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耳としっぽとハロウィーン

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1.来良学園


 
 
 
 
10月最後の日曜日は、少々汗ばむくらいいい天気で。朝からだらだらと布団の中で過ごしていた帝人は、正臣からの呼び出しに応じて午後の街へと飛び出した。
公園で待ち合わせ、着いて来いというので大人しく後に続けば、なぜか見慣れた建物へと連れて行かれた。休日のはずの校内には、明らかに部活とは関係なさそうな生徒が大勢。それだけでもおかしいのに、その半数以上が仮装しているという状況だ。
「なにこれ?」
「ほら」
手渡された紙を見ると、『君も仮装して街に出よう!』という企画が書かれていた。参加費用は1人300円。各々仮装して街に繰り出し、いちばん多く菓子を集めたものには集金分の学食の食券が贈られる、云々。
「思ったよか人数集まっちまってよー。他の学年のやつらもやりたいって言い出すし、結局学校側の許可取る羽目になっちまった」
確かに、校内を闊歩する仮装軍団は、とうてい1クラス2クラスといった数じゃない。もう一度紙を見直せば、『希望者は1-B:紀田正臣まで!』と書かれていた。つまり、主催者だ。
「最近大人しいと思ったら、内緒でこんなことやってたんだ」
「大人しいって、あれか、放課後ナンパに誘わなかったことか? あれはだなー、行こう行こうと押しまくるからお前が来ないんだと考えた優しい親友がじゃあ引けばいいんじゃないかと熟考した結果、」
「で、僕にも参加しろって?」
「せめて最後まで聞いてくれよ!」
「長いんだもん。で、僕も参加するの?」
「そう」
主催者特権、と手渡された紙には、誰がなんの仮装をするかが書かれている。あまり派手になり過ぎないようと目を光らせる教師対策だそうだが、狼男、吸血鬼、雪女、フランケンシュタイン等々、聞き覚えのあるモンスターの名がずらりと並んでいる。
と、自分の名前を発見してみれば、『ミイラ男』と書かれていた。ミイラ男。つまり、包帯のぐるぐる巻きだ。頭にちょっと巻くくらいなら別に構わないが、正臣の企画である以上そんな簡単な仮装で済むとも思えない。
「頭に包帯って、んなわけねぇだろ。全身タイツで包帯ぐるぐる巻き―――って、痛い痛い! ちょ、マジ痛ぇよその鞄! いったいなに入ってんだよ!!」
「会う前にスーパーで買ったサバ缶」
「缶詰!? なんで缶詰!!?」
「2つで百円だったから。今日の晩ご飯にしようと思って」
「野菜も食えよ…」
どうやら衣装は、自前で衣装を調達する他に、生徒の持ち寄りと演劇部の好意でまかなっているらしい。全身タイツなんて冗談じゃないけれど、帝人は衣装の入った箱を覗いて、じゃあこれなら、と白いシャツとマントを取り出した。生徒持ち寄りの服が入っている箱から学ランのズボンを借りて、蝶ネクタイをつければ即席吸血鬼の完成だ。
「なんだよ、それじゃ普通すぎるだろー! せっかくだからお揃いにしようと思って、包帯頑張って探したのに!」
正臣が酷いとぼやきつつ差し出した袋を見れば、2色のカラー包帯がこれでもかというくらい入っていた。多分100個はあるだろう。
「…黄色とピンクのミイラなの?」
「可愛いだろ? ちなみにピンクがお前の分な」
「わいせつ罪で捕まればいいと思うよ?」
「帝人酷ぇ!」
ばっさり切れば、ぶつぶつ言いながら正臣は包帯を生徒持ち寄り用の箱に入れてしまった。代わりに茶色い犬耳としっぽ、肉球の着いた手袋をを取り出して、頬にひげを3本ずつ貼り付けている。
「自分だって、狼男なんじゃないか…」
「ひとりマミーじゃ淋しいだろ」
「そう? 正臣なら、留置所見学ツアーも1人で楽めると思うけど」
「捕まるの前提かよ」
ミイラはともかく、ハーフパンツに耳しっぽ装備、犬手袋をつけた正臣は、案外似合っている。狼というよりは犬だが。
一方帝人は、明らかに『着せられてます』といった感じだ。モンスターというよりは子供の仮装で、もちろん高校生のお遊びだからそれでいいんだけど、かなり似合っていない自覚はある。
「今からでも遅くはない! さあ、一緒にミイラにレッツ ・ トライ!」
「だから留置所は嫌だってば!」
鏡の前で言い合っていると、クラスメイトのかすかなざわめきが聞こえた。そちらに目を向ければ、レースをふんだんに使ったミニの黒いワンピースに、同じく黒いウサギ耳を垂らした杏里が困ったようにうつむいている。
「おおー! 杏里ってば、いつも以上にエロ可愛いぜ!」
「紀田くんは、似合いますね。犬耳」
「竜ヶ峰くんは吸血鬼? どうせなら、メイクもしてみない?」
「張間さんは、…それは魔女の衣装でいいのかな」
「うん。杏里ちゃんが使い魔でウサギなの」
とんがり帽子にマント、手に箒を持った美香は、中身はともかく外見は文句なしの美少女だ。今日は眼鏡を外している杏里も、薄く化粧を施し、抜群のプロポーションを生かした衣装はとても魅力的だった。2人並んでいると、男子生徒の目がついそちらに行くのもわかる。
「というわけで、今日は杏里ちゃんは私のもの」
「あの…、一緒に回れなくてすみません」
「ええー! 4人一緒に回ればいいじゃん。2人がいれば男も女もナンパし放題、菓子貰い放題で、」
「気にしないで。正臣は、こっちで面倒見るから」
「ちょ、面倒ってなんだよ!」
「では、またあとで」
「気をつけてね」
「すっげー自然に無視された…!!」
 
 
 
 
作品名:耳としっぽとハロウィーン 作家名:坊。