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黄龍妖魔学園紀 ~いめくらもーどv~

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 寮の前で所在なげにたたずむ御子神京也を見つけたのが、鴉室洋介だったということは、おそらくこの件に関心を持っていたあらゆる存在にとって、不運なことだったに違いない。
 彼を見つけたのが、壬生紅葉や劉弦月などであれば、もう少し違った展開になっていただろう。少なくとも、簡単に京也に見つかったりはせず、保健室で会談中の如月や村雨、瑞麗に連絡することくらいはできたのではないだろうか。もしくは、京也が気づいたとしても、携帯や符を目の前で使うくらいのことはしただろう。
 彼らは、京也の姿が寮にないことを発見し、三手に別れた。弦月は校舎にまわり、壬生は職員宿舎方向の施設を確かめにまわる。墓を確かめに行った鴉室が、もっとも早かったというのは、距離的に考えても不思議はない。
 一旦寮に足を運び、今度は、京也と接触のあった生徒を確かめる。そうこうしているうちに、壬生か弦月から連絡が入るだろう。なければ、こちらから連絡する。そんな予定だった。
 そして。
 寮に入るまでもなく、彼は、入り口につったっている標的(ターゲット)を見つけた。見つけて、足を止めた瞬間、標的(ターゲット)はゆっくりと彼を見た。
 雪が降りしきる中、鴉室は目を細めた。
 視界の中、京也はまっすぐに顔を鴉室に向けている。
 気配は消していたつもりだったが、姿は隠していない。あたりを見回していたなら、見つかってもおかしくない状態だ。それは確かだ。
 だが、彼は、足を止めた鴉室に向かって、まっすぐに顔の向きを変えた。何かを探す様子ではない。知り合いに声をかけられた時のように、そこにいるのを知っている動きだった。
 挨拶だろうか? 小さく頭が下がった。
 鴉室は、微かに顔をゆがめた。
 そして、いつもの京也以上に胡散臭い笑みを浮かべると、盛大な足音を立てて寮の入り口まで走った。
「よぅ。クリスマスに野郎一人たぁ、寂しい高校生活だな」
 身体についた雪を払いながらの鴉室の言葉に、京也は声をあげて笑った。
「風流にも雪見とは言ってもらえないでしょーか、探偵さん。どうしたんすか?」
「いやぁ、騒ぎが収まって、やっとこさ帰れるってトコだが、いざそうなると、名残惜しくってなぁ」
「行方不明の生徒は見つかりました?」
「残念ながら。依頼が打ち切られちまって。情けない話さ」
 はは、と、鴉室はわざとらしく乾いた笑い声をあげた。それにあわせるかのように、京也もまた口元に笑みを浮かべる。
 鴉室がここにたどりついてから、まだ五分と経っていない。壬生と弦月の捜索は、場所から考えても、おそらくまだ数十分単位でかかるはずだ。
 笑みを浮かべたまま、鴉室は京也の様子を窺った。
 京也は、静かに笑みを湛え、見返してきた。
 会話が途切れ、場を沈黙が支配する。
「――今夜は、いやに静かじゃねぇか」
 軽口もなければ、大げさな動作もない。茶化すような笑い声すらない。いつもの彼に比べると、確かに静かだった。静かすぎた。
 少しだけ、声に余裕がなかったか、と。脳裏を微かにそんな考えが掠める。
 京也は首をかしげた。そして、視線を空にもどし、落ちてくる雪の舞を見つめる。
 しばらくの後、言った。
「ま、ボクだってたまにはセンチメントな気分になることもありますよ」
 その声に鴉室は、背筋に冷えた刃物を当てられたような気がした。
 ゆっくりと、京也は空から視線を戻した。
 ぶあつく降ろした前髪の下、目付きや目線ははっきりしない。ただ、顔はまっすぐに鴉室の方を向いた。
「それで。ボクに何か用っすか?」
 口調はまだ明るかった。いつものふざけた感じを残していた。
 だが。
 口元が歪んだ。
 京也の腰の辺りで、びゅっという音が響いた。ちらりと、鴉室は京也の手元を見た。京也の手には、黄金の剣が握られている。先ほどの風を切る音はそれだと思われた。
「だから、名残を惜しみに来ようとしてたら、キミがいた。それだけだって」
「少し、わざとらしいですよ」
「どこがだよ」
「どうせなら、女子寮ってとこじゃないっすか?」
「方向は同じだろう」
 積み重なるうわべだけのやり取り。京也の右手で、黄金が煌いている。
「――で。ボクに何か用ですか?」
 京也は、コートのポケットからPHSの白い筐体を取り出した。そして、ちらりとサブディスプレイを見た。
 そして、笑った。
「誰を待っているんですか?」
「キミを待ってたっていうんじゃ、不足か?」
 足が震える。京也の声は、あくまでも穏やかだ。だが、鴉室は全身に威圧感を感じていた。魅了のカリスマというよりは、身の危険。辺りの無機物までもが敵対したかのような、足元定かならぬ感覚が押し寄せる。
 この原因が京也だとすれば、とても一介の日本人が発するものではない。
「嘘ではないと思いますけど、普通、監視対象のことは待っていたではなくて発見した、応援の方を待っていたと言うでしょう?」
 黄龍の器。
 資料で読んだ文字が、脳裏に浮かぶ。たった四文字。それ以上の詳細な解説は、思い出せなかった。そんな余裕は、持てなかった。
「おいおいおい。何だよソレは」
 黄金が、鴉室の首につきつけられる。
 古美術品らしき剣だった。実用品には見えない。博物館に飾ってある出土品のように、刃が丸くなっている。それに、もしも、本物の黄金ならば、そんなもので実用に耐える剣を作ろうとする馬鹿はいないだろう。コストと性質が全く見合わない。
 ただし、それは、武器としての話だ。祭具としては、別になる。コスト評価は、武器に比べ大幅に甘くなり、何者にも犯されぬ黄金の性質に何かを見るは一般的な話だ。
「――」
「星見ですか? それとも、飛水? ボクがここに入ってからだとしても三ヶ月。お疲れさまです」
「誰だそりゃ」
「誰、ですか」
 鴉室の表情が歪んだ。
 星見、飛水。誰というよりは、何というが相応しいか。
 いや、だが、些細な違いだ。剣をつきつけられている状態ならば、「どこ」が「なに」、「どう」が「いつ」になったって、おかしなことではないだろう。たとえそれが、ペーパナイフに使うも不可能なほどのなまくらであっても。
 少なくとも、それはただの言い間違いにすぎず、表情をゆがめるほどの失態ではないはずだ。
 必要以上に歪んだ表情から、何かを知ったか。
 いや。
 おそらくは、最初から聞く気などなかったのだろう。
「お伝えください。如月くん(ひすい)でも、村雨くん(あきづき)でも」
 京也は言葉を切った。そして、ほんの少しだけ、迷うそぶりを見せた。
 そして、首を横に振り、剣を引いた。
「――いえ、やはり――」
 黄金の剣が舞う。ゆったりとした動作だった。武道の達人でなくとも、簡単によけられるのではないかと思われた。
 鴉室は身を沈めた。そして、軸をずらす。
 柔らかな動きのまま、剣は彼を追った。
「風邪ひかないでください」
 カンフ映画じゃあるまいし、延髄を少し殴った程度で意識がなくなったりするものか。そんな思いを最後に、鴉室の意識は途切れた。