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物体もじ。
物体もじ。
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ロックマンシリーズ詰め合わせ

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01/はじめまして (ロックマンX・エックス)



「あなたはどなたですか?」



 声を出してから確認する。

 音声出力機構、問題なし。他に何か異常はないか? 自己診断(セルフチェック)スタート。


 基盤そのもののような緑の瞳の奥に流れ出す数値を隠し、ことんと首を傾げて目前の人間を見やる。

 白く長い髭と、禿頭。纏う白衣は―――



「わしは、ケイン。Dr.ケインと呼んでくれればいい」



 ドクター。科学者。体内に在るデータベースの中、警戒すべき符合に思考回路(システム)が全力起動を開始する。

 自己診断を簡易モードにシフト。受動機構を最優先に、済んだものから情報の収集を。


 人の五感を模した感覚が、たちまち周囲の状況をクリアにする。


 見慣れぬ様式の部屋、施設。少なくとも10年単位で時間が経過していると推定。

 けれどそれは短過ぎはしないだろうか?


 駆動系、チェック完了、全システムオールグリーン。



「―――俺を、起こしたのですね。Dr.のメッセージについては?」

「無論、読ませてもらった」

「それでも、起こしたというんですね」



 ゆっくりと身体を起こす。寝かされた調整台からいくつかコードが伸びて自分に繋がっていたけれど、動きを阻害するものではない。

 ちらりと走らせた視線の先で何かのモニターに表示されているデータを読み取る。自分のデータ。コンセプトとスペック。並んで開かれた造り主からのメッセージ。


 そうあるべく造られた回路が、早速使命を果たし始める。擬似脳内麻薬でも分泌されているのではないかと錯覚してしまいそうな、その速やかさ。

 自分は、目覚めてしまったのだ。そして、わざわざ目覚めさせた以上、この科学者には、再び自分を眠らせるつもりなどないのだろう。


 何かが、起こりでもしない限りは。



「俺の名は、エックス。ROCKMAN−X。初めまして、Dr.ケイン」



 ふと、回路をめぐる電子の一片が、おかしな感覚を伝えてきた。

 どこか自分の奥深く、そこに埋め込まれたメッセージを引っかくように、もどかしさだけが胸を浸し始める。


 そう、自分は、目覚めたのだ。


 自分が目覚めたのなら、それならば―――



「……W……y……Num……」



 ぽつりと声が漏れる。制御系のどこからも命令は出ていないはずなのに、小さなつぶやきは確かに空気を揺らした。


 自分に与えられた色とはまさに対照的な、鮮やかに燃える色をした影が、データベースを過ぎる。

 覚える衝動、誰かの名を呼びかけて、すぐにその名を知らないことに気づく。

 一体、誰に呼びかけようと言うのだろう。自分が眠ったのは遥かに昔、すでにこの世界に、自分が知っている存在も、自分を知っている存在もありはしない。


 唯一のものとして、未来へと残された未知数(アンノウン)、それが自分(X)。


 期待を宿した目で見つめる科学者、それだけで、早すぎる目覚めを疑うには十分。それなのに、今このときの目覚めこそが必然と、どこかで感じる自分がいる。

 何も持たぬ蛭る子の自分に、何を期待しているのか。



「エックス」



 喜びに震える声で呼ばれ、やはり違うと感じた。

 もし必然の目覚めであったとしても、彼は、この科学者は違う。


 では、何なのだ。自分が目覚めなければならない、何がこの世界にあると言うのだろう。



「何でしょう」



 応えながら、視界の端で、モニターに映る造り主の遺言を、頭の中で繰り返す。



『エックスは―――』



 自分が目覚めたことの答えは、誰が、いつ、出してくれるだろうか。