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みっふー♪
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ヅラ子とベス子のSM(すこし・ミステリー)劇場

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〜Epilogue



パートの時間があるからと奥さんは帰っていった。検証実験の素材にするとかで、先生が預かっていたグラサンも一緒にラボに持ち帰った。
「……。」
残された少年とおじさんは、向き合ってお互いはははと愛想笑いを交わした。
メイドさんたちはとっくに女中部屋に引き上げていた。縁側の石に正座させられたゴリさんは、怒り心頭の姉上に、ブチ抜いた屋根の修理代請求書突き付けられて、鼻血垂れながら神妙に血判を押している最中だった。
「まったく、逃げなきゃいいのにあのゴリラが避けるから……」
眼帯ボクっ娘はブツブツ言いながら、砕け散った屋根瓦をせっちゃくざいでちまちま修復していた。
「――私たちも帰りましょうか、」
馬乗りわんこと一緒になって女装子探偵をシメていた天パの背中に、先生が声を掛けた。天パが振り向いた。
「お昼はパスタにしましょう」
先生が涼しげな笑みを向けた。
「えっ」
天パは聞き返した。微笑のまま先生は続けた。
「タイミングが難しいからって、作るのエンリョしてるでしょう? 呼ばれてすぐに席に着かない私も悪いんですけど」
――集中するとつい食事のこと忘れてしまって、申し訳なさそうに先生が言った。
「せっ、先生っ……!」
今日味わったいろんな仕打ちが天パの頭の中からきれいさっぱり消え失せた。てゆーか最初から全部なかったことになった。
(!)
屋根の上で腹這い姿勢に聞いていたすこんぶ少女は、瓦に敷いたシートをぐるぐる巻きに片付けて、番傘を掴むと庭に下りた。
「きょうのおひるぱすただって〜」
――わーいっ、トマトかなクリーム系かなっオイルソースもイイしいっそ冷製和風おろしもアリだなっ! ♪るんらるんら、すてっぷを踏む少女の後ろに、壮絶にズレたつけま放置で起き上がった女装子探偵と、退避していた木立からもっさり姿を見せた元・着ぐるみの現車掌も列を続く。
「……良かったなエリー、あいつのぼせて上機嫌だから、パスタソースの余りくらいきっと恵んでくれるぞっ」
『うどん玉買ってく?』
首に下げた小銭入れを覗いて着ぐるみがプラカードを掲げた。
「俺はソバだなっ」
浮かれたはずみに、――ぐきっ! 安物買いの銭失い、セール品のヒールのかかとがバッキリ折れたが、なんの、大志の前の些事だ、探偵の振り切れたテンションに変動はなかった。
「――、」
わんこは地面に落ちていた煙管を拾って犬小屋の宝箱にしまうと、ひなたでうとうとおひるねを始めた。
「……。」
静かになった中庭で、おじさんが先に口を開いた。
「……いやぁ、いろいろとお騒がせして申し訳なかったね、」
ため息をついて少年は言った。
「マ夕゛オさんが出どころもはっきりしないグラサン気安く掛けたりするからですよっ」
「やー、ワンちゃんが餞別にお宝わけてくれたと思ったんだよォ、」
――屋敷に転がり込んで一宿の世話になって以来の仲だからなっ、おひるね中のわんこに目をやっておじさんが頭を掻いた。
(……。)
少年は回想した。……しとしと冷たい小雨の降る朝に、犬小屋の短い庇の下にくたびれた身を屈めるように横になっていたおじさん、なんてダメなおじさんだろうとあのときはそうとしか思えなかった、なのに少年の中でおじさんの存在は日ごと比重を増して、今じゃおじさんなしの暮らしなんてまるで考えられないくらいに。
「大体、マ夕゛オさんが挨拶もなしに出て行こうとするから」
――そりゃ、その前に奥さんのやり口もけっこーらんぼーだとは思うけどっ、少年は心の声を飲み込んだ。
「だってあれはシンちゃんが……、」
言い掛けておじさんも途中でやめた。
「そうだな、おじさんはたぶん、もっと人の気持ちを知るべきなんだな」
おじさんがしみじみ言った。
「……、」
――姉上のことも、少年は喉元まで出かかった言葉を引っ込めた。マ夕゛オさんはあのとき仮死状態だったから、たぶん姉上の告白を聞いていない。痺れグラサンで倒れていたマ夕゛オさんを箒でぶっ叩いたことへの詫びも含め、いずれ姉上が自分でけりをつけるだろう。
「マ夕゛オさんも奥さんも大人ですね、」
――それにちょっぴり姉上も、少年が呟いたのに、
「えっ?」
おじさんが頭を掻く手を止めた。
「僕はぜんぜん子供です、」
少年は笑い返した。
「どこにも行って欲しくなかったら、袖を引っ張って行かないでとしか言えないし、……でも、マ夕゛オさんもマ夕゛オさんの奥さんも、うまく言えないけど、本当は一緒にいたいのに、帰りたいし帰ってきて欲しいのに、なのにこれ以上くっつきも離れもしないみたいな、お互いすごく遠回しな言い方で……」
「あの人もさ、苦労知らずのようでいて、いろいろ屈折してるんだよ」
おじさんが笑った。
「だけど可愛い素直なお嬢さんの芝居もうまくてね、騙された、なんて言っちゃお互い様なんだ」
「――僕はまだわからないです」
眼鏡を押さえて、俯き加減に少年は言った。
「僕がマ夕゛オさんだと思ってるマ夕゛オさんは、マ夕゛オさんのマ夕゛オさんっぽいと僕が勝手に思っているマ夕゛オさんだけで、そうじゃないマ夕゛オさんのこと知っても、いまと同じ気持ちでいられるのかなって」
「焦らなくたって、ゆっくりでいいさ」
優しい声におじさんが言った。――おじさんだって、もう随分いいおじさんなのに、人のキモチも自分の心も、しょっちゅう間違えてばかりだよ、
「――ハイ、」
少年は素直な感情に頷いた。
おじさんと並んで見上げた空は若干雲が多めかなー、くらいのピーカンと曇りのマ夕゛オ、じゃなくてまだら模様、――まだまだ人生修行中の僕のみたいな空だ、くすりと笑って少年は思った。


+++++《完》