二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

黄龍妖魔学園紀 ~いめくらもーどv~

INDEX|78ページ/79ページ|

次のページ前のページ
 

ジュブナイル24



 港区にあるマンションの最上階。モデルルームみたいな、広大な部屋だった。
 皮製のしゃれたソファで、一人の男がコードレス電話機の子機を耳に当てていた。
「――思い出しちまったか」
 男はそう言って、テーブルの上のタバコとライタを引き寄せた。
「ああなぁ。それこそ、ゆがみが出ちまうだろ」
 タバコをくわえ、火をつける。
 ゆっくりと、紫煙を吸い込み、吐き出す。
 目を細め、部屋の中に漂う煙が消えていくのを見つめた。
 電話の向こうの声が、驚くほど不器用に、事件の顛末を語る。それを、じっと聞いた。
「アンタ、声が声がやたらと嬉しそうだぜ?」
 聞き終わったところで、そう言った。
 一瞬の沈黙の後、受話器の向こうから慌てたようないいわけがあふれ出す。小さく笑いながら、ただ、それを聞く。
 最後に、謝罪が聞こえた。電話の向こうであるにもかかわらず、明らかに声が揺れていた。
 灰皿に、半ばほどまでも減っていないタバコを置いた。
「謝ってどうすんだよ。俺は言ったはずだろう? 最後の始末は、アンタの選択に従う、と。なぁ、センセイ?」
 何度も何度も、謝罪が繰り返される。そして、最後に。
 でも、とても嬉しい。
 その言葉に、男は笑みを浮かべた。誰も見ていないのがもったいないほどの、良い笑顔だった。


