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みっふー♪
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かぐたんのよせなべ雑炊記

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付録・センセイのてつがくかふぇへようこそ☆+(プラス)



その日のてつがくかふぇはめずらしくそこそこ賑わいを見せていた。と言っても、客はほぼ100パー身内で固められていたのであったが。
てなわけで店内のふいんきryはいつも通りにだらだらまったりしていた。
♪カララン、
そこへ扉のベルが鳴った。
「ちわっす!」
入ってきたのはみつあみおさげの陽気なにーちゃんだった。カウンターにだらしなくダベっているアルアル娘とテイストの似た、テカテカ生地のチャイナ風衣装を着ている。
「マスター、折衷にんじんフレッシュ100パーね!」
手を上げてにーちゃんが言った。
「はっ?」
――天誅ぼうさつ? 聞き間違いにしては若干無理がありすぎるが、穏やかならぬ響きに天パの雇われマスターは眉を寄せた。
「えー、置いてねぇの折衷にんじん!」
――それくらい、たまには巷の流行マーケティングしろよマーケティングぅ〜、小賢しい文句タレながらもカウンター席にどっかと腰を下ろしたおさげにーちゃんは、――ニカ! 隣で静かに白湯を飲んでいた先生に笑いかけた。
「先生、先生はもちろん知ってますよね折衷にんじん?」
懐こい笑顔ではあったが、彼のその表情にはあからさまな挑発の色が隠されていた。先生は手元にことりと湯呑を置いた。
「冬季、収穫せず土中に埋められたままのにんじんは自ら体内のでんぷん質を糖に変え、細胞液濃度を上げて雪の冷気による凍結を防ごうとする、いわば一種の自己防衛本能ですが、それを人間の方で甘味が増したと美味しく頂いているアレですね」
にっこり笑って先生も返した。――さっすが、おさげにーちゃんがひゅーと使い古されたリアクションに口笛らしきものを吹いたが音程は完全にズレまくっていた。こーゆーセンスのなさって口笛吹いただけでも意外にわかるもんなんだなー、マスターは妙なところで感心した。
「いやぁ、俺が見込んだだけのことはありますよ、」
にーちゃんは満足げに頷くと先生に握手を求めた。先生は躊躇うことなく彼に応じた、むしろこっちから突き出してやりました、くらいの勢いで。
(……。)
――ぐっしゃぁ! カウンターの向こうでマスターはお徳用生絞りやさいジュースの紙パックを握り締めた。口笛ひとつまともに吹けねぇクソガキの分際で、てめぇその糸目で先生の何見込んだっつんだ何をだえぇこのヘラヘラ節穴野郎!
「……」
――よーしこーなったらやさいジュースにかるぺす混ぜてやるもんね、マスターは小物な嫌がらせを思いついてひとりほくそ笑んだ。
「あっマスター、折衷にんじんねぇならタダのにんじんジュースでいいや! あ、タダつって別に……、いやねぇ、どーしてもってそっちの誠意ならアレだけどっ」
――ねっ、にーちゃんが先生を見てニッと笑った。ふぅと小さな息を吐いて先生がマスターに告げた。
「……そういうことですから、ここは私にツケといてください」
髪を揺らした先生の表情はかろうじてまだ笑顔を保っていた。
「えっ」
そんな、大したレベルでもないダジャレだったのに、マスターは仰天した。持っていたカルペスの大びんを取り落しそうになった。
「わぁ、あつかましい……」
あーゆーのが“モン客”ってやつですかねぇ、カウンター席の端で事の成り行きを窺っていたメガネ少年が思わず呟いた。しかしすぐに連れのチャイナ少女の存在に気が付くと、慌ててホットミルクのカップを啜るふりをする。
「オイ、オマエのにーちゃんだろなんとかしろよっ」
――先生礼儀にゃうるさいんだ、ありゃぜってー腹ン中相当イカってんぞ、マスターは引き攣り笑いを浮かべながらカウンター越しに屈み込み、アルアル少女に小声で耳打ちした。固めた無の表情にアルアル少女は言った、
「知らないね。ワタシ、ものごころついたときから箱入りひとりっ子アル、」
――だからホラ、いつでもドコでもひとりじょうず〜、アルアル少女はストローの袋に水を垂らし、♪い〜もむし〜ぐーねぐね、暗い遊びを始めてしまった。――わうっ! 少女の足元に丸まっていたワン公が、ボクは今から熟睡しますよ、今後一切構わないでね、宣誓通り即行寝に入った。
(……。)
――ったくどいつもこいつも、マスターは眉を顰めた。
「……ところで先生、」
カウンターににんじんカルペスが出てくるのを待つ間、おさげにーちゃんがさらりと爆弾発言した、
「先生は若いオトコに興味がないって本当ですか?」
――モッパおっさん専科ってウワサじゃないすかー、にーちゃんの口の利き方にはデリカシーってもんが欠片も見当たらない、
「――、」
マスターは厨房の平らな床でガッとつんのめった。先生は自席で一口白湯を啜った。
「どうでしょう? そういう君はあるんですか?」
――にっこり、完璧に作り込んだ笑顔で先生が言った。
「わぁ、いよいよケンアクだよっ」
ボク心臓が、メガネ少年がうっと心臓を押さえた。チャイナ少女は二匹のストローいもむしさんをおでこごっつんこさせて妄想の会話を楽しんでいた。我関せず、ワン公はすやすや平和な寝息を立てている。
「そりゃ俺はホラ、はくあい主義者なんでー、ろうにゃくなんにょ全方向オールオッケーっすよ!」
――ニカ! こちらもまた、“老若男女”を一切噛まなかったおさげにーちゃんの笑顔には迷いも曇りひとつなかった。……ウン、絶対だけどあいつアホだな、しかもちょこっと噛んでみせるっつー可愛げもありゃしねぇ、貼り付いた床からよいしょとカウンターに縋って立ち上がりながらマスターは思った。
「それは素晴らしい、」
――人間の鑑ですね、肩を揺らして先生が言った。よぉっく気をつけて見ると(なんせ愛の力なんで)、湯呑を持つ手がマイクロウェーブ的なカンジで微かに震えているのがわかる。
「ちょっとマスター、にんじんフレッシュまだぁ?」
カウンターに身を乗り出したにーちゃんが手を上げて催促した。何だかもう、小さいイヤガラセとかそーゆー段階じゃないなと察したマスターはタンブラーに注いだやさいジュースをそのままカウンターに滑らせた。
「……てゆーか先生、」
到着したにんじん生絞りを一息にあおいでおさげにーちゃんが言った、
「思うんですけどぉ、それって単に若さに対するシットなんじゃないスかぁ〜?」
――ホラたとえば俺みたいな前途有望ぴっちぴちの、空になったタンブラーを振ってにーちゃんが無責任にカラカラ笑う。
「……なぁ、アイツもしかしてにんじんで酔ってんのか?」
マスターが再びチャイナ少女に耳打ちした。アルアル少女は首を振った。どこまでも自分は生粋のひとりっ子である、幻想の虚構を貫き通す心づもりであるらしい。