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それはちょっとした悪戯

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1章 コンパートメントにて



9月の新学期用のホグワーツ行きの列車の中は、ものすごい喧騒に包まれていた。

久しぶりの級友どうしの再会に喜びあい夏の出来事などを声高にしゃべって、列車全体が笑い声に満ちている。
新入生たちの中で兄弟がいるものは、その兄のローブの端をつかんで恥ずかしそうに座っていたり、知り合いもしないものは、新入生同士がひとつのコンパートメントに固まって、ぎこちなく自己紹介をしていた。

また珍しそうにキョロキョロと辺りを見回し、ひとりで列車の端から端まで歩いている、好奇心の強い新入生のつわものもいる。
どの顔もこれから始まる新しい生活を思って、希望に輝いているようだ。

そんな浮かれた喧騒から一角だけ、取り残された場所があった。
列車の最後尾の一番後ろの右のコンパートメントだ。

その部屋でドラコは悠然と一人で座って、目を閉じていた。
揺れるその振動に身を任せて眠っているようにも見える。

「ここガラガラに空いてるじゃないか!ほかの部屋なんて、みんな寿司詰め状態なのに。ここは広いから、ロンたちも呼んじゃってもいい?」
笑いながら上機嫌で黒髪の少年が入ってきた。

「絶対にお断りだっ!」
しごく迷惑そうに眉間にしわを寄せて答える。
「へぇー、だってまだあと4人は座れるよ」
当然のようにハリーはドラコの隣に座った。

「なんでここはほかの生徒が入ってこないの?」
「この部屋まるごと指定席としてチケットを買っているんだ、当たり前だろ」
「嫌味だね、君は相変わらず。金持ちはなんでも、お金で買おうとしてさ」
笑ってからかう。
「フン、ただ単にお金の使い方を知っているだけだ」
ぶっきらぼうにドラコは答えるとハリーの顔を見ようとはせず、またうつむいてまぶたを閉じた。

何かにじっと耐えているドラコの表情は、線路から伝わっている振動を受けて、ひどく機嫌が悪そうだ。

そんなことは気にも留めずにハリーは、五月蝿いぐらいにしゃべり続ける。
「夏休みはさ、前半はいつもどおり、僕のやさしいおじさんの家に厄介になったよ、最低さっ!僕の真っ黒になった顔を見ただけで分かるだろ?午前中は庭の草むしり、午後は家の手入れ。今年は最悪なことに、家のペンキ塗りの役まで仰せつかって、毎日白ペンキで塗りまくったさ。おかげで刷毛の使い方が格段に進歩したよ。もうスイスイさ。君の家もペンキがはげている場所があったら、気軽に言っていいよ。格安で塗ってあげるから」
そう言ってウィンクする。
ハリーのなりの気の利いた冗談なのだろう。

「―――で、後半はいつものようにロンの家に行ったんだ。もちろんハーマイオニーも遊びに来たから、めちゃくちゃ楽しかったよ。みんなでサンドイッチ作ってピクニックをしたりして。ああ……あとさ。ハーマイオニーの箒の乗り方も、ロンとふたりがかりで特訓したんだ。彼女の乗り方はいつ見ても危なっかしいだろ?毎日「地獄の特訓」をしてビシビシしごいて、最後には空中一回転が出来るまでに成長したよ。ただし彼女の耳をつんざく金切り声の、悲鳴付きだけどね」
ハリーはおかしそうにゲラゲラ笑った。

「楽しい思い出だな。よかったな」
ドラコはどうでもいいように答える。

「君はどんな夏休みだった?」
「夏は避暑地の別荘を何軒か回ったかな。夜はパーティばかりだ。豪華な食事、静かな湖畔。ボートに乗ったり、犬の散歩をしたりして過ごしたよ。ただそれだけだ」
「パーティの格好は?」
「白いスーツ。レースのシャツに、水色のタイが母上のお気に入りらしい。僕はどうだっていいけどな」
「似合っていたのか?」
「ああ多分な。いつもどおり、僕がダンスに誘って断った女の子なんていないよ」
投げやりに答えた。