「それだけ、汀さんが強い印象を残していたということですか」
 畳の間で、コタツの上におかれた湯飲みを前に、長身の男が言った。
 自分の分の湯飲みを、てのひらに大事に収め、和服姿の男がうなずく。
「――僕は知らない。汀があの学園で、どんな影響を残してきたのか。彼とであった人間たちが、彼を一体どう思っていたのか」
 和服姿の男は、てのひらに収まった湯飲みを見下ろした。白い磁器の中に、淡い緑色の液体が揺れている。
「答えは、出たようだな」
「そうですね。彼に判断を任せるといった以上――如月さん」
 長身の男は眉を寄せ、向かいの白い顔をみつめた。
「うん? どうかしたかい?」
「とても、嬉しそうに見えますよ」
「僕は、狭量な人間だからね」
 そう言って、湯飲みをコタツの天板に置いた。そして、口元に笑みを浮かべる。
「正直、あそこで汀にかかわった人間はどうでもいい。ただ」
 一度言葉を切ると、彼は床の間の横に鎮座するパソコン一式に視線を向けた。
「目に見えて、汀の顔つきが明るいのは、とても嬉しいよ」
 目を細めるその表情に、長身の男はわざとらしくため息をついてみせた。
「これからの面倒を考えると、とてもそんな表情をしている余裕はないと思うんですけどね」
「そういう君だって、壬生。ずいぶんと楽しそうじゃないか」
「二度とあんな相手とは戦いたくないというだけです。汀さんが、独走しないと神妙に頭をさげたということだけは嬉しく思っています」
「そうか」
「――如月さん?」
「ああ、汀が帰ってきたようだな」
「誤魔化さないでください」
「本当だ」
 次の瞬間、ただいまの声と廊下を歩く足音。
「……」
 どことなく恨みがましい目で、客人は家主を睨んだ。
 そこへ、話題の主が入ってくる。
「ただいま、っと。ちーす、みむくん数日ぶり」
「――汀さん、その、みむくんというのは何なんですか」
 まぁまぁ、と。気にした様子もなく、京也はコタツにもぐりこむと、ベンチコートを脱ぎ始めた。
「始末してから入れ、だらしない」
「写真、焼き増し回収してきたっすよ」
 家主の小言を気にする様子もなく、リュックの中から写真屋の袋を取り出し、コタツの上に放る。
 嘆息する如月と、興味深げに手を伸ばす壬生。
「……汀さん。どうしてこの写真が焼き増しされているんですか」
「だって、リクあったんやもん、しゃあないじゃん」
 拳武館高校の制服を着せられ、おとなしく正座する二十四歳男。その写真を手に取ると、ひらひらと振ってみせる。
「おまけに、やけに枚数が多い……」
「いやぁ、皆、好きだねぇ」
 肩をすくめる京也を軽く睨んでから、壬生は他の写真をゆっくりと眺める。
 穏やかに目を細める如月。
 まるで少年のように笑い、誰かの頭を抑えている村雨。
 複雑な表情で高校時代の制服に収まっている壬生。
 身を寄せ合い、少女のように笑う藤咲、舞子、芙蓉にマリィ。
 小蒔が拳を握り、大げさに京一が頭をかばう。その横で、何事もないかのように、料理をつまむ劉と杯を傾ける御門。
 さやかに、霧島、紫暮にミサ。雨紋に織部姉妹と桃香。最近発売された、コスモレンジャーの人形を持っている。美里に、比良坂。恐れ気もなく、満面の笑顔で二人に話しかけているアラン。
 京也が写っている写真がほとんどないのは、主にカメラを持っていたのが彼だからだろうか?
 久しぶりに揃ったとはとても思えないほどの、くつろいだ空気を、総ての写真が伝えてきた。いや、むしろ、高校時代にあった微妙な相性が、時の流れでならされたのか、より穏やかな雰囲気すらある。
「これと、これと……僕の分はこれだけですね。おいくらになりますか?」
「あ、ちょいまち、ちょっと待って。ええと……」
 なにやらPHSを取り出し、眺めていた京也は、あわててコタツを出るとパソコンの前に座った。ディスプレイの電源をいれ、マウスを動かす。
 ログインの後、いくつかのファイルを確かめ、もう一度コタツに戻ってくる。
「ひい、ふう、み、と。確かに。代金はいーっすよ、んな、大した枚数じゃないですし」
「ありがとうございます」
「あ、袋用意しマスよ」
 戻ってきたかと思うと、大慌てで居間を出て行く。
「どうせならそこの上着も――って、聞いてないな」
 如月の言葉が終わるを待たず、京也の姿は消えている。その様子を見て、壬生は笑った。
「全く。――なんにせよ、これからですね」
「ああ」
 そういえば、と。如月は声を潜め、壬生に顔を寄せた。
「……また、黄龍甲を蔵から出してきたよ」
 壬生の表情が引き締まった。だが、それに穏やかな笑みを向けたまま、如月は続けた。
「最近は、少し鍛錬しているようだ。もちろん――真神に入り込んだりはしないが」
「――それは――」
 細い目が、驚きに見開かれる。
「どういう、心境の変化なんでしょうね」
 壬生の言葉には答えず、如月は姿勢を戻した。そして、コタツにのったミカンの籠から、一つ手にとって皮をむきはじめる。
「あうー。封筒たんないっす、買ってこればよかった……」
 情けない声で、京也が戻ってくる。
「何枚だ?」
「四枚っす」
 むいたミカンもそのままに、如月が立ち上がる。入れ替わりで、京也がコタツにはいり、壬生に封筒を手渡した。
 選りだした写真を封筒に入れ、壬生は小さく頭をさげる。
「ありがとうございます。――あ」
「ん?」
 如月がおいていったミカンが、あっというまに京也の手に移動している。
「……知りませんよ」
「共犯?」
「お断りします」
 ひとふさ差し出され、壬生は難しい顔で首を横にふった。つまらなそうな声を上げると、京也はむかれたミカンを食べる。食べ終わったところで、ティッシュで指先をぬぐい、写真の仕分けを始めた。
 まだ、家主は戻ってきていない。