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真選組内部事情

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土方の苦悩



 未だかつてこれほど自分が不幸だと思ったことはなかった。
 俺は不幸体質だと言われることがある。
 自分から面倒事に首を突っ込む趣味は持ち合わせていないつもりだが、俺の周りには厄介事製造器のような奴がいるのだ、うやむやのうちに巻き込まれて手を出してしまったことは片手では足りない。最後まで見て見ぬ振りというのは、なかなか難しいのだ。その辺が不幸体質と言われる所以だろうけど、甚だ不本意だ。
 昔からその片鱗はあったはずだが、真選組が出来てから顕著になったのか最近そんな風に言われることが多い気がする。主にそれは古くから道場にいた奴等に言われるのだが、原因として二割ぐらいは性分だから仕方がないとも思うけど、残りの八割は間違いなくアイツのせいだと俺は信じて疑わない。俺の不幸の元はアイツで決まりだ。
 でも、他人からどれだけ不幸体質だと言われようとも、俺は実際に不幸だと感じたことはなかった。つい先日までは。
 今まで俺の厄介事の陰にはほぼ必ずと言っても間違いじゃないぐらいアイツの悪巧みがあったんだが、今回、本人にその気がなくてもアイツは俺を不幸へと導く要因なんだと思い知らされた。


 昨日のことだ。
 俺はいつも通り隊務の一環として書類と格闘していた。特に大きい事件もなく討入りの予定もなかったが、少しばかり未処理の書類が溜まっていたので見回りを止めて副長室に篭もっていたのだ。
 ある程度の目処が立った所で、腹がすいたことに気がついた。集中すると食べることを忘れがちになるのは悪い癖だと思っているが、なかなか直るものではない。何か残っていないかと思い、食堂へと廊下を歩いていると見慣れた姿を見つけた。その見知った後ろ姿に思わず俺は声をかける。
「な……っに、やってんだ、お前」
 俺の声に総悟の奴は振り返って足を止める。連れ立っていた一番隊の連中もつられて立ち止まった。どうやら一番隊の連中と珍しく真面目に見回りに行くようだ。いやでも、それはまずいだろう。色々と。
「何か用ですか。俺はこれから見回りという崇高な任務に向かう所なんでさァ」
「その格好でか。今度はどんな冗談だ」
 コイツの考えることは本当にわからない。俺には一ミリだって理解できない気がする。俺の脱力しそうな気持ちは置いてきぼりで総悟は続けた。
「その格好って。いつもの格好じゃねぇですか」
 なぁと隣に声をかける様子はいつも通りで、声をかけられた方だってそうですねと頷いている。なんだ、あれか。どっきりか。こっちは好きでもない紙仕事をやって、ただでさえ疲れてるってのに、そんな俺を捕まえて、他の隊士まで巻き込んでお前は何がしたいんだ総悟。
「お前らな……俺をからかう為だけに隊の評判貶めようたァ、どういう了見だ」
 総悟の頭に視線を注ぎながら口にする言葉に、疲れが滲むのはどうしたって隠せないし隠す気もなかった。むしろ少しは伝わって欲しい。俺ばかりが心労を溜め込むってのは納得がいかない。
「いったい何のこと言ってんですかィ。そんなに寝癖酷いですか」
 俺の言葉と視線の意味を間違って解釈した総悟は、手で髪をなでつけている。そうか、読めたぞ。どうあっても、俺にあの単語を言わせたいのか。くそ、思い通りになんてなってやるもんかと心に固く誓う。
 色々と心の内で算段をつけていると、そんじゃ俺行きますんでとあっさりと踵を返すものだから、ちょっと驚いた。が、それ以上に総悟の後ろ姿に驚かされた。お前……!
 そこまでやるかと、呆れ半分怒り半分、それを引きちぎってやる勢いで手を伸ばした。が、そこにある筈の感触が全く得られず、俺の手は虚しく空気を掴んだだけだった。
 俺は自分の手と、総悟のオプションとして存在している奇妙な獣の耳と尻尾を交互に見て呆然とした。

作品名:真選組内部事情 作家名:高梨チナ