにその相手からかけられる言葉としては随分と寒々しいものだ。言った男は帝人の戸惑いなど意に介さぬ様子で微笑んでいる。自分の言葉に絶対の自信があるのだろう。結局君は自分が一番好きで大事なんだろう、と重ねて言われ、より一層口ごもる。臨也の口調は柔らかいけれど、詰られているのは明白だ。
「いいんだよ別に。俺は気にしない。だって恋愛以外の理由で君が俺と寝るとしたら、それは愛よりももっと強いとされる感情でしかありえないからね」
 君のそれが俺に向けられているのは悪くないよ、と、そう意味深な言い方をされたのでは、その感情とやらがなんなのか気にかかる。「それって何ですか?」と無心に尋ねれば、予想通りという顔で笑われる。「君が今まさに感じているものだよ」

「人間の感情の中で最も強いとされるものが三つある。ひとつは恐怖。ひとつは愛情。そして最後のひとつが最も強く、人間を人間たらしめるものーーー好奇心さ」

 「好奇心が何故一番強いかわかる?」問われながら片手で髪を梳かれる。まるで頭を撫でられているような仕草は至極優しい手つきもあいまって恋人のそれとしか思えないが、彼の人の口から語られる内容はピロートークとはかけ離れている。なんだろう、もしかしてこれから人間の感情についての講義が始まるのだろうか。それはちょっと眠くなっちゃうかもなと思いつつ臨也を眺めていると、彼の眼が先刻の行為の最中よりよほど楽しそうであることに気がついた。
(ーーーなんだ、僕を責めるようなことを言っていたけど)
「いつか科学か信仰か、つまり肉体か精神かあるいは両方が進化した暁には、人間は最も恐ろしい事ーー死の恐怖から解放される。死ぬことの恐怖に打ち勝てるなら、それ以下の怖い事なんて些事だ。愛はどうか。永遠なんて謳い文句があるけれど、死を克服するまでに成長した人類は理性の極みだ。愛は空気と同じ、あって当たり前の感情になる。そのことをいちいち考えたりしない。けれど好奇心だけは人間が存在する限り永遠に失われることがない。『あれはなんだろう?』という興味を抱く心を失ってしまっては進歩が止まるからね」
(ーーー臨也さんだって、たぶん)
「わかる?だから好奇心は人間のもつ感情の中で最も強くて純粋で尊いものなんだ。そして、そんな感情を君は俺に対して持っている。それは下手な情愛よりも、よほど離れ難い誘惑を感じているということだろ?」
 死を乗り越え、愛を失っても、好奇心は永遠に残るんだからねーーーそう言って帝人を抱きしめる男にだって、いわゆる恋愛感情などより好奇心の方がよほど見つけやすい。人間への愛を公言している彼だから、そういう博愛的なものは勿論帝人にだって感じているのだろうけれど。それ以上の関係に踏み切った理由は、好奇心が主に違いなかった。
 しかしそれは臨也の言葉でいうなら愛より強い両想いということになってしまう。なにかこう、釈然としないものを感じて帝人は臨也に背を向けて寝転んだ。が、やはり思い直して向き合う姿勢をとる。楽しそうに見つめかえしてくる紅い瞳に、自分がなにか感じるものがないか己を探る。誰かとこんな状況に陥っている理由が好奇心だけというのは、あまりに無味乾燥な気がして。
 けれど結局考えることはすぐにやめた。この相手に触れたいと思う気持ちが恋なのか、ただの好奇心の延長なのかなんて分からない。恋だとしても好奇心だとしても、身の破滅を招く可能性があるのは一緒だろう。


作品名:臨帝超短文寄集 作家名:蜜虫