一日一ミハエルチャレンジ
２／１２ 豪烈
「うわあ、真っ白だな！」
朝起きると辺り一面が銀世界ってやつで、こんなに積もるのは滅多にないから俺はすぐにテンション急上昇ってやつになって、兄貴が呆れるのも構わずそこら辺を走り回った。
「おい、豪、上着くらい着ないと風邪引」
言いかけた兄貴に、足元の雪を引っ掴んで思い切り投げつける。
ぶ、とか変な声出して、兄貴の顔面から雪の塊がぽろりと落ちた。
「………豪…」
ひくり、と兄貴の眉と口元が動く。
来るぞ、と俺は半分以上わくわくしながらそれを待って、
「お前なあぁぁ!!」
ほらきた！
と、予想通りの展開に俺はにかりと笑って、また雪を引っ掴む。
そのまま兄弟対抗雪合戦になってお互いぼろぼろになった頃、
「あれえ、豪くん？」
座り込んで息を切らした俺に、道路の方から声がかかった。
「ミハエル」
何してんだこんなところで、と俺は疑問をそのまま口に出した。
別に、誰がどこにいようと自由なんだろうけど。
こんな家に近くでこいつを見たのは初めてだった。
「ちょっとね、散歩」
「散歩ぉ？」
「うん、雪、降ったし」
「なんだよ、お前も雪、珍しいのか？」
「え？ ううん、そうじゃないけど。久しぶりでちょっと嬉しかったから」
ドイツは毎年たくさん雪が積もるんだよ、とちょっとミハエルが嬉しそうにした。
「日本に来てからあんまり降らなかったから。ちょっと懐かしくて」
「ふーん」
ガイコクのことはよくわかんねえけど。
まあなんだ、とにかくこいつも俺とおんなじで雪が嬉しいってこと？
だったら、
「お前もやるか？」
「何を？」
「雪合戦」
ほら、と疲れてへたりこんだ兄貴を指差すと、
「お前、ミハエルくんを巻き込むなよ！」
「えー、いいじゃん人数多い方が楽しいし」
「俺はお前に巻き込まれただけだ！」
「何だよほんとは楽しいくせに」
「うるさい！」
これも兄弟ゲンカって言うのかわかんねえけど、兄貴とそんな会話してたら、思い切りあははと笑い声。
「仲、いいんだね、相変わらず」
「はあ？ 別に仲良くなんてねえよ」
くすくす笑うミハエルにちょっと眉をしかめると、
「いいね、楽しそう。僕も入れてもらおうかな！」
「！ そうこなくちゃな！」
よおし、と俺は肩をぶんぶん回して準備運動。
「行くぞ、覚悟しろよ、ミハエル！」
「望むところだよ！」
勝負事となると顔つきが変わるミハエルが、俺に不敵に微笑んでそうしたら俺もがぜんやる気になった。
初めは二人だけだったのに、いつの間にか雪をぶつけあう相手が増えていって、そうしてミハエルのとこのやつらが心配して探しにくるくらいの長い間、俺たちは雪を投げ合って遊んだのだった。
ああしてるとミハエルって、結構普通だよな。
ああいうあいつなら、俺、嫌いじゃねえかも。
なんて、な。
作品名：一日一ミハエルチャレンジ 作家名：ことかた