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ハガレン短編集【ロイエド前提】

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天使





「夢を観たんだ。」


いつものバーのカウンターで、ヒューズが言った。


「夕焼けの綺麗な空を背に、百合の花を手にした何人もの天使が丘の上に立って賛美歌を歌ってる夢だ。
天使達の真ん中に誰かが横たわっているみたいなんだが、それは誰だか解らねえ。じきに雲間から光が
射して天使達はその誰かを連れて天へ帰って行くんだ。ありゃあ葬列だなと、夢の中で俺は思ったんだ。」


からん、と、ヒューズのグラスの中の氷が音を立てた。


「天使の葬列を観たと?」


自分のグラスを弄びながらヒューズに問うと、ヒューズは「幻想的だったぜ」と言って、笑った。


「誰か逝っちまうのかも知れねぇな。」


紡がれた言葉に、思わずヒューズを観る。


「安心しな。お前じゃ、ねぇよ。」


そう言って、ヒューズはまた、笑った。


「お前は最後まで見届けなきゃならねぇだろ。」


何の最後だと、聞こうとしたが、私は何故か聞く事が出来なかった。


「お前は大丈夫さ。お前の周りの奴等が、お前を護ってくれる。」


周り…


「それは、お前も入っているのか?」


私の言葉に、ヒューズは瞳を大きく見開き、「当たり前だろ」と大袈裟に言って見せた。


「俺はお前が動き易いように、お前を助ける事が自分の役目だと思っているからな。」


そう言いながら、ヒューズはグラスに口を付けた。

こくり、と、ヒューズの喉が小さく動く。

店内の薄暗さのせいか、ヒューズの表情が良く読み取れない。


「お前こそ…」


小さく口を開く。


「私より先に…逝くなよ…」


ヒューズはグラスを呷り掛けた手を止め、私を観ると、「当たり前じゃねぇか」と、言葉を返した。





お前は…自分の葬列の夢を観たと言うのか…



墓地に静かに納められて行く棺を見送りながら、私は心の中で言葉を紡いだ。


「・・・・・・ママ」


不意に参列者の中から、あどけない声が聞こえた。


「どうしてパパ埋めちゃうの?」


その言葉に、その声の主がヒューズの娘だと把握する。

確かエリシアと言った。

エリシアは、ヒューズを何故埋めてしまうのかと、しきりに母親に聞いていた。


「パパおしごといっぱいあるって言ってたもん」


父親の死を解っていない幼い少女の言葉は、その場に居た全ての者達の胸を締め付けた。




ヒューズの墓標の前に立ち、そこに刻まれた名を見つめる。


本当に・・・私よりも先に逝ってしまったのだな・・・


「私の下について助力すると言っていた奴が私より上に行ってどうするんだ・・・馬鹿者が・・・」


ぽつり、とそう言葉を紡いだ時、ホークアイ中尉が私を呼んだ。

気遣うような瞳が、私を見上げる。

ホークアイ中尉と言葉を交わし、帽子を被り直してふと空に視線を向けた時。

私は一瞬、自分の目を疑った。


あれは・・・


それは白い煙の様にふわふわと揺れて、ゆっくりと空に上って行った。


『天使の葬列を観たと?』

『誰か逝っちまうのかも知れねぇな。』


そんな会話が、脳裏を過った。

途端に、視界が霞む。


あぁ・・・いけない・・・


「雨が降って来たな」


そう、言葉を紡ぐと、ホークアイ中尉は空を見上げた。


「雨なんて降って・・・」


ホークアイ中尉が途中で言いかけた言葉を止める。


「いや・・・雨だよ・・・」


頬を伝う、温かな雫。

ほんの少し間を置いて、ホークアイ中尉は「・・・そうですね」と、やや沈んだ声で呟いた。

ここは冷えるからと私を気遣うように言葉を紡がれ、私は墓地を後にした。


あれは、私の心が見せた幻だったのかも知れない。

だが、本当にああやって天に召されて行ったのならいいのにと、ふと、思った。


観ていてくれ、ヒューズ。

私はどんな事をしても上層部に喰らい付いて見せる。

必ずお前の仇も、取ってやる。


そうして私はまた、真っ直ぐと前を見据えた。


                                     Fin.