二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

盂蘭盆の夜

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
神様というのは、人間に対していつだって不公平で不平等だ。それはもう、あらゆる点で。例えば、何の罪もない子供の命を容易く奪ってみせたかと思えば、世界を滅ぼそうなんて考えてる悪人を三千年も生かしたりする

『そりゃあ、俺様が神様だからな』
…幻聴は無視する。
『オイ、聞いてんのか』
人間、妄想癖も悪化するとここまでリアルに人の声や姿を感知できるのか。プロフィールとかの特技欄に書けるかな。
『宿主ィ、返事しねーと金縛りにするぞ』
「……煩いなぁ」
あーあ、遂に幻聴に返事をしてしまった。ベッドに腰掛けたまま固まりかけていた下半身が、すぐに軽くなる。ちょっと満足そうな顔をしてるのに腹が立った。というかコイツ、いつまで居座る気だろう。
『いつまでって、盆が終わるまでに決まってるだろ』
「人の心読むなってば。……ああもう、神様はどこまで不平等を貫く気なんだ…」
僕の最愛の妹は帰してくれないクセに、この迷惑な男は現世に帰ってくる。日本の盆制度を利用して戻ってくるなよ、自称・古代エジプトの邪神が。何かこう、恥ずかしくないんだろうか。異国の神として。

『この世にはっきりと生まれた場所が古代エジプトってだけで、特定の国や宗教の神じゃねーからな。人間の恨み・憎しみが存在する限り、俺様は全世界共通の邪神なんだよ。どうだ、国際的だろ?』
「だから人の心を……もういいや」
遊戯君たちにフルボッコにされて消滅した筈のコイツが、フラフラと戻って来れる理由が今やっと分かった。人間の心に闇がある限り、永久不滅ということらしい。めちゃくちゃすぎる。今時の中二だって、もっとマシな設定を考えるだろう。
溜息と共に後ろへ倒れ込む。寝転がったまま、昨夜作った精霊馬を手に取った。バランスも取れたなかなかの出来だと思う。牛の足が少し歪んでいるのを直しながら、また1つ溜息を零す。

「天音がこれに乗って帰ってきたなら可愛かっただろうけど…お前が乗ってきても気持ち悪いだけだよ、絵面的に」
『さっきからやけに攻撃的だな。カルシウム取れ、小魚食え』

どこまでも人の神経を逆撫でする自称・邪神の姿を目に入れたくなくて、ナスと一緒に薄手のタオルケットを被る。薄い布一枚隔てた向こう側で、その気配が近付いてくるのが分かった。近付いたって身体は乗っ取れないぞ。お前も僕も、もうリングは持ってないんだから。
僕の中にいた頃よりも幾分か冷たさを増した気配は、ベッドのすぐ横で止まる。僕は無意識に、かつてリングがあった箇所へ手を当て息を詰めた。

ふわり、と気配の一部が僕の身体へ乗せられた。

何事かと身体を強張らせていると、それはポンポンと一定のリズムで何度も置かれる。保母さんがお昼寝の時間にするような、子供を寝かし付けるための動作をされていると気付いた瞬間、僕は思わず飛び起きた。

「どこで覚えてきたの!」
『なっ…いきなり起き上がって何だその言い草は!』
「勘弁してよ!子供をあやす真似する邪神がどこにいるんだよ!」
『残念ながらここにいる!』
「残念だと分かってるなら最初からするな!」

ホントにいい加減にして欲しい。冷たい空気を纏った気配は確かにソレっぽいというのに、やることとのギャップが大きすぎる。
こういうことをするから、僕の中でコイツのイメージが固まらないんだ。遊戯君たちからは、それはもう凶悪な顔と企みをもって大暴れしたと聞かされていたのに。

さっき勢いよく起きたせいでベッドから落ちたナスを見つけ、そっと拾い上げる。また割り箸の足が歪んでしまった。いっそのこと、割り箸をもっと突き刺してやろうか。そうなるともう、牛じゃなくてムカデになっちゃうけど。

精霊馬には、来る時はすぐ来られるように足の速い馬を、帰る時はなかなか帰れないように足の遅い牛を、という願いが籠められている。言うなれば、祖霊に対する親しみの感情を具現化したアイテムのようなものだ。
でも生憎とバクラは僕のご先祖様じゃない。盆が終わってすぐお引取り願ってもバチは当たらないだろう。本当にムカデに乗って帰ってもらおうか。

そこまで考えてふと顔を上げると、親心を仇で返された(と主張している)バクラが拗ねてそっぽを向いていた。そのまま放っておけたら静かで良かったけど、邪神サマに苛立たれるといろいろ困る。リングに封印されていないバクラは、僕という鎖から解き放たれた悪霊そのものみたいな存在だ。しかも一応“神”と名乗るだけあって、その邪念も半端ない。桁違いのラップ音やポルターガイストが僕のマンションに襲い掛かる前に、ちょっとだけ宥めることにした。

「ムカデにはしないよ」
『……当たり前だ』
「…それにしても、何で天音は帰ってきてくれないんだろう。冥界で会わなかった?」

ピクリと反応して、背中を向けていたバクラがゆっくり振り向いた。揺らめく瞳に、微かな動揺が読み取れる。僕は何か変なことを言っただろうか。ただ、話題を出そうと思っただけなんだけど。

『…冥界と一言で言っても、生きた時代も違えば魂のステータスも違うからな。俺のいる所じゃ、天音どころか日本人にも会わねーよ』
「えー、冥界の神様なのに?」
『文句なら王様に言え。ホルアクティに倒されてここまで復活するのに、どれだけ時間を費やしたか…』
現代人が思ったより心を病んでて助かったぜ、なんて真顔で言われると反応に困る。
「じゃあさ、カミサマ。どうして天音は帰ってこないの?」
『何か今スゲー嫌味に聞こえたんだが…。……もしかしたら、もう冥界にいないのかもな』
予期せぬ言葉に僕は固まった。

人間が死ねば冥界へ行くということは、目の前のバクラから聞いたことだ。もう1人の遊戯君が冥界へ帰っていくのだって、仲間のみんなと見送った。その冥界にいないというなら、天音は一体どこへ、いやどうなってしまったのか。

『年端もいかないうちに死んだなら、現世の業も少ない筈だ。とっとと転生しててもおかしくねーだろ』
「…転生って、輪廻転生?生まれ変わり?」
『ああ』

転生。考えたこともなかった。天音はずっと天音のままで、永遠に僕の妹だと思っていた。それが当たり前だと。けれど、もしかしたら天音はもう天音でなくなっているかもしれないんだ。どこの誰とも知れない人間に生まれ変わって、僕と何の関りもなく生きているかもしれないんだ。
思わぬ可能性を提示されて、僕はいつになく強いショックを受けた。胸がキリキリ痛む。この痛みには覚えがあった。一度目は、天音を亡くした時。そして二度目は、リングを手放した時。

僕はまた、妹を失ってしまったのか。
手に持ったままだったナスに目を移した。天音は来ない。実家にも帰れない。孤独な僕の元へ来るのは――


「…ね、お前は何で来るの?」
『何でって…』
同情だろうか。だったら要らない。そんなの僕を馬鹿にしている。僕を家事オンチの再起不能人間にしたのは、どこのどいつだと思ってるんだ。無責任にいなくなったのは、どこのどいつだ。同情されるぐらいなら、冷やかしで来たと言ってくれた方がまだマシだ。

『償いだよ』

同情よりも最悪な理由がまだあった。
作品名:盂蘭盆の夜 作家名:竹中和登