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【Livly】誰も知らない物語

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崩壊


「あ、おはよぉ、サファイア」

ルチルは何も知らなかった。
サファイアもそれで、良かった。ずっとそのままで良いと思った。
二人は幸せだったのだ。
奇妙な関係だったが、お互いがお互いを必要としているからそれでよかったのだ。
サファイアはルチルの前では自分もリヴリーになれている気がした。
ルチルは自分を満たしてくれる相手がいるだけで良かった。

だが時々、目が覚めるとサファイアがいない朝がたびたび会った。
やどかり亭へ餌に買いに行くと、最近やたらモンスターの死体が転がっているという話を聞いた。
死体といっても、ほとんど残骸だ。本体は食べられてしまっているから、戦闘好きなリヴリーの仕業ではないだろうと。
気味が悪いとリヴリーたちは噂する。

(まさか)

サファイアが?そんなわけがない。
大抵、島に戻るとサファイアが何事もないかのように待っているのだ。
変わらない。
もし変わっていても、気にしてはいけない。

次の朝もサファイアはいない。
最近は昼過ぎに帰ってくる。
傷を負って帰ってくることもある。
ルチルは笑ってみせる。

「もう、また怪我してるじゃん・・・」

またルチルが看病しなくてはいけない。
治らない限りサファイアはずっとこの島にいるだろう。
いつもより、濃い血の匂いを漂わせている気がした。
気にしてはいけない。
気づいてはいけない。
二人の種族が全く違うことを思い出してはいけない。
毎日、そんな繰り返しだった。
時々から、毎朝サファイアはいなくなり、早いときは夜から既にいなかった。

(気のせいだ)

散歩に行きたい気分だってあるんだろう。
最近のサファイアは口数が少ない。ストレスでも抱えているのだろうか。

気にしてはいけない。
気づいてはいけない。
二人の関係が崩れてしまう。

ある噂が耳に入った。
無残なミミマキムクネの死体が見つかったという。
それだけじゃない、リヴリーが次々と殺されている。
聞きたくなくても、その噂はリヴリーアイランド中に広まっていた。
みんなが言う。犯人を捜す。

(嘘だ、嘘だ、だってサファイアは・・・)

サファイアはモンスターではない。そう信じたいのに、ルチルは走り出していた。
島に戻ると、そのときは既にサファイアが帰っていた。
聞いてはいけない、ここしばらくはそう思っていたが、今は聞かないことの方がよっぽど罪深く思えた。

「サファイア、帰ってたんだ・・・」

サファイアは何も答えない。

血走った目。

巨大な体、鋭い爪。

(ああ、ぼくと、こんなに違う。)

「ね、ねぇ、ぼくに黙って外出するのやめてほしいんだけど、いいかな」

サファイアは何も答えない。

「ほら、最近物騒なんだって。モンスターもリヴリーも見境なくおそっちゃう奴がいるらしいよ、こわいね、サファイア・・・」

サファイアは何も答えない。
こんなにも無言の時間が長く感じられたのは初めてだ。
一言でいいから、「それは怖い」でも「だから?」でもなんでもいい。返事を、返事をして。
ぼくを安心させて。

「ルチル」

サファイアがルチルの名を呼んだ。
期待を込めて、ルチルはその言葉に耳を傾ける。

「私は、モンスターだ」