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これでおしまい

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03: 零 下 3 0 ℃ の 愛 情 の 果 て




その日は珍しく、バチカルに雪が降った。
子どもは窓を開けず、ただ降ってくるその白いものに目を向け、ゆらゆらとベッドの上に座り揺れて、口を開けて見ていた。
そのうちそれに触れたくなったのか、四つん這いでずるずるとシーツを引き摺りながらベッドを落下するように降り、窓に手を伸ばすが、少し力が足りなくて開かなかった。
それでも諦めずに腕をいっぱいいっぱい伸ばしていると、急に窓が向こう側から開いて、子どもは目を瞬く。
「うおっ。る、ルーク様。なにしてるんですか」
窓を開けた少年も驚いた。なんでこんなとこに、と戸惑ったように窓枠に手をかけると腕に力を入れて飛び上がった。
窓の外から見えた金色。ついでに見えた青に、子どもは嬉しそうに声をあげて両手を伸ばしてはしゃいだ。
その拍子にずるずると壁を伝って力なく横たわる。
足にいまひとつ力がうまく入れられないので立つことがまだ難しい子どもは、がいー、と拙い発音で言葉で少年を呼び、少年は慌てて窓を飛び越えて、子どもを助け起こした。
がい、つめたい。
子どもが少年の腕に掴まってそう呟くと、少年は申し訳ないように眉を下げて、子どもをベッドサイドまで起こし、座らせた。その少しだけ抱え上げた拍子に、少年の髪に積もっていた白いものが落ち、子どもは手にする。すぐに消えて水になったそれに、子どもは目を輝かせた。
「がいっ、きえた! しろいの!」
「白い……って、ああ。本当に覚えてないんだな」
少年の語尾はほとんど独り言のようなもので、子どもには分かりかねた。
首を傾げて少年を見上げると、少年は無表情で窓の方に視線を走らせた。それになんらなにも思わない子どもは、がい、と少年を呼ぶ。それでもその響きは、不安気に揺れて聞こえた。
「ルーク様、あれは、雪っていうんですよ」
「ゆき」
「そう、雪です」
そうして、ベッドサイドに座らせた子どもを、少年はわざわざまた抱え、抱き上げた。
うあ、と声を上げる子ども無視し、窓枠にある花瓶たちを片手で器用に退け、空いた場所に子どもをゆっくりと下ろした。子どもは物珍しそうに窓の外を見上げるだけなものだから、少年はそっと子どもの手を取って、伸ばさせた。それに子どもは驚いたけれど何も抵抗することなく、自分の手首を持つ少年の手の冷たさに、ただ目を瞬かせていた。
そのうち、雪のひとひらが子どもの手に乗り、すぐ溶けた。子どもははしゃいで、少年に笑った。
「がい、ゆき、きえた」
「それは、消えたんじゃなくて、溶けたんですよ。水に」
「みず、のむ? なんで」
子どもは少年を見る。まだ少年の手は子どもの手首に添えられたままで、少年は子どもを見て、答えた。
「あたたかいから」
子どもは呆然として少年を見つめ、緑の大きな目を瞬かせてから、にこりと急に笑った。少年は驚いたように子どもから手を離し、どうしました、と冷めた声で訊ねた。
「がい、つめたい」
これはどういう意味なのだろう、と少年は眉を寄せた。
言葉をやっとまともに話せるようになったのだけど、まだ意思疎通ということがうまく出来ないでいることにもどかしさを感じる。憎い、という感情を間違って通り越したように、腹が立った。
それなのに、子どもは一人嬉しそうに少年に抱きつくように腕を伸ばしてきたので、仕方なく、少年はその手を取る。
その少年の手は冷たく、これならきっと雪は溶けないのだと、ただそれだけが嬉しくて、ルークは抱きしめてくれる腕に笑い、そう子どもながらに思ったのを、この少年は知らない。


作品名:これでおしまい 作家名:水乃