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toccata

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レンの場合(1)


(何なんだ、この状況は…)

ホテルの一室で溜息ばかりが出てくる。
空気が悪い。
まさか学園を卒業してからも、あいつと同じ部屋で過ごすことになるとは…と頭が痛む。
こんな状況に陥った理由は、「社長」の気まぐれが原因だ。

一ヶ月前、楽器のレッスン中に”社長”直々に呼び出された。

---重要な話があるから、事務所まで来ルルルよゥゥにィィィ。

何となくだが、波乱があるような、そんな予感がしていた。
事務所の社長室に通される。
既に数名来ていた。

「レン…今日は随分と早いのですね」

嫌味を含んだ低音で一ノ瀬トキヤが話しかけてきた。
学園では同じクラスだった奴だ。
こいつは元々アイドルデビューをしていたが、自分の歌で勝負したい、と“仮初めのアイドル”を
止めて、改めて「アイドルとしてデビュー」を勝ち取った。
歌は上手い。
表現力も中々ある。

(ただイッチー、何時もムッツリしていて人を滅多に寄せ付けない…ってのは女性にもてないな)

心の中でそう評する。

「お前が指定されていた時間よりも早く来るなんて…こりゃ雪が降るな…確実に」

失礼な言葉を重ねているおチビは、来栖翔。
やはり学園では同じクラスだった。
小さい身体をカバーするかのような力強くしなやかな動きは、こいつが得意としている空手のお陰かもしれない。

「降るか…ったく。今日は、事務所近くにいたんだよ」
「それでもお前良く遅刻してくるじゃん」
「それは大抵隣に、美しい子羊ちゃん達がいるからさ」
「…破廉恥ですね、相変わらず」
「それが俺の”売り”だろ?」
「スキャンダルが売りになるアイドルもどうかと思いますが?」
「それも”個性”だろ?」

ウィンクしてイッチーを論破する。
溜め息をつきながら、あなたと言う人は…と踵を返して距離を取った。

会話の輪の中に入ってこなかった、部屋の中にいたもう一人は、イッチーの隣で身構えている、レディだった。
自分が呼び出された事を不安がっているようだ。

「やぁ、おはよう、レディ。今日もいい天気だね」
「じ、神宮寺さん、おはようございますっ」

礼儀正しく、しかも慌てながら深々ととお辞儀をする。
小さくて、とても可憐なレディだと思う。
髪に触れながら、緊張を解く為の魔法をかけようとした。
顔と顔の距離が近づいて、レディが瞳の中を占拠する。

(今、世界は君だけだ…)

ふと、脇に鈍痛が響く。

「てめぇ!何してんだよ!春歌に!」
「いたた…おチビちゃん何するんだよ…」
「何してんだって聞いてんだよ!!」
「何って、…挨拶だよ、朝の」
「今もう13時だっ、朝じゃねーよ!」
「俺にとっては、まだまだ朝だね」
「寝惚けてんなら、部屋に戻って寝ればいいじゃねーか!」

おチビちゃんの肘がまた脇に入る。
避けようとしたが、やはり「格闘技」をやっている人間には敵わない。
少し悔しく思う。
言い合いの中、部屋の扉があき、学園の先生2名…事務所の先輩たちが入って来ていた。

「神宮寺…お前いい加減にしろよ?学園を卒業しても、恋愛は大っぴらに解禁した訳じゃないからな」
「リューヤさん、そんな小姑みたいな事言わないで下さいよ」

学園でクラス担任をしていた、日向龍也が持っていたバインダーで頭を叩きつけながら言ってきた。

「龍〜也〜、小姑だって、あはははっ。似合わなそうで似合う称号ね〜」

台詞に乗ってきたのは、月宮林檎。
五月蠅い黙ってろ、とリューヤさんは月宮林檎を怒っている。
ふと見ると、セシル・イッキ・シノミーが部屋に入っていた。

(後は、あいつだけか…)

呼ばれているだろう、あいつはまだ姿を見せていない。

「あれ?先生、マサは?」
「少し遅れるそうだ、仕事場が此処から少し離れているからな」

リューヤさんがイッキの疑問に素早く答え、お前らも遅刻する時は必ず連絡しろよ、と全員に伝えてくる。
社会生活において「ほうれんそう」が重要だと、卒業後のミーティングで伝えられていた。
あいつは、それを実行した、と言う訳だ。

部屋で、それぞれが話して時間をつぶす。
15分後くらいだろうか、それぞれのグループでの会話中に勢いよく扉が開いた。
皆、音の方向を振り返る。
すると、肩で息をしているあいつがそこに立っていた。

「遅れて、申し訳ございません!」

びしっとお辞儀をして謝る。
いいのよいいのよ〜、と月宮林檎はあいつを責めない。
確かに、今日はあいつは「仕事」だった。
社長も先輩方も、「遅れてしまうかもしれない」と言う事は念頭に入れていたのだろう。
あいつの遅刻は、想定の範囲内、と言う事だ。

「おお〜マサ〜。仕事お疲れ様〜」
「…社長は?」
「まだ来てませんよ、大丈夫です」
「そうか、良かった…」

必然的に学園時代属していたクラスの同級生の所に寄って行く。

「聖川さん、おはようございます」
「おはよう…」

彼女があいつに挨拶を返した。
人も増え、彼女自身色々な人に喋りかけられて、緊張がほぐれて行ったようだった。
笑顔にも無理がない。
その姿を見て、何となく安堵する。

その安堵もつかの間。
学園時代と変わらない、”社長”の神出鬼没な登場の仕方により、温められた空気がぶち壊しになる。
それだけではなく、発せられた言葉により、更にカオスなものになって行った。

(一ヶ月で12曲とは…又無理難題を…)

呆れてものも言えなかった。
だが、業界によっては、歌楽曲ではないが「途轍もないスピードを要求されるもの」があるらしい。
しかも曲数は多い。
状況によっては、折角納品したのに世に出ないものもあるとか。

(水ものの世界とは良く言ったものだな…)

感心してしまう。
そんな事を考えている中、その場にいた人間の殆どが曲の創り手への温情を求めていた。

(そんな事をしなくても、彼女は…)

やる、と答える。
分かりきった事だ。

ちらりと彼女に視線をやると、何かいいたそうにしている。
表情を眺めていると、顔が青ざめている事が分かる。
やはり、この無理難題は少々きついのだろうな、とそう感じた。

結局先輩方が食い下がり、彼らの助言で幾つかのハードルと曲数が減った。

(しかし…)

曲を11曲作ることには変わりがない。
例え1コーラスであったとしても、曲を創ることには変わりがないのだ。
それに、1コーラスと言う方が逆に難しい、と言う人もいるとか言ないとか。
彼女がそうなのかどうかは分からないが、心身ともに疲れは大きそうだ、と思った。

自宅に戻って明日からの準備をする前に、喫茶店で課題参加者全員が集まってのミーティングが行われることになった。
誰が言いだしっぺと言う事ではなく、全員が一斉にそう言いだしたのだ。

これから一ヶ月がまた違う勝負。
アイドルである為にあり続ける為の、永遠の勝負。
その世界へ身を投じる、その第一歩。

(楽しまなきゃ損じゃないか)

心の中でそう呟いて、ミーティングを行う為の喫茶店へ皆の背中を見ながら歩いて行った。

作品名:toccata 作家名:くぼくろ