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【aria二次】その、希望への路は

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11.試験開始



「は、はい。喜んで」
 グランマに向き直ったアイは、硬い表情で返事した。けっして敵意を示しているわけではないが、緊張を隠し切れていない。
 その時、灯里が驚いた声をあげてしまう。
「ア、アリシアさんっ!」
 グランマと同じく、アリアカンパニーの制服を着たアリシアが、船着場から上がってくる。アリシアは、先客のグランマを見てわずかに躊躇した。が、静かに心を決めた様子で、アイの前まで歩み寄る。
「アイちゃん、今日のピクニックに、私も連れて行ってもらえるかしら」
「はい。歓迎いたします」
 今度は、灯里の方を窺わずに即答するアイ。だが、こわばるような緊張感が、あからさまににじみ出ている。このままじゃいけない。灯里は思った。今の気持ちのままだと、アイちゃんは普段の漕ぎ方ができない。
 手早く戸締りを済ませ「では、ゴンドラを廻してまいります」と、会社用の船着場に下りていこうとするアイを、灯里はあわてて追った。
 建物の影で追いついた灯里に、アイが振り向く。思いつめた表情が痛々しい。今の私が、アイちゃんにしてあげられる事、言ってあげられる事って何だろう。今さら灯里は考える。そして、灯里は、アイのことを力強く抱きしめた。

 アイは、あまりのことにこわばった。顔がだんだんと赤くなってくるのが、自分で分かる。心臓は、早鐘のように動悸を打ち鳴らす。全力疾走した時のように、呼吸が上がる。
 そんなアイの耳元に、灯里はささやいた。
「ごめんね、アイちゃん。なんで今日、グランマとアリシアさんが、ユニフォーム姿でやってきたのか、私には分からないの」
 声も出せずにいるアイは、ひたすらうなずき返す。
「でも、何が起こったとしても、私はアイちゃんの味方。この事だけは忘れずにいて」
 アイは、今度は、しっかりとうなずいた。

 灯里が、グランマとアリシアの所に戻ってから間をおかず、アイがゴンドラを廻してきた。乗り場に横付けし「どうぞ、お乗りください」と、グランマたちに声を掛ける。アイの表情からは、ついさっきの緊張感は消えていた。乗船の誘導のために、グランマやアリシアに手を差し伸べるときには、微笑みさえ浮かべてみせる。最後に灯里に手を差し伸べたとき、師弟は柔らかな笑みを交し合った。
「では、まいります」
 アリア社長も無事に搭乗させたアイは「ピクニック」へと、ゴンドラを漕ぎ出す。未だ見習いのアイに、三人乗りのゴンドラを漕がせる事に、灯里は内心で不安を持っていた。だが、その不安は杞憂と知れた。アイの漕ぐゴンドラは、力強く前に進み続ける。
 乗客の最年長者であるグランマが、要所要所でアイに行き先を指示した。やがて、高架水路に上るための、最初の水上エレベータにたどりつく。開かれた水門の中にゴンドラが納まったとき、灯里はアイの方を振り向いて、声を掛けようとした。
「エレベータの中では、休んでいいんだよ」と。
 だがそれは、いたずらっぽい笑みを浮かべたアリシアの目配せに、押し止められた。

 アイは、まるでプリマのように、すっ と立ち上がったまま、灯里たちに声を掛ける。
「お客さま、後方の水門が閉じられ、お手許が暗くなりますのでご注意ください」
 水門が閉じるのを待って、再び口上を述べた。
「前方から、水が注ぎ込まれてまいります。水しぶきなどかかりませんよう、お気をつけください」
 アイのウンディーネっぷりに、灯里とアリシアは嬉しげな表情を浮かべる。グランマだけは、常になく憂いに満ちた表情を浮かべていた。だが、口を挟まずに、水上エレベータの仕組みを説明するアイの口上を聞いていた。

 晃と藍華は、アテナを乗せてアリスが漕ぐゴンドラと合流した。船を寄せ合い、互いの知っている事を交換する。とりわけ、晃が伝えた制服姿のアリシアとグランマの話は、他の者を驚かせた。
「こんな事は想像したくないんだが」事情を聞いた晃は言った。「グランマやアリシアは、ゴンドラ協会の偉い人ではなく、一人の水先案内人として、アイちゃんにウンディーネとしての引導を渡そうとしてるんじゃないだろうな」
 誰もが心に思い浮かべながらも、あえて口に出さなかった憶測に、他の三人は様々な反応を示す。アテナは、ショックに口元を押さえ、アリスは、黙って前方を睨み、藍華は、抗議しようとした。
「すわっ!」
 藍華の漕ぐゴンドラの上、まるで海賊の首領のように腕組みをして座っている晃は、声を上げる。あわてて藍華は黙り込む。
「そのような事は、断じて認めるわけにはいかん。おい! 私たちも希望の丘に急ぐぞ」「はい!」「はいっ」
 藍華とアリスは、おのおのに返事をしてゴンドラを漕ぎ始める。
「あー、これってなんだか、藍華ちゃんとアリスちゃんの、シングル昇格試験みたい」
 自分たちが何かを始めた、という安堵感に普段のペースを取り戻したアテナが言う。
「他のウンディーネのみんなに『がんばってね』って言われちゃうかも」
 あいかわらず、海賊の首領風味な晃が、不敵に微笑みながら返した。
「ああ、がんばるのさ。アイちゃんのためにな」

 最初の水上エレベータを越え、高架水路に入ってからも、アイの操船は安定していた。制服姿のグランマとアリシアが乗り込むアイのゴンドラに、時折すれちがう他社のウンディーネたちは、会釈を送る。アイも会釈を返しながら、難なくすれちがっていた。
 やがて、前方から大きな艀が下ってくるのが見えた。ゴンドラどうしはすれちがえても、あの艀なら、どうか? グランマたちは緊張して前を見る。とりわけ、灯里は息を呑んですれちがう瞬間を待った。
 後ろを振り向いて応援したい、できることなら、アイちゃんには座っててもらって、いっそ自分で漕いでしまいたい。そんな思いにもてあそばれながら、ふと、灯里は迫り来る艀から視線をそらし、隣に座るアリシアを見た。
「アリシアさんも、私の試験の時に、そんな風に思ってたんだろうか?」
 灯里の視線に気付いたらしいアリシアが顔を向け、無言のまま優しい笑顔でうなずいて見せた。灯里もおもわず、うなずき返す。
 その間にも艀との距離は、どんどんせばまっていた。アイは、発電機を運んだときを思い出し、間合いを取る。ぶつけないように、ぶつからないように、そして、出来るだけ揺らさないように。

 離合を終えてから、乗客役の三人のウンディーネは、一様に「惜しかったな」と思った。反射波を捉えるタイミングがやや遅く、わずかにゴンドラが揺れてしまったのだ。その直後、これがアイのシングル昇格試験であることを思い出し、内心で舌を巻く。今、これだけの技量があるのなら、この先修行を積めば、どこまで伸びるのだろう?