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ハロウィンつめあわせ

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困った人(ギルエリ)



軽やかで優美な音楽と、さざ波のような人々の話し声から、エリザベータ・ヘーデルヴァーリは遠ざかっていく。
ローデリヒ・エーデルシュタインの屋敷ではハロウィン・パーティーが開かれていた。
品良く豪華な大広間では、着飾った上流階級の人々がパーティーを楽しんでいる。
しかし、エリザは使用人としてこの屋敷で働いている身なので、紳士淑女の中に入っていくことはしない。
目立たないように仕事をしていいた。
だが、パーティーが始まってから時間が結構たっていて、用意しなければならないことがしばらくないので、休憩することにした。
広い庭に出る。
夜空の下、エリザはほっと息をついた。
屋敷の主のローデリヒは親切で優しい人だ。
だから、この屋敷で使用人として働くことは苦にならない。
働くこと自体も嫌いではない。
けれども、働けば、それなりに疲れてしまう。それだけだ。
ふと。
背後に気配を感じた。
だれかが忍び寄ってきているようだ。
エリザは緊張し、俊敏な動きで振り返る。
「何者……!?」
鋭い声と視線を、近づいてくる者のほうへ飛ばした。
もちろん身構えている。武器があれば、それを構えていただろう。武器となるものを持っていないのが残念だ。
「……おまえ、そんなカッコしてても、やっぱり中身はあんまり変わってねぇな」
「ギル!」
「その戦う気満々なとこ、剣持って馬で戦場駆けまわってたころのまんまじゃねーか」
ギルベルト・バイルシュミットだ。
ケセセセと奇妙な笑い声をあげて、ニヤニヤしている。
エリザはツンとした表情を作り、ギルから顔をそむけた。
「なんのことでしょう。私にそんな記憶はございません」
「今さら誤魔化したって意味ねぇっての」
ギルの声は楽しげだ。
そんなギルを、エリザはチラッと見た。
ギルは今夜のパーティーの招待客のひとりだ。
だから、ちゃんと正装している。
体格が良く、顔立ちも整っているギルは、貴族然とした格好が似合っている。
まあ、口を開かなければなんだけどね、とエリザは思った。
喋れば外見の良さが台無しになる。
そんな残念なことをしていることに本人は気づいていないのだ。
「……なんで、あんた、こんなところにいるのよ? まだパーティーは終わってないでしょ?」
パーティー会場である大広間ではなく、人気が無くて寂しい庭に、なぜギルはやってきたのだろう。
不思議に感じて、エリザはその疑問をそのままギルにぶつけた。
「あ、あー、うー、それはだな」
途端に、ギルは気まずそうな表情になった。
その顔を見て、エリザはピンときた。
「わかった。フランシスにもアントーニョにもかまってもらえなくて、ひとり寂しくて、庭に出てきたんでしょう」
フランシス・ボヌフォワとアントーニョ・ヘルナンデス・カリエドはギルの悪友だが、パーティーでは他の者に声をかけるのに忙しいのかもしれない。
「そっ、そんなんじゃねーよ! だいたい、ひとりは楽しいんだぜ!」
「そうやってムキになるところが、アヤシイわねー」
今度はエリザがニヤニヤする番である。
ギルは胸のまえで腕を組んだ。
「俺はな、もうパーティーには飽きたから、帰ろうと思ったんだよ!」
「へえええ〜、そうなんだ〜」
エリザはからかうように笑ったままでいる。
だが。
なぜか、ギルは言い返してこなかった。
表情も落ち着いたものに変わる。
じっとエリザを見ている。
「……なによ?」
妙だと思い、エリザは小首をかしげた。
すると、ギルはなにかを取りだした。
それをエリザのほうに差しだす。
「おまえに、やる」
紙に包まれたキャンディだ。
エリザはきょとんとして、それを眺める。
「今日はハロウィンだからな!」
急にまたギルはムキになったように言って、キャンディをエリザのほうにさらに近づけてくる。
だから、エリザはそれを受け取ることにした。
エリザが受け取った直後。
「じゃあ、俺は帰る!」
そうギルは宣言し、さっと門のほうへ向かって歩きだした。
本当に帰るつもりだったのかと、エリザは少し驚いた。
エリザはしばらくギルの背中を見送った。
なにがなんだかよくわからない。
しかし、そろそろ屋敷の中にもどったほうがいいだろう。
そうエリザは判断し、ギルが去っていったのとは逆方向に歩きだす。
歩きながら、エリザは包み紙を開けて中からキャンディを取りだした。
せっかくなので食べることにする。
キャンディを口の中に入れた。
次の瞬間、エリザの表情がふっとやわらいだ。
甘くて、おいしい。
疲れが少し無くなった気がする。
エリザは屋敷の中に入った。
照明の下、何気なく、キャンディの包み紙を見た。
そして、紙に字が書いてあるのに気づく。
手書きの字。それも、ギルのものであるらしい字だ。
その内容は。
「ちょっ、コレ……!」
思わず、エリザは声をあげた。
だが、自分が使用人の立場にあることを思い出して、包み紙を持っていないほうの手で自分の口をふさぐ。
口をふさいでいなければ、また、声をあげてしまいそうなのだ。
まったく。
まったく、まったく。
まったく、あのバカは……!
心の中で叫びながら、エリザは顔を真っ赤にして歩き続けた。



Ich liebe dich.


私はあなたを愛しています。






作品名:ハロウィンつめあわせ 作家名:hujio