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ハガレン短編集【ロイエド前提】

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今だけは背中を見ててあげるけど、いつかは 〜Winry Rockbell〜





「ふぅ」


たった今届いたばかりの新しい部品の箱をテーブルの横に置き、額に滲んだ汗を拭う。

これでいつエドが戻って来ても機械鎧を最高の出来にしてあげられる。

そう考えて頬を緩めた私は、同時にほんの少し淋しさを感じた。

ひょっこり帰って来たかと思えば機械鎧の修理。

それ以外にあいつがここを訪れる事は無い。

帰って来ても何処で何をしていたかなんて、私にはこれっぽっちも教えてくれない。

唯一軍の情報を得られるラジオでも、たまに何処かの街に現れたとか、そんな小さな事しか解らない。


「こんなに心配してるってのに」


思わず口をついて出た言葉に、私は苦笑した。

何だか自分が弱くなったみたいな気がして。

私はぶんぶんと首を振ると気合いを入れ直すように両手で自分の頬を叩いた。


「駄目よウィンリィ!」


突然上がった私の声に驚いたように、傍で寝そべっていたデンが顔を上げた。

どうしたのかと私の様子を伺うようなデンに、私は何でも無いよと微笑って見せた。




その日は、散々だった。

自分で床に置いたスパナに躓くわ、ボルトをぶちまけて足を滑らすわ、修理品の機械鎧にワッシャーを嵌め
忘れるわ、六角レンチを床の隙間に落としてしまうわ、それはそれは絶好調に不調だった。


「全く、どうしたんだい?」


呆れたようにばっちゃんに言われて、唯小さく「ごめん…」としか言えなかった。

シャワーを浴び、ベッドに身を投げ出して、全部あいつの所為よと喉の奥で呟くと、ほんの少し気が抜けた。


「ほんと…弱くなったなぁ…」


枕に顔を埋めながら言葉を零す。

暫くそうしているうちに、外から何時の間にか虫の声が聞こえ始めていた。

まだ夏が続いていると思っていたのに、もう秋の虫が姿を現している。

私は身を起こし、ぼんやりと窓の外を眺めた。

ベランダからランプの灯りを点滅させてエドとアルを呼んだ事を思い出す。

そんなに昔の事じゃ無い筈なのに、もう遥か遠い思い出になってしまっている気がした。

気が付けば、私はエド達と過ごした記憶を思い出そうとしていた。

一生懸命に。


野原を駆け回って泥だらけになって 家に帰ってたくさん叱られた。

探検をしようと川沿いの山道を歩いて 気が付けば道に迷って泣いた。

鉛色の空を見上げながら 丘の上の木の下で雨が止むのを待った。

風で飛んだお気に入りの麦藁帽子を見失って泣いていたら 何時の間にかエドが観付けてくれていた。

麦藁帽子を差し出したエドは全身ずぶ濡れで 川に落ちていたのをわざわざ拾ってくれたのだと気付いた。


沢山、沢山。

色んな事を、思い出した。