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物体もじ。
物体もじ。
novelistID. 17678
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幻水短編詰め合わせ(主に坊さま)

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admoni (坊さまとルック)







 一面、雪だった。それ以外なくて、当然、色は白一色のはずなのに、あまりにも厚く降り積もったせいか灰色にも見えて、でもやっぱり白だった。



「死にたいの」



 雪と同じように、降ってくる言葉。今まで誰もいなかったはずの空間に、何の違和感も抵抗もなく現れて、言いたいことを言いたいように言う。

 その言葉が、雪と一緒に自分の上に降り積もって、自分を隠してくれたら、なんていいだろう。



「ただでさえ鬱陶しい存在なんだから。余計な手間をかけさせないで」



 そうだな。

 応えたはずの声は、降り積もる雪に吸われてすぐになくなってしまう。温度に溶ける代わりに言葉を溶かして、雪は自分の上にも彼の上にも、平等に積もっていく。



「僕には凍死の趣味も野たれ死ぬつもりもないけれど。きみは、帰るの、帰らないの」



 一面の雪は、視界をまっしろに染める。貴婦人が好むレースよりは見通しがいはずなのに、間断なく降る雪に閉ざされて、彼の姿が見えない。それなのに、声だけが届く。

 何て、心地好い。



「死にたいの」



 もう一度だけ、というふうに、彼は聞いた。雪の向こうから、雪に声を吸われてしまわないように。


 もし、是、と応えたなら、きっと彼は、このままこの場所に、置き去りにしてくれるのだろうか。このまま、雪に、この存在を閉ざすことをゆるしてくれるのだろうか。

 そんなことは、



「別に」



 絶対に、言わないけれど。