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真選組内部事情

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 俺は理屈で説明できないことが好きじゃない。
 別に世の中の全てが説明できるなんて思っちゃいないが、そこは好き嫌いには関係ない。
 天人が来て以来、今までは怪奇現象にしか見えなかったことが当たり前のように日常へ溶け込んでしまった。だが、奴等の技術をもってしても解明できないことはやっぱりあるようだ。今回、俺の身に起きたこともそのうちの一つだろう。
 信じられないことだが、俺は総悟の頭に耳、尻に尻尾が見えるようになってしまったらしい。
 質の悪い悪戯だと思った。そりゃそうだ、耳と尻尾が生えたなんて普通は思わない、誰だって担がれてると思うだろ。総悟にしてはやけに身体を張ったことをするなと思ったし、屯所ぐるみで俺を騙そうとするなんていい度胸だと思った。だけど考えてみれば、総悟はともかく他の連中に俺を延々と騙し続ける度胸なんてないのだ。
 最初に触れようとした時、そこにある筈のものが掴めなくて困惑した。何かの間違いだと思い、何気ない風を装って総悟の耳と尻尾に触れようとしたが、やっぱりそれは実体を伴っていないようだった。
 寝たら治るかなとも思った。むしろ夢じゃないかと。だけど、そんな希望はことごとく砕け散った。それはもう見事なまでにあっさりと。
 数日が過ぎても一向に回復の兆しすら見せないことに焦りを覚えた俺は悩んだ末、医者に見てもらうことにした。こんな内容をまさか真選組お抱えの医師に話せる訳もなく、一人かぶき町の外れにあるこぢんまりとした町医者に足を運んだ。
 医者はかなり年をとっており、天人が持ち込んだテレビなどには興味がないというので、都合が良かった。真選組副長の頭がイカれたかもしれないなんて、攘夷派の連中に漏れた時を思うと頭が痛い。土方という名前は珍しい部類に入る名前で数も多くないだろうから、念のためにと偽名を使った。当然保険証なんて使う訳がないので、バレる心配もない。全額実費になるのが少々痛いが、背に腹はかえられない。むしろ、金で解決できるもんならいくらでも払いたい心境だった。
 その医者によると、目や脳にこれといった問題は見られないので、心因性だろうとの診断だった。俺は別に原因が聞きたい訳じゃなくて、解決方法を聞きたいのだと詰め寄ったが、たかが耳と尻尾が見えるぐらい(しかも一人限定だ)さして問題じゃないだろうと言われてしまった。別段問題がある訳ではないのだから、気にせずあるがままを受け止めて、普通に過ごせばいいということだった。そういうことが気になるような性分だから、こういった症状が出るのかもしれないと言われてしまったら、普通気になるだろ耳と尻尾だぞ!? と心の中で思っても、何も言えなくなってしまったのだった。

 医者に言われたからという訳ではないが、とりあえず俺は現状を認めることから始めた。問題はないだろうと医者は言ったが、大ありだ。とにかく早く慣れるか治るかしないと俺の精神が持たないと思った。
 総悟に生えた耳と尻尾。頭に生えた総悟の髪と同色のそれは、先っぽが少し尖っていて犬か狐のそれみたいだ。尻尾もやっぱり色は髪と同じだけど、見ただけでもふさふさとしていて毛並みが良く、触ると気持ち良さそうだった。
 そして、よく観察してみるとどう見ても作り物ではないということが、わかってしまった。何故かというと、動くのだ。耳が。尻尾が。獣のそれのように、総悟の感情に左右されて動いているように見えた。まぁ、この場合は総悟の感情というか、俺が考える総悟の感情と言った方が正しいんだろう。俺の脳が狂ったせいで見せている幻覚なら、そういうことになる。
 最近、総悟とは何となくつかず離れずの距離を保っている。病気が治ったかどうかは総悟を見なければわからないので気になるのだが、見たら見たで落胆するのだ。
 総悟に耳と尻尾が生えたからって別に落ち込むことじゃない。何が一番堪えるって、たとえ病気でも、よりによってあの総悟に、そんなもんが生えていると思っただろう自分の思考回路。
 誓って言うが、俺は一度だって総悟にそんなもんが生えてたらなんて思ったことはない。だいたい、最近流行りの萌え産業だか何だか知らねぇが、俺はたとえ女でも耳や尻尾が生えて欲しいなんて思ったことは一度だってない。
 そんなことを考えながら庭の片隅で煙草を吸い、やっぱり遠巻きに総悟を観察する。近藤さんに話しかけている総悟の表情はいつも通り平坦だったけが、遠目に見てもわかるぐらい尻尾が激しく左右に振れていた。
 その様子を見て俺は、総悟の耳と尻尾は犬のだなと確信した。ンなこと確信したってしょうがないんだが。

作品名:真選組内部事情 作家名:高梨チナ