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SLAMDUNK 7×14 作品

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恋のおまじない





勢いをつけすぎて、教室を通り越してしまった。
つま先を踏ん張って急ブレーキをかけてから、回れ右をして目的の場所へと踏み込んだ。
「三井サン!!!!!」
ぜーぜーと肩で息をして叫ぶ下級生はさぞかし不気味だろうが、そんな周りの冷たい目
になんて構っている場合ではない。
それに、息が苦しいのは走ってきたからではなく、この教室で行われているだろう儀式
のことを思ってなんだから。
「みやぎ?」
声のしたほうに顔を向けると、廊下側の一番後ろの席で、三井サンはくりっとした茶色
い目を大きく見開いていた。
咄嗟にその手元をみると。
ああ! やっぱり!!
その左手にはしっかりとオレの物だった消しゴムが握られていて、右手にはちゃっかり
油性ペンを握っている。
「ちょ、ちょっとストップ!」
卒倒しそうになった自分を押しとどめて、すっかり静かになってしまったらクラスの中
を進んだ。
「何なの、オマエ?」
怪訝そうに伺う視線を受けて、それはこっちのセリフだと心の中で突っ込む。
さっきとは逆に見下ろす立場になったオレは、思いっきり冷たく言い放った。
「消しゴム返せ」
その言葉にハッとした三井サンは油性ペンを放り投げ、両手でぎゅうっと消しゴムを握
り隠した。
「イヤダ!! コレはオレのもんだ!!!」
子どもみたいなその仕草に思わずふっと気が緩みそうになって、しっかりしろよと自分
を叱咤する。
「いいから、返せって言ってんだろ!」
指を開かせようと掴みかかって、ふんっと力を込めると、なめんな、と三井サンが力を
入れて握り返す。
因縁浅からぬオレたちの暴挙に、周りは息を飲んで行方を見守っていた。
「いやだいやだ! 何で今さらそんなコト言うんだ、さっきはくれるっていったじゃね
ーかっ」
「事情が変わったんだよ。いいからさっさと手を開け!」
痛い、と三井サンが言った。しまった、と思ってオレは体を離す。
この人の指にはバスケ部の夏が懸かっているんだと気づいて、焦った。
「ダイジョブですか、三井サン! すんません、オレ、力入れすぎて…」
どうしよう! この人の指になんかあったら。それが元でまたグレて、部活に来なくな
ったりしたらどうしよう!?
「…いや、そこまでたいした事じゃ…」
言いながら、緩んだ指の合間にある消しゴムが見えた。
―――コイツ、もう書いてやがる!!!!
消しゴムにはすでに、『み』と『や』の二文字がでかでかと乗っかっていた。
血の気が引いていくのを感じながら、その意外に細い手首を掴んだ。
「お願い、三井サン、消しゴム返して」
真剣な顔をしてそう言うと、途端に困った顔をして俯いた。
「でも、おまじないが…」
ぼそっと呟く声を聞いて、やっぱりそうだったのかと叫びだしたい衝動に駆られた。
それを持てる限りの理性で制し、フル回転して対策を考える。
とにかく、なにがんでも、この人から消しゴムを取り返さなければならない。最悪、ま
た病院送りにすることになっても。最優先すべきは全国ではなく、今そこにある危機な
のだ。
さっきとは矛盾した考えにも気づかないほどテンパったオレの脳みそは、あるひとつの
解決策を見出した。
「三井サン…。おまじないなら、叶ってるじゃん」
「…………え」
呆然とした面持ちでオレの顔を見上げる三井サン。瞳の中にはオレしか映ってなくて、
それがなんとも言えず快感だった。
「だから、消しゴムはもう必要ないデショ?」
優しく諭すように囁くと、そっぽを向きながら三井サンはオレに手を差し出した。
はあ。コレで何とか、【消しゴムに名前を書いて両思い作戦】は阻止できた。
良かった……。
なんとなく教室の中全体の温度が下がったみたいな気がして回りを見渡すけれど、もは
や誰もこっちを見てはいなかった。

授業中にふと、汚い字で『みや』と記されたそれに目が行って、オレは頬が緩むのを自
覚した。
いやだ、なんつってワガママ言って。結構可愛かったな、と。

取り返すことで頭がいっぱいだったオレが、自分の言葉の意味に気付いたのは、目を輝
かせた三井サンが、お昼休みにオレを迎えに来たときだった。











作品名:SLAMDUNK 7×14 作品 作家名:鎖霧