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ハガレン短編集【ロイエド前提】

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真夏日





照りつける太陽の暑さに目を細め、司令部へと続く道を歩く。

まだ朝だと言うのに、まるで真昼のような日差しにうんざりしながら足を進めるが、
ロイの顔には一粒の汗も浮かんではいなかった。

寧ろ涼し気にも見えるロイの表情に、いつもこの時間にその道を通るロイを一目観る為に
表へ出ていた娘達は、この暑さの中でもいつもと変わらず颯爽と通り過ぎて行くロイに
何十回目かの恋をした。

大佐ともなれば送迎用の車も出せない事も無いのだが、そうなると必然的に運転手は
ホークアイかハボックになってしまうので、通勤時まで自分に突き合わせる事も無いし
部下達にとって無駄な時間だと考え、敢えて送迎用の車は使わないでいた。

お陰で娘達からのプレゼントを受け取る頻度が高く、バレンタインデー等は通常よりも
1時間は早く出なければ定時に司令部に着けない程だった。

石畳に蓄積され始めている熱が漏れるように足元に纏わり付く感覚に、ロイは小さく息を吐いた。

早く執務室で涼みたいと思うと同時に、この先の花屋の花は大丈夫だろうかとふと考える。

次の角を曲がれば司令部沿いの道に出る、その手前の花屋に並べられた色とりどりの花。

手入れは勿論されているのであろうが、切り花の寿命は唯でさえ短い。

野に咲く花のようには行かないだろう。

そう言えば2、3日前から店先に並べられていた小さな観葉植物はどうしただろう。

コーヒーカップ程の鉢に植えられた観葉植物は、ちゃんと元気だろうか。

そんな事を考えているうちに、花屋は目前へと迫っていた。

速度を落とし、何気無く花屋の店内を覗き込む。

強い日差しを避けるようにいつもより少し奥に並べられた花達は、いつものようにその姿を誇っていた。

少々安堵し、視線を流したロイは、ふと先程思い浮かべていた小さな観葉植物に目を留めた。

昨日沢山あった鉢が、半分以下に減っている。

暑さでやられてしまったのだろうかと思うと同時に、ロイは無意識に足を止めていた。


「いらっしゃいませ」


ロイの気配に奥から娘が愛想良く声を上げた。


「何かお探しですか?」


言いながら出て来た娘は、客がロイであった事に驚いたような表情を見せた。

この娘もまた、他の娘達と同じように毎朝定時に店の前を通り過ぎるロイに恋心を抱いていたので、
彼女にしてみれば天にも昇るようだった。

頬を染めながら、娘は後で皆にロイと話せた事を自慢しようと心を弾ませながら考えた。


「あの、何をお探しですか?」


先程よりも控え目に、娘は言った。

しまったな…

娘に愛想笑いを返しながら、ロイは心の中で思った。

勿論、花を買うつもりなど、ロイには無かった。

これは手ぶらで店を出る訳には行かないな…

仕方無く、ロイは店の中の花を見回した。

先程の観葉植物に視線を留めると、娘が「可愛いでしょう?」と、先程よりもやや
解きほぐれた口調で言った。


「この時期は観葉植物が人気なんです。きっと緑が暑さを忘れさせてくれるんでしょうね」


娘の言葉を聞きながら、ロイは執務室の窓辺に観葉植物が置かれているのを想像した。

悪く無いかも知れない、と思った。

ロイは小さな鉢を見渡し、その中のひとつに視線を留めた。

他の観葉植物よりも小さなそれは、まるで負けるものかと言うように一生懸命葉を
伸ばしているように見えた。


「似ているな」

「え?」


思わず呟いた言葉に、娘が首を傾げる。

ロイはその小さな観葉植物を手に取ると、娘に向き直った。


「これを」


娘は微笑んで見せると、ロイの手の観葉植物を受け取り葉に軽く霧吹きで水を吹き付け、
カウンターに置いてあった小さな袋に入れた。

勘定を済ませ、袋を受け取り、ロイは再び司令部へと続く道を歩き始めた。



漸く執務室に着いたロイは早速袋から鉢を出し、デスクに置いた。

先程吹き付けられた水が細かいビーズのような玉になって葉の上で揺れている様が、
嬉しそうに身を踊らせているようにも見える。

これは何と言う品種だっただろうかと、ぼんやりと思った時、執務室のドアがノックされ、
ホークアイが姿を現した。


「お早うございます大佐」


書類を手にデスクに近付いて来たホークアイの視線が、観葉植物に留まった。


「可愛らしい観葉植物ですね。どうされたんですか?」

「出勤途中で見付けてね。衝動買いをしてしまった」


そうですか、と紡ぎ、ホークアイは軽く身を屈めて観葉植物を眺めた。


「パキラですね」


ホークアイのその言葉に、そんな名前だったかとロイは思った。

ほんの少し間を置いて、ホークアイが再び口を開いた。


「似てますね」

「何?」


その言葉を聞き取れ無かった訳では無かった。

しかしロイはそう返していた。


「エドワードくんに」


ホークアイのその言葉に、ロイは軽く眉を上げ、笑み混じりの息を漏らした。


「鋼のに?」

「あら、大佐はエドワードくんに似ているから、衝動買いをしてしまったのではないんですか?」


軽く目配せするように紡がれた言葉は、明らかに『図星でしょう?』と言う色が含まれていた。


「意地が悪いな、君は」

「大佐の部下ですから」


そう言って微笑うと、ホークアイは書類をロイに手渡した。


「何か冷たい物をお持ちしますね。それと…小さなエドワードくんにも水差しを」

「ああ、頼む」


ホークアイの言葉にくすくすと微笑いながら、エドが聞けば怒るだろうなと思い、ロイは
デスクのパキラに視線を落とした。


「鋼の」


いつもエドを呼ぶようにパキラにそう声を掛けてみる。

夏の終わり頃にはエドはここに戻って来るだろう。

その頃このパキラはどれだけ葉を伸ばしているだろうか。

ひと欠片の希望をその手に掴もうとするように、一生懸命空へ向かって伸ばされるしなやかな葉。

小さなパキラは、誇らしげに葉を揺らした。



ロイのデスクの上に鎮座するパキラに『エドワード』と書かれた小さな札が付けられたのは、
それから間を置かずしての事だった。





                                       Fin.