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【どうぶつの森】さくら珈琲

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13.ピースとリリアンと


 ピースを見つけた。
 ピースは毎日筋トレに励む灰色のネズミの男の子。わたしも何回か彼と虫取りやかけっこをして遊ぶ仲だ。小柄なのにわたしよりずっとずっと体力があって、なかなか勝てずにいた。
 しかし、今日の彼にはいつものように声をかけるか迷った。何か大きな包みを持って、木の陰に隠れてもぞもぞしている。怪しすぎる。友だちじゃなかったら門番さんに通報しているところだ。

―――ピース、何してるの?
「うわぁ! さくら!? いきなり出てくるなよ!」

 いきなり大声を出されたので、こっちのほうが驚いた。本人はこそこそしてるつもりだろうけど、そういう姿の方が余計目立つよ。
 そんな彼の視線の先は―――リリアンだ。
 なるほど。わたしはニヤニヤしてしまわないよう、なるべく普通の表情を装って尋ねた。

―――なんでリリアンを見てるの?

「別に見てない」だの「たまたま通りかかっただけ」だの、これまた大声で騒ぐ。わかりやすいなあ、ほんとに。
 一方向こうのリリアンはロボと何かおしゃべりをしていた。二人とも釣り好きだし、釣りざおを背負っているから、きっと夕方狙いのピラルク探しについてだろう。

「……アイツ、ロボのこと好きなのかな」

 アイツとはもちろんリリアンのこと。この二人はお互いを「アイツ」と呼び合い、気にしあっている。実はわたしは、とっくの昔から二人が両思いだと気づいているので、それが内心嬉しくもあり面白がってもいる。

―――どうだろうね。

 だから、あえて二人にそれを教えない。どちらかが自然に気づくのを待っているから。

「なんだよ! お前、おいらのジャマするならあっちいけよ!」

 ひどい言い草だ。わたしも釣りをしようかと川に行こうとしたら、「やっぱり待て」と引き止められた。

―――なんなの。一人でリリアン見てればいいじゃん。
「お前、リリアンと仲いいんだろ!?」
―――まぁね。
「リリアン、おいらのこと言ってたりする? もしかして、おいらのこと良く思ってたり……」

 なるほど。そうきたか。もちろん、わたしはしらばっくれた。

―――人の気持ちを誰かに言いふらしたりしないよ。リリアンは友だちだもん。
「なっ、なんだよそれ〜! もういい! さくらとは絶交だー!!」

 勝手に怒り出したので、今度こそ行こうと思ったらまた止められた。

「ちょっと待て!」
―――……何?
「そう疲れた顔するなって! あのさぁ、さくらにお願いがあるんだけど」

 名案といわんばかりの顔だ。即座に大きな包みを渡してくる。

「お手伝い頼むよ! これさ、リリアンに渡してくれない? 5分以内に!」
―――……やだ。
「なんでだよ! いつもしてくれるじゃん!」
―――でも今回は、やだ。それ、リリアンのために買ったんでしょ。こんなに近くにいるんだから自分で渡せばいいじゃない。

 わたしなりの正論を言ったらピースは黙り込んでしまった。もう少しだ、とわたしは背中を押すために続けた。

―――やっぱり自分で渡してくれるほうがリリアンもうれしいはずだよ?
「む、ムリだよ」
―――なんで?
「だってアイツ、おいらのこと、きらってると思うし……」

 どうしてそうなるんだ! と、つい真実を言ってしまいそうになったが、リリアンの気持ちを台無しにしたくない。ここはぐっと堪えた。

―――そんなのわかんないでしょ。
「おいらアイツの前だとついひどいこと言っちゃうし、絶対こんなおいらのこと、好きなわけがないだろ!」

 ピースらしくない。いつも「男ははっきりしろー!」って女のわたしに言ってくるのに。
 第一こうやって木の陰でこそこそ見つめること自体、男らしくなさすぎだ。
 もうじれったすぎて、持っている包みを奪い取った。

―――お手伝いOKしました。5分以内に渡してきますよ。

 またピースが止めようとしたけれど気にしなかった。わざとゆっくりリリアンに近づき、大きな声で話しかける。

―――ねぇリリアン、お話中ごめんね。これ、ピースがさぁ……。
「やっぱり、おいらがやる!!!」

 叫び声とともに突き飛ばされた。もちろん、わたしが。やっと行動してくれてほっとしたけど、さっきからわたしの扱いひどすぎないだろうか。
 そしてわたしから包みを奪い返すと、リリアンに差し出した。もうどうにでもなれ、というピースの勢いが伝わってくる行動だった。

「ピ、ピース!?」

 リリアンもロボもいきなりのピースの登場に驚いているようだった。
 ピースは、みるみる真っ赤になると、100キロマラソンを終えた後のように息を切らしながら言った。

「こ、これ、その、お、お、お、おいらが街で見つけて、ほら、だから、その」

 わたしはピースをそっと、急かすように肘で小突いた。

「だから、おいら、リリアンの、こと」

 これはかなり良い雰囲気だ。
 鈍いリリアンもさすがに何の話か理解してきたようで、二人とも真っ赤になってしまっている。わお、とまとじゃないけれど、これってドラマみたい。見ているこっちもどきどきしてきた。
 そして、長い間が開くと、やっとピースは言い切った。

「これ、やる!」

 と、押し付けると、あっという間にどこかへ逃げてしまった。
 残されたリリアンはぽかんと口を開けて、我に返るとすぐに包みを開く。
 それは、この村じゃまず手に入らないような、立派なバラのコサージュだった。
 きっとかなり高級なものだろう。ピースはずいぶん頑張ったみたいだ。
 リリアンがそのコサージュを耳につけると、おてんば娘からどこかのお嬢様に変身したみたい。鮮やかな赤色も、彼女によく似合っている。

「よく似合ってるよ、リリアン」

 ロボが微笑んで言った。……今までほとんど存在を忘れていたことが申し訳なくなっちゃった。

「ホント? ありがとう、ロボ!」

 リリアンは照れ笑いを見せると、わたしの方を向いて言った。

「さくらちゃんもありがとね。」
―――わたしは何もしてないよ。それより、今にも恥ずかしさで身投げしそうなアイツのところへ行ってあげたら?
「あはは、そうする! 川に流れてたら釣り上げてやるんだから! じゃあね、二人とも!」

 リリアンの姿が見えなくなり、ようやくわたしは肩の力が抜けた。ほんと、世話が焼けるよ。

「綺麗だったな、リリアン」

 ロボがため息をつくように言った。
 わたしもそうだね、と返そうとしたところだった。

「先越されちまったなぁ」

 ロボはしみじみと、しかし悔しそうに、言うのだった。
 わたしはその言葉の意味がつかめず、聞き返す。
 ロボは独り言のように言っていたが、おそらくそれはわたしに向けたものであり、きっと誰かに聞いてほしかった気持ちでもあったのだろう。

「まぁ二人が相思相愛なんてみんな知ってることだけどな。でもよ、二人共素直じゃねえし、どこか入れるような気がしてよ。
 なんて、ずるいよなオレ。ピースが聞いたら男らしくねえって怒るだろうな。」

 そうか、そういうことか。
 ロボはしゃべりすぎたとばかりに悔やんだ表情を見せた。
 いいんだよ。わたし、誰にも言わないから。気にしないでいいんだよ。