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【どうぶつの森】さくら珈琲

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22.お泊り会


「さくらぁ、聞いた? 今日は十三夜なんだって」

 相変わらず通いつめてる喫茶店「ハトの巣」。
 カウンターの前にはマスター、隣にはみしらぬネコさん、それはいつもとなんら変わらない。
 唯一いつもと違うのは、やたらみしらぬネコさんが、なんていうか……ひょうきんってことだ。そう、いつも以上に。

「陰暦で言う9月13日は綺麗な満月が見えるんだよー、これ、ジョーシキね! ちなみに陰暦って言うのは〜」
―――え、えーっと……相変わらず博識だね。
「でしょ〜! オレこう見えて、そーゆーの詳しいからぁっ」

 だめだ、口調がとまとになっている。
 原因は、彼が持っているグラスの中身。言うまでもないが、お酒だ。アルコール分の低いカクテルらしいけど、彼の顔は真っ赤になっていた。
 わたしが来たときには既に持っていて、しかもいくら言っても全く離してくれない。

―――マスター、なんでこの人に飲ませたの……。
「クルックー。良い月が出ていたので、つい……」

 一緒に月見酒でもしゃれこもうと勧めたら、思いのほかぐいぐい飲み始めてこんなことになってしまったらしい。
 というか、この村にお酒を手に入れる手段があったことが驚きだ。
 酔ったみしらぬネコさんはいつもよりさらに饒舌で、まぁこれはこれで結構面白い。
 わたしはしばらくこの酔っ払いの話を聞くことにした。

「オレがどうして、しょっちゅうこの村に来てるかわかる?」
―――さぁ。
「さくらに会いにきてるんだよ! ちょっと気づかなかったの〜? こんなにアピールしてるのにさぁ!」

 いや、なんとなくは察してたけどさ。それでもさらっとそんな恥ずかしいことを言われると心臓に悪い。
 わたしの変化に気づかず、みしらぬネコさんは陽気に続ける。

「ねぇさくら、旅って良いよ。流れる景色に憧れちゃってさ。誰それ構わず話しかけたりしてたけど!!
 とたけけの奴もさぁ、オレと同じ旅人だよ。
 毎日土曜日の村を旅してるのさぁ。今日ここで歌ってぇ、明日土曜日を迎える村に移動してさぁ……
 いやぁ好きなこと出来るのって楽しいよねぇあはははは!」
―――マスター、この人、お酒飲むといつもこうなの?
「すぐに酔いは醒めるはずなのですが……」

 みしらぬネコさんは何が面白いのか、テーブルをばんばん叩いてひとりでに大笑いしだした。
 そんな姿を見ていてなんだか不安になってきた。さすがに大丈夫かな、この人。

「さくら!」

 いきなり大きな声を出して立ち上がったので、びっくりした。

「ちょっとそこ座ってみて!」

 そう言って彼が指したのは、とたけけさんがいつも歌うステージの前にある小さなテーブル席だ。
 何故? 酔っ払いの言うことはわけがわからない。
 とりあえず言われたまま座ると、彼はわたしの前に向かい合って席に着く。

「おぉ〜」
―――何が「おぉ〜」なの?
「いや、こういうのも新鮮だなぁと思ってさぁ」

 隣に座るカウンター席と違って、向き合う形になるのでいつも以上にまじまじとわたしの顔を見つめて言う。
 そんなに見られると、恥ずかしい。思わずうつむいてしまう。特に彼は、いつもわたしの目を見て話す。わたしが何よりも気にしているこの目を。

「さくらってほんと、キレイな目だよね。まつ毛も長いしさ〜」
―――やだよ、こんなつり目。
「そうかなぁ? とっても美人さんだと思うけどなぁ」

 もうなんでもいいから、そんなに見ないで。ほんと、死んじゃうから。
 わたしは立ち上がり、机の上に自分と彼の分の代金を置いた。

―――外に、月でも見に行こうよ。

 とにかく、少しでも夜風でも当てて酔いを醒まさなくては。
 わたしは彼の手を引いた。
 さりげなく、握った。
 知り合って半年くらい。こんなに長いこと一緒にいるのに、わたしは手以外、彼に触れたことがほとんどなかったという事実に気づく。
 だから、その緊張がばれないように、さりげなく。
 花火大会のときの彼みたいに。さりげなく。さりげなく……。

「さくら!? 手!? 手つないでくれるの!? やばいじゃん、オレ、テンションあがっちゃうんだけどー!?」

……台無しだ。
 マスターは(これだけ大声で騒いでいるのに)何も聞こえないふりを徹してひたすらカップを磨いていてくれていた。なんだかその気遣いが余計、複雑な気持ちになるのだけれど……。
 わたしは恥ずかしさで爆発する前に、走って外に向かった。