ルック・湊(ルク主)
虎視1
「最近商人などの立ち入りが多くないか?」
少しムッとしているルックがボソリ、と呟いた。ん?と首を傾げながら、湊が答える。
「ああ、うん。どうしてもね、やっぱ戦争にも先立つモノが必要でしょ?だからね、一時的に開放させたんだって、シュウが。」
「だけど、それに紛れ込んで、ろくでもない輩がって事も・・・。」
「・・・うん・・・。でもそれは徹底して調査したうえでの取引許可を出すらしいから・・・。それでも油断はしたらダメとは言われたけれどもね。」
そう言えば最近あった会議に、魔法団長である自分は呼ばれなかった。とりあえず魔法やら戦法やらに関係のない話し合いなんだろうと気にもとめなかったが・・・そういう事か。
自分が参加すれば、反対しかしない、と踏んでのことだろう。
もちろん、参加していれば反対していた。
もともとここは基本的には開放している状態の本拠地である為、戦争での疎開者などは割合入ってくる。それもやはり色々調査はされているらしいが。
だが商いなどの目的では、ここは厳重な審査の上での許可が必要となっている。暗殺目的だけではなく、商品や言の葉による人々の洗脳、といったやり方での攻撃だって、やろうと思えば可能なのだ。そんなものに簡単に許可が下りる訳がない。
だが、湊が言うにはしばらくの間だけ、特別開放がなされているらしい。
確かにこの土地で一番懐を潤すのに有効なのは商売だろう。だが、いくら期間限定とはいえ、大丈夫なのだろうか。
「・・・ルック?」
スパイに関しては、どうしようもないだろう。多分、普段から紛れ込んでいる可能性はある。こちら側だってやっているのだ。あちらがやっていない訳がない。
だが暗殺者となれば話は違う。まあ、これに関しても、むしろ商人にまぎれて入ってくるよりも、戦争孤児などにまぎれたほうが入りやすいだろうから、可能性としては低いが。
それよりも。
「ルック?どうしたの?大丈夫?」
「ああ、なんでもない。湊、ほんと、油断したらだめだからね?分かった?色んな意味で、だから。」
「色んな?まあ、うん、油断はしないけど・・・。」
油断しないといいながら、先ほどとある果物売りの男に甘い笑顔を見せていたじゃないか。ルックが冒頭でムッとしていた原因を思い返す。
いや、本人はいたって普通の笑顔で接していただけだろうが。
だが相手の商人は鼻の下がそうとう伸びていた。とは言っても、たいていの商人は常識をわきまえて何もしてはこない、とは思うが。
それでも心配な気持ちはなくならない。
営業許可を出す調査に、まさか『湊を気に入ってしまった場合のはまり具合』や『ストーカー属性』など組み込まれている訳はなく。
どうせこんなことをシュウに言っても無駄だろう。あの男は湊の事絶対好きなくせに、こういった商売に関しては容赦ないからな。
腐れ縁達に言ったとしても考えすぎだろうと一笑されかねない。
あの赤青のヤツらはそれにかこつけて湊の傍から離れなさそうだし、ね。
ルックはため息をついた。
もちろん、このくだらない期間が終わるまで、基本的には傍を離れるつもりはないが、かといって100%なんて無理な話。
なんとなくおもしろくないが、あの2人を頼るしかない、か。
ただでさえ、普段からあらゆる場所でたびたび妙な声をかけられている湊。それでも、さすがにここに入ってくる者達は湊が同盟軍の長であるという意識があるものばかりの為、この本拠地ではそういった妙な事は基本的にはなかった。
だが今回のように、商売が目的でやってきている者にとっては、同盟軍の長であるとか、そういった意識は薄いだろう。それでも大抵は妙な事にはならないとは思うが・・・だからといってやはり気になるものは仕方がない。
湊が軍師の執務室に行っている間に、ルックは詩遠とシーナに自分の考えを話した。
「あー、まあ、あいつに関してだと、それはねぇよ、とは言い難い、な、確かに。そういえば昨日も新しく入ってきたらしい食べもん屋の店のヤツに声、かけられてたわ、あいつ。アレ、多分店のヤツ、絶対そうゆう目で湊の事、見てたよなー。」
シーナが呆れたような笑いを見せて言った。またか、とルックはイラっとする。
「まあ、どんなヤツがいるか分からないものね。入って来る者が増えれば、それだけ色々な輩が増える訳だし。」
詩遠もニコリとしながら言った。
とりあえずはバカにしたような様子も見せず、話を聞いてもらった事に内心ホッとした。
湊はこの同盟軍の軍主である為、もちろん用心は必要。その上なぜか変なフェロモンでも出ているのか、男に妙にモテたりする。だから、さらなる用心を考えすぎるくらいが丁度いいんだと、ルックは思っていた。
「とりあえず、僕は基本的にはあの子の傍を離れるつもりはないけど・・・。」
「ああ、俺も一応注意しとくわ。」
「俺はどちらかというと、喜んであの子の傍にいておくけど、ね?」
詩遠が楽しそうに言った。
「・・・敵がまずここにいたか。」
「やだなあ、ルッくん。敵、だなんて。せめてライバルって言ってよね。」
ますます楽しそうに返してくる詩遠を、ルックはジロリと睨む。
と言っても、本気で警戒している訳ではないが。
詩遠の事だから、今回に関しては多分まじめに気をつけてくれるように思えた。
作品名:ルック・湊(ルク主) 作家名:かなみ