耳としっぽとハロウィーン
よよよと泣き真似る正臣を放置して、携帯をポケットに放り込む。教室を出ると、そこかしこに仮装した生徒の群れが集団を作っていた。
モンスターと思しき格好をしているものは案外少ない。演劇部の舞台衣装のような格好だったり、着物やチャイナを着ていたり、正臣のようにアイテムを装備するのではなく単に動物の耳をつけただけの者もいる。仮装というよりはコスプレの集団だ。
黒い衣装に猫耳ヘルメットの者もいた。都市伝説だし、まあいいのかな…などと思っていると、バーテン服にサングラスの一団とすれ違う。
「ちょ、あれいいの!!?」
「あー…、まあ本人に見つかんきゃいいんじゃね?」
「見つかったらどうするのさ」
「そこは自己責任だろ。ある意味モンスターには違いないしなー」
肯定はしないが否定も出来ない。確かに池袋の怪人であることには違いないけれど、一応知人であるだけに、なんというか非常に複雑な気分だ。
とにかく『仮装』であれば問題ナシ、ということで、着替えの終わった者から次々街へと繰り出していく。規定時間は2時から5時。3時間の間にいくつ菓子をゲットできるかで競い、集めた菓子は5時半までに学校の実行委員に報告に行って、厳正な審査のうえ6時に結果発表と商品授与がおこなわれる、という流れだ。ちなみに、菓子はそのまま貰った者の戦利品になる。
エントリー用紙に名前を書くと、帝人は正臣と連れ立って池袋の街へと繰り出した。そこかしこに仮装した来良生の姿を見かける。帝人自身この格好で電車に乗る気はないし、街中に学生があふれかえるのは必然とも言えるだろう。
「あっちここっちも、ライバルだらけだよなぁ」
「ライバルってなんの?」
「なに言ってんだ帝人! 俺たちはこぞって、可愛い女性から菓子を貰わなきゃなんない身分なんだぞ? 先手必勝、ナンパはとにかく数をこなしたもん勝ちなんだ!」
「1人でやってよ」
お菓子を貰うイベントであって、ナンパとは断じて趣旨が違うはずだ。見知らぬ人に声をかけるという点では確かに似たものもあるけれど、女性に限らないのだから。
冷たく言い放つと、それだ、と正臣が手を打った。
「よし、二手に別れるぞ。じゃあ、2時間後にここで待ち合わせな」
「え? ちょっ…」
「お前には負けないからな!」
「正臣!?」
止める間もなく走り去る親友に呆然とするが、帝人の体力では追いかけるのも至難の業だ。あっという間に人込みの向こうに消えた背中に、帝人は深々とため息を吐いた。
作品名:耳としっぽとハロウィーン 作家名:坊。