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帝国の薔薇

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序幕



――?女王の御世は栄える?――


 …古くからそんな言い回しがあり、確かにそれはアメストリスの歴史をひもとけば事実ではあった。だからその当時、実際は、彼女の即位を歓迎する空気さえあれ、忌避する動きはほとんどなかったといえる。
 しかし、だからといって誰が予想しえたであろうか。
そもそも王位継承権は四位であったその王女は、なんと、半ば革命に近い形で王冠をもぎとると、即位と同時に帝国の建国を宣言したのである。そもそも奪い取ったことからして多くの者にとって予想外の展開だった。
 そしてアメストリスが王国から帝国へ、女王が女帝となったその日。アメストリス帝国の大拡大が始まった。それまで牧歌的なところさえあったその国は、彼女という大きな存在を得てがらりと姿を変えたのだ。
 そして、女帝自らが指揮を執った歴史に名高いブリッグズ山の戦いを皮切りに、アメストリスの不敗神話は今なお破られる気配はない。

 しかし近年、未だ独身である女帝の後継者問題が帝室内ではひそかな問題となっている。女帝はまだなお女盛りではあるものの、ほとんど全ての政務が彼女の双肩にかかってくる状況と、女帝であるがゆえの婚姻の難しさ、つまりは従順で賢い婿などそうそういないという現実の前にはあまり楽観してもいられないというのが実情だった。版図を拡大した今のアメストリスの絶頂が女帝ひとりの身に掛かっているとあってはなおさらに。ここで躓けば全てが終わるのだから。
 だが、歴代随一の勇猛を誇る女帝に面と向かってそんな勇気ある発言が出来る人間は皆無だった。皆わが身は可愛いものだ。とはいえアメストリスの国民なり帝室の人間は幸運だった。誰がそれを言わずとも、女帝本人がその事実を誰より理解していたのだから。そして、誰の手を煩わせることもなく、さっさと後継を選んでしまったのだから。
…もしかしたら、幾らかは、連日に渡る婿入り争奪戦争が鬱陶しかったのかもしれないが。

 そして、所は女帝の私室。彼女の前には、幼げな雰囲気の少女がかしこまっていた。女帝は豪奢ではあるもののゆったりした服を纏い、面白そうに目を細め、少女に短く命を与えた。ちなみに、彼女達の他にその部屋にいるのは、女帝の懐刀として知られるマイルズという男がひとりだけだった。
「は…?」
金色の大きな瞳を瞬かせ、まだあどけない、丸い頬をした少女は首を傾げた。そんな稚い反応に、アメストリスの雌虎とも雪の女王とも恐れられる、勇猛の女帝がくつくつと喉奥を鳴らす。
「おまえが次の女帝だ」
彼女は上機嫌に、にいと口角を吊り上げ笑うと、姪姫の顎に指をかけ上向かせて告げる。
「拒否権は勿論ない」
ぽかんとした顔の姪姫に、しかし女帝は相変わらず機嫌よく続けた。
「だが私もおまえのことは可愛いと思っているんだ。せめて夫を選ぶ権利はくれてやろう」
「…え? あの、…おねえさま?」
その昔「おばさま」と呼びかけて殺されそうになって以来の呼び方をすれば、女帝は肉感的な唇を笑みの形に吊り上げた。
「ああ、そうだ、おまえに肩書もやらなければ。明日から近衛をおまえに預ける。――マイルズ!エドワードの採寸急がせろ。顔見せもしなければならん、日程はおまえにまかせる」
「御意」
「…近衛?!」
「不満か」
姪姫、エドワードはぶんぶんと首を振った。名付け親でもある叔母女帝の気性をよくよく知っているせいもあるが、近衛といえば軍の花形。元来お転婆の過ぎる姫にはこの上なく魅力的な肩書であったのも大きい。
「…ありがたき幸せ!」
噛みそうになりながら高く澄んだ声で返した姫に、叔母女帝は目を細めて笑った。獰猛さを秘めた、それでも包容力ある笑みだった。


 これがそののち「帝国の薔薇」と呼ばれることになる一人の姫の物語の始まりだった。

作品名:帝国の薔薇 作家名:スサ