「でも、今年は最低だったな。あいつが長期滞在してたから」
「――あいつ?」
「ノットだよ。あのクソ野郎。いつも僕やるこなすこと、ケチをつけやがって!あいつは同じ純血だけど、本当にキライだ……。それなのに1ヶ月も同じ屋敷で過ごしたなんて、もう地獄だった。まったく!」
苦虫をつぶしたようになる。

「ええっ!?1ヶ月もノットとかいう奴と同棲したの、ドラコ?ひどいよっ!」
「なに訳の分からないことを言っているんだ、おまえは?勝手に変な想像をするな!思っただけで、ああ気持ち悪い……」
ドラコは低くうめく。

ハリーは「どこで?」「部屋はもちろん別々だったよね?」とか、矢継ぎ早やに嫉妬にまみれた質問を仕掛けたが、ドラコはことごとくそれを無視した。
貝のように押し黙る。
何を聞いても絶対に答えない。

ただポツリと
「――まあ仕方がないか。いろいろノットの周りもきな臭くなってきたし……」
と一言だけ言った。
それ以上は言葉を濁して、ため息をついただけだ。

ドラコは自分の答えががあちら側の情報の漏洩になるかもしれないから、彼はそれ以上ハリーの質問には一切答えない。
ハリーがどんなに聞いても無駄だ。
彼は心の中にハリーには踏み込ませない部分を持っている。
その部分は自分がそれを望んでいなくても、あの家の後継者として、あとを継ぐものとして、当然背負わなければいけない宿命だったからだ。

ドラコの上にある厄介ごとは年を追うごとに大きくなっているようだ。
ハリーは肩をすくめて、そのことを聞くのは諦める。
今ドラコの立っている位置はどういう立場なのか、ハリーも十分理解しているからだ。

気分を変えるとふいにハリーは、ドラコの肩に顔を近寄せてくる。
甘えたように「――ねぇ、寂しかった?」と聞いてきた。
「何が?」
答えるドラコの青い瞳が素敵だった。
「僕に会えなくてさ」
笑いながらじゃれて、ハリーはそのほほにキスをする。

「別に、お前のことなんか忘れてた」
ふいと横を向く。
「またまた、そんなこと言って」
相手の背中に腕を伸ばして抱きついて、ドラコのほほに何度もキスした。
ドラコはいつものように、それを拒絶して暴れようとも、キスを返そうともしない。
どこかぼんやりとしていた。
心ここにあらずという表情のままだ。

「やーい、ドラコのマザコン。ママと離れて寂しいのでちゅか?」
ハリーは笑ってからかう。
「うるさい!おまえは本当に出ていけ、うざいから!」
言葉ではひどく怒っているが、いつものように立ち上がって相手を蹴飛ばそうとするような、容赦ない行動は一切ない。

今日のドラコは座席からピクリとも動こうとしなかった。
ぼんやりとだらしなくシートに深く座っている。
ただ眉間のしわが深くなるだけだ。

青白い顔に美しいプラチナブロンドが額にかかって、薄灰色の瞳を半分隠している。
その長い足を投げ出すようにして前のシートに乗せて、流れていく景色を見ていた。
それはひどくこのクラシックな車内とぴったりとマッチして、彼の美しさを引き出している。

その不機嫌な様子も、気難しそうな表情も、ドラコの魅力にしかなっていない。
笑顔を安売りするよりもずっと、ドラコの品のよさや、生まれのよさを引き出していた。

ハリーは嬉しそうにドラコの口にチュッとキスをする。
「僕の口にキスなんかするなっ!」
ムカムカした顔で、機嫌がますます悪くなる。

「それじゃあ、ほかはいいの?」
作品名:それはちょっとした悪戯 作家名:sabure