ルック・湊(ルク主)
調理
朝からやたらとレストランに人が入り浸っていた。
今朝は少し仕事があって、ようやくそれが終わり。湊はとりあえず例の石板前に行くとルックがおらず、すごすごと遅い朝食をとりにきたら、なぜかレストランがいつもより人が多い。
ていうか、厨房を囲うように群がってる?
厨房を少し遠巻きで見ているおもに女性達に首をかしげ、湊はその中の一人に聞いた。
「?挑戦者って訳でもなさそうだし・・・?えっと、どうしたの?」
「ああ、湊様。あの、その、ルック様が珍しく厨房にいらしてて・・・料理されておられる訳ではないんですけどもね、なんか珍しい光景で、つい。」
その女性はお恥ずかしい、と笑いながら言った。
ルックと湊は特に隠れて付き合っている訳ではないので、割と皆に知られていると思われる。
それもあるし、あのルックのそっけない対応もあってか、基本的に女性がルックに付きまとう事はないが、だからといって人気がない訳でもない。
むしろルックと湊のカップルを暖かい目で見ている者が多い中、実はひそかに隠れファンが割合いたりするようなのだが、それにしても今日のこの様子はほんと珍しい。
確かに厨房にルック、はレアかもだけれども。
そう思いつつ湊は厨房をのぞいた。
すると確かにルックが中で何かをすっているようだった。手には乳鉢と乳棒だろうか、持っている。
そして邪魔なのだろうか、いつも髪をそのままおろしているルックが後ろで束ねている。
湊からみても、うなじをみせているルックの様子は色気のあるものだった。
ああ、これが群がっている理由だろうなぁと思い、湊も一緒になって遠巻きで見ていると、人がいるのがうっとおしいのだろうか、ジロリ、とこちらを見てきたルックが、小さくて隠れてみえないであろう湊に気づいた。
「湊?」
「あ、見てるのバレちゃった。」
「気配が、ね・・・。・・・何してるのさ。今朝は仕事だったんだろ?」
「うん。終わったよ。でね、ルックもいないし、ご飯、食べにきたの。じゃあルックが。」
「ああ。悪い。ちょっと部屋でハーブの調合していたんだけど、胡椒を使いたくて。借りにきたら固形のものしかなかったから、ついでだしと思ってここですってたんだけど、ね・・・。ハイ・ヨーなら今ちょっと出てるよ。」
その口調は、激しくここで作業をするのを後悔している様子だった。
「ふーん。ルックってすごいね、なんでも出来るんだね!」
「いや、別になんでもは・・・」
「それ、手伝っていい?」
「ああ。」
ルックは湊を招きよせて、乳鉢を持たせる。
「これで・・・こんな感じで・・・すってくれる?」
自分で乳棒を持ち、湊の背後から手をまわして乳鉢を持っている湊の手の上に自分の手を重ねる。そうして先にすこしすってみせてから、乳棒も湊に手渡した。
そんな光景を、多くの女性が“ごちそうさまです”と思いながら見ていたようである。
ルックはそんな視線を完全に無視して奥で何かをやり始めていた。湊はといえば既に目の前の作業に夢中になっていた。
「ルックぅ。こんなものでいい?」
しばらくしてから湊がルックを呼ぶ。
「どれ。ああ、いいね。ありがとう、湊。代わりに朝食、作ったから。食べなよ。」
「っえ!?ル、ル、ルックがっ!?」
「・・・そうだけど、何。」
「え、いや、あの、その、う、嬉しい!」
最高の笑みを浮かべて、湊はルックを見た。
「そ、そんなに喜ぶようなものは作ってないよ。ほら、さっさと食べなよ。・・・とりあえず、僕は悪いけど、部屋に帰る。」
少し視線をそらせたルックはいい加減、周りの視線に耐えられなくなったようである。それが分かったから、湊も“あとで行くね、ありがとう”とだけ言って、ニコニコと転移魔法を使うルックを見送っていた。
ルックがいなくなったので、湊に頭をさげたりしながら、集まっていた人々はゆっくりと散っていく。
やっぱりルックって人気あるよなーと思いながら、湊はルックが奥で作ってくれていたものを取りに行った。
「わぁ。すごい綺麗なオムレツ!」
卵料理は難しいと言われているというのに、そこにあるのは見た目も焼き加減も味も申し分ないプレーンオムレツと簡単なサラダだった。
湊はそのまま厨房でそれらを食べる事にし、“ルックの手料理”と幸せをかみしめつつ味わっていた。
なんでもまずい、のルックだというのになぁと少し不思議に思いながらも完食し、後片付けをした後で、湊はルックの部屋に向かった。
作品名:ルック・湊(ルク主) 作家名:かなみ