二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

Gardenia

INDEX|1ページ/4ページ|

次のページ
 

Gardenia




 照る日差しによって一層の煌めきを放つ、黄金の光。
 きっと暗闇にあってもそれは変わることはないだろう。
 風に乗って届いたのはひどく甘い香り。
 そして僅かに鼻についたのは錆びた鉄と雨雫の匂い。

 久しぶりに顔を見せた相手は昔と変わらず涼しげな顔をまっすぐに向けたまま・・・。おそらく任務を終え、その報告にでも教皇宮へと向かうつもりなのだろう。天蠍宮の主を前にしても、その歩調を一向に変えようともしない影に声をかけ、縫い止めた。
「―――ご苦労さん」
 つんと取り澄ました顔は前を見据えたままだが、それでもようやく、その歩みは止まった。
「君にご苦労、などと言われる筋合いはない。君は私よりも年上でもなければ、格上というわけではあるまい?」
「あー・・・じゃ、お疲れ。これでいいだろう?」
 要するに、目上の者が目下の者に対して使うべき言葉を不用意にもシャカに向けて使ったことが気に障ったらしい。それでわざわざ足を止めてのご忠告。そうでなければきっとそのままここを通過したのかもしれない。
「しかし、そうなると俺は一生おまえを追い越せないのかもしれないな。同じ黄金聖闘士で誕生日もおまえが先。でも、ムウやアルデバランはおまえよりも年上になるときもあるな。アイオリアもか・・・。羨ましいものだ。まぁ、アイオリアに至ってはほんのひと月程度だけれどもな」
 そう付け足すと、形の良い眉が僅かに上がった。
「ひと月程度で年上を気取られてはかなわぬ。片腹痛いわ」
 取るに足りぬというように鼻であしらい、立ち去ろうとするシャカの腕を取る。予測しない行動に驚いたのか、振り返ったシャカはふうわりと絹糸の金髪を風に舞わせ、再び甘い香りが周囲に満ちた。
「おまえは不思議だな。清廉な蓮の香りも似合うが、艶を含んだその香りも似合うのだな」
「唐突になにを言うかと思えば・・・どういう意味かね」
 不愉快そうに眉根を寄せたシャカをじっと見据え、振り払おうとする腕を放さない。
「やめておけ。力勝負ではおまえは俺に敵わないさ。これ・・・花の香りか?」
 顔を掠めるように指先を伸ばし、するりと伸びる髪を指に絡めとる。クンと匂いを嗅いでみせ、まるで貴婦人の手に口づけるようにも見える「いかにも」な行動に対してか、それとも力勝負では敵わないと言ったことに対してなのか、シャカは険悪さを顕に、秀麗な顔を歪めていた。
「恥知らずな真似をするな」
「そうか?それで・・・答えは?」
 シラと返してみせると取り澄ましていたはずのシャカの顔がますます険しさを増す。それが愉快でたまらなかった。そんな俺にシャカの容赦ない言葉が降ってくる。
「知りたくば、その底が抜けた空っぽの頭を下げて、教皇にでも尋ねてみるがよかろう」
「俺が?教皇に?・・・冗談だろ。しかし、言ってくれるよな・・・“空っぽ”ね。どうせ空っぽの頭を下げるなら・・・そうだな、おまえに下げる方が幾分マシなような気がするが」
 薄ら笑いを浮かべながらも鋭い視線をシャカにぶつける。視覚という五感のひとつを絶ったシャカにどれほどの効果は甚だ疑問ではあったが。
「君が私にかまいたがるのは君の自由だが、私は非常に迷惑だ。いい加減、この手を離したまえ、ミロ」
「・・・・いやだ、と言ったら?」
 意味深に声のトーンを落とす。シャカがどう出るか・・・その答えが楽しみだ。内心の期待・・・黄金聖闘士同士、何の手加減もなく拳を交えたいというちっぽけな希望にシャカが応えてくれることを望んだ。
 私闘は禁止だが一介の聖闘士としての鍛錬となればまた別の話だろう。なかなかに同じ力量を持ち合わせている黄金聖闘士同士ではアイオリアとはたまに手合わせ程度(といっても相手がアイオリアだけに時に白熱することもあるが)に体慣らしすることはあったが、それ以外の者たちとはあまり拳を交えることもないため、今が絶好の機会だと思ったのだ。
 シャカの実力の程は噂には聞いてはいても、実際この目で見たこともなければ、身をもって知る機会などなかった。そういった意味では未知数の力を持つシャカという男を相手に挑むのは無謀でもあり、やや分が悪いような気もするが。日々の暇つぶしの相手といえば格下の者たちばかりでいい加減、力を持て余しているのは事実。
 シャカとてそれは同じではないだろうか。どのような修行を積んでいるかはわからないが、手応えのないものを相手するよりは存分に力を揮うことができるであろう、同じ黄金聖闘士であるこの俺と拳を交えることは互いの技量を見極めるに丁度いい相手ではないだろうかと思うのだ。
 じっと閉じた目で伺うような表情をしていたシャカであったが、しばらくすると計算されつくしたかのような美しい弧を描く眉を僅かに寄せ、フッと軽く笑った。
「手に取るように君の考えがわかる――が、しかし。それに乗るような私だとでも思うのかね?」
「そうだな・・・時と場合と・・・機嫌により、な」
「なるほど。ならば・・・・」
 微笑みを口元に浮かべたシャカ。どうやら期待に応えてくれるらしいと喜んだその瞬間。
 スイッとシャカの顔が近づいた。ほんの少し頬が触れ合っているような気さえするほど、間近に。耳朶に届いた吐息がベルベッドで肌をなぞるようにぞくりと肌を粟立たせた。
 そして「ミロ・・・」と己の名を囁いた声はシャカの髪から匂い立つ香りよりも甘いもののようにも感じた。それは鬱蒼と茂る森の中を歩いていたとき、突然目の前の道が開け、柔らかな光降り注ぐ花畑を見つけたような奇妙な混乱を憶えさせた。
 ほんの一瞬でしかなかったが、すうっと気が遠退いたような感覚に落ちて、シャカを捉えていた手の力が抜けた。
 それを見逃すシャカではなく、まんまと自由を取り戻し、『してやったり』といったような満面の小憎らしい微笑を浮かべていた。
「あ・・・卑怯者。色仕掛けでくるとは!」
 多少バツの悪さもあったため、必要以上に怒っているようなふりをする。
「愚か者。誰がそのような真似をするか」
「たった今、しただろう!」
「不意打ちというのならば“した”が、“色仕掛け”などというものはした覚えはない」
 あからさまに莫迦にしたような顔をしながら、シャカは軽やかに階段を駆け上がっていった。シャカの後姿を見送りながら、作っていた表情を崩す。あれはシャカの技のひとつなのだろうか・・・そんな疑問も浮かんだが、まんまと出し抜かれたにもかかわらず、たった今崩したばかりの表情とは裏腹に心の底では怒りを覚えていない自分を不思議に思っていた。さすがに気恥ずかしさは感じてはいたが、むしろ、不可解なほど早鐘を打ち続ける鼓動に困惑を覚えた出来事だった。

作品名:Gardenia 作家名:千珠