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ハガレン短編集【ロイエド前提】

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寝顔





悔しい事に。

エドはロイの寝顔と言う物を観た事が無い。

ベッドを共にする事は、少なくは無い。

だが、いつも最初に眠りに落ちてしまうのは決まってエドで、最初に目覚めるのは決まってロイだった。

しかも真夜中にエドが悪夢に魘された時、エドが落ち着くまで付いてくれる。

それなのに疲れた様子も見せずいつもけろりとしているのだ。

一度くらいは寝トボケたロイを見てみたい。



「ずるい。」

腰より少し上まで布団を被り、枕を背に当て本を読んでいたロイは、エドの言葉に顔を上げた。

「・・・いきなり何の話だね・・・?」

読んでいた本を膝の上に置き、何を訳の解らない事をと言いたげに。

「だって俺、大佐の寝顔って観た事無いし。」

ロイは少々意外そうに瞳を見開いた。

「それが何か不満なのかね?」

「ずるい、って言ってんの。大佐は俺の寝顔を何度も観てるのに俺は大佐の寝顔を一度も観た事無いから。」

「私の寝顔を観ても面白くも何も無いと思うがね?」

「そうじゃ無くて・・・っ・・・」

思わず体を起こしてロイに向き直る。

頭まで被っていた布団が背中まで滑り落ちた。

「大佐は何度も俺の寝顔観てんだろ?」

「必然的にな。」

さらり、と。

「君の寝顔は本当に幸せそうでね。たまに悪戯に頬を突付いてやるとむず痒そうに指で払ったりするんだ。」

観ていて飽きないのだよと言うロイに、エドは更に悔しそうにロイを観る。

絶対わざと言ってる、とエドは思った。

「俺だってやってみたい!」

ムキになって思わず声を上げる。

「俺だって大佐の顔突付いたりしてみたい!鼻抓んだり鼻の穴に指入れたりしたいもん!」

「・・・・・・鼻の穴に指を入れるのは余計だ・・・・・・」

少々眉間に皺を寄せ、疲れたようにロイは呟いた。

「悔しいと思うのなら私が眠るまで起きていればいいだろう?」

「でも・・・気付いたらいつも朝になってて・・・その時にはもう大佐は起きてるし・・・」

まるで駄々っ子だな、とロイは思ったが、口にすればエドが怒るのは解っていたので、ロイは言葉にするのをやめた。

「だったら今夜は私が眠るまで起きているのだな。」

そうすれば問題無いだろう?と言ってやると、エドは大きな瞳を見開いた。

「・・・そっか・・・」

まさか考えもしなかったのだろうか。

「じゃあ大佐、早く眠ってよ。」

きらきらと瞳を輝かせながら。

そう簡単に思い通りにさせるものかね。

「残念ながら私は寝る前に軽い運動をしないと眠れないのだよ。」

サイドテーブルに本を置き、ロイは自分を見上げるエドの頬に手を添えた。

「え・・・」

エドの顔が、かあっ、と、熱くなったのが解った。

ロイはそのまま身を屈め、エドの唇にキスを落とした。



「よく眠れたかね?」

目を覚まし、ロイの姿が視界に入った瞬間、ロイの言葉が注がれた。

暫くぼんやりと視線を彷徨わせていたエドの焦点がロイの顔を捉える。

「・・・あーっっ!!」

がばっ!と、エドは体を起こした。

「また観られなかったっっ!!!!」

エドは悔しそうに声を上げると、恨めしそうにロイを見上げた。

「そう簡単に見せて堪るかね。」

不満そうなエドに、ロイは言葉を紡いだ。

いつものように食えない笑みを湛えながら。



                                     Fin.