二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

貴方と君と、ときどきうさぎ

INDEX|9ページ/13ページ|

次のページ前のページ
 

恋をすると人は変わる






「少し時間を下さい」と帝人君に言われてから二週間が過ぎた。
ゆっくり考えてと余裕をかまして言ったけれど内心焦っていた。
なんでさっさと俺の愛を受け入れてくれないの?苛々する。
不安な気持ちを理解できないわけじゃない。俺が君を愛してるんだ、
特別な一人の人間として。君だって俺を愛しているのにどうして素直にならない。
けれど無理強いはしたくなかった。手に入れるなら全てが欲しい。
心も体も全部、全部。帝人君が俺を受け入れてくれない事には始まらない。
恋は本当にやっかいな感情だと現在進行形で十分過ぎる程身にしみている。
個体を好きになるとこうまで感情の変化に振り回されるのか
と最初は戸惑った。帝人君は俺の中で特別な位置にいる。
俺という人格形成を狂わせたただ一人の人間。それが彼だ。

帝人君の事を気にしない日などなかった。
彼が俺に懐いてくれるように優しく接し必要ならば
情報も提供して導いてきた。帝人君が俺に向けてくる
熱い視線や照れたようにはにかむ姿、彼なりの口実を作り
連絡を取ってくる行動でああ、俺の事が好きなんだろうなとわかっていた。
その心地よさに俺は甘えていた。それでもお互いどちらとも好きとは告げず
ゆるゆると友達でもない微妙な関係を続けていたんだ。告白されるまでは。

─…あの日、うさぎだった帝人君は俺の側を離れなかった。
少し席を立てばキッチンまで付いてきたし、膝の上に
乗せなければ足元に擦り寄ってきては上に登りたがる。
甘えていた、甘えたかったんだ。疎ましく思われても
俺に。そう考えただけで顔がにやける。

会いたかった。ずっと会いたかった。
何度も会いに行こうとしたけど
君の居場所なんて簡単に見つけられるけど
待つと決めたのは俺だ。…そう決めたはずだったんだけどなあ。
本当に恋ってやっかいな感情だ。

そろそろ限界だった。だって二週間も会っていなかったんだ。
その上体育で怪我したときた。大したことはないらしいが
会いに行く口実にできる。
ああそうだよ、みっともない、大の男が高校生相手に
自信ないとか言っちゃうぐらい俺は帝人君に夢中なんだ。



帝人君は「僕も好きです」とは言わなかった。
本心を隠してしまう辺り彼らしい。口に出したくても
何も言えないって所かな。
「安心しなよ。今はちゃーんと我慢してるから。怪我人に手を出すほど悪人じゃないさ」
「………は、はい」
しばしの沈黙の後帝人君はおずおずと「て、手伝いましょうか?」と
遠慮がちに聞いてきたがやんわりと断った。それから大人しくテレビを
見ているが時折背中に感じる視線に二人の間に生まれる気まずい空気。
最もオーラを出していたのは彼のほうなんだが落ち着いていない様子が
手に取るようにわかる。いいねえこの空気。彼が俺の事だけを考えている証拠だ。

頭は回るくせに鈍くて天然な帝人君だ。
はっきりと言って攻めてやらないと伝わらない。
ああ、タイプ音が聞こえてきた。ダラーズのサイトでもいじっているのかな。
俺はそんな空気を味わいつつボールの中の具材をこね始めた。




「お、美味しい…!」
出来上がったハンバーグを一口運び帝人君は子供のように嬉しそうに言った。
味付けは大根おろしに和風ソースのハンバーグだ。いい匂いが空腹を刺激する。
トマトやレタス野菜達に彩られるサラダと、ライスにスープと続かず茶碗にご飯
お椀には玉ねぎとじゃがいもの入った合わせ味噌の味噌汁だけど。
「当然でしょ。俺が作ったんだから」
美味しそうに食べてくれているが帝人君の事だ。きっとさっきの俺の発言をあれこれ
頭の中で考えているんだろうな。本当は食事なんて咽も通らないんじゃないかと
思っていてくれると嬉しいんだけど。
「本当に、本当に美味しいです、味も濃すぎず薄過ぎずで」
帝人君はぱくり、とハンバーグの一切れを口に運んだ。皿の肉はもう半分になっている。
「ありがと」
「臨也さんは器用ですよね、本当になんでも出来て、すごいです」
「一人暮らし長いからね、外食ばかりじゃ栄養偏るし、ちゃんと気にしているんだよ。
意外だった?」
「はい、正直外食ばかりかと」
「ああ、一緒にご飯食べてもいつも外食だったしね」
君好みの店ばかり選んでいたのはここだけの話だけど。
「けど俺だって万能じゃないさ。苦手なものだってないわけじゃない」
「ああ…ですよね」
何か思い当ったような声。聞かなくても直感的に何を考えていたのかぐらいわかる。
「あの単細胞の名前を口にしないでくれよ。折角の料理が不味くなる。
それにねあれは苦手じゃなくて嫌いなんだよあんな規格外の化け物」
「…本当に静雄さんの事嫌いなんですか?」
やや間があって囁かれたその問いかけに俺は心底嫌気が差した。
「は?」
帝人君は俯いてしまいもぐもぐと口を動かしている。
「嫌よ嫌よも好きの内って」
「言わないから。俺に使うことわざじゃないからそれ」
「そんな向きになって不機嫌にならなくても」
「帝人君がいけないんだよ」
「だって…」
まただ、帝人君は何か言いたそうな顔をするくせに、言わない。
「はい、この話はおしまい。名前出すの禁止。俺が好きなのは帝人君です」
「ま、またそういう事を…」
あ、頬が赤くなった。けど帝人君の視線はハンバーグに向けられている。
視線も合わせぬまま俺は残り最後の一切れになったハンバーグを口の中に放り込んだ。
「素直じゃないのは君だ」と言ってやりたい。
「ご、ごちそうさまでした!」
「はい、お粗末さまでした」
俺達はほぼ同時に手を合わせた。俺は空になった二人分の食器を持って流しに立った。
「あ、洗いものなら僕がやりますから」
「いいから今日は俺に任せて」
「でも」
「すぐに済むから」
帝人君は手を付いて立ち上がろうとするから声で立つなと意味を込めた。
「あの…すいません、それじゃ、お願いします…その、ついでにコップに一杯水を
汲んで頂けると助かります…すいません」
「謝りすぎ」
「ご、ごめんなさい」
「ほらまた」
「……あはは」
言われるがままコップに一杯水を汲んで手渡そうとしたら
テーブルの上には薬袋と錠剤とカプセルの薬があるじゃないか。
「ああ、これですか?ただの風邪薬ですよ」
帝人君は「ありがとうございます」と、コップを受け取ると薬を口の中に入れて
水と共にごくりと飲み込んだ。市販のものではない、薬局で処方されたものにしては
薬局名が表記されていない小さな白い袋に入っていた薬を。
「帝人君さ、もうちょっと気を付けなよ。足の怪我にしろ風邪にしろ体力なさすぎ、細すぎ」
「大丈夫ですよ、もう治りかけていましたから」
「ふーん」
「それに、今日は色々とありがとうございました。ご飯本当に美味しかったです。
手料理なんて久しぶりでしたから…」
食器を洗う音と共に背中から照れながらもちょっと嬉しそうに聞こえた。
「他には何かないかな」
「だ、大丈夫です、もう、平気です」
声には少し不安と動揺が混じっている。
「臨也さん、あの、その、今日はもう…」
どうも歯切れの悪い言い方だ。俺はきゅ、と蛇口を閉める。タオルで手を拭いてから