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【腐向け】とある兄弟の長期休暇(後編)

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からかいたい!


「ここのコーヒーにしようぜ」
 兄お勧めの店に入り、やれやれと息をつく。メニューのスペイン語をロマーノが訳している間、スペインは自身の体をあちこちぺたぺたと触っていた。
「あかん、さっきの店に携帯忘れてきたかも」
 どのポケットにも携帯が無いのを確認し、慌てて店に戻って行く。その姿を視線で追い、ロマーノはスペインの分の注文を勝手にしておいた。
「グラシアス」
 注文の品を持ってきたウエイトレスに、スペイン語で微笑みかける。顔見知りの店主との軽口もスペイン語で、ヴェネチアーノは普段と違う雰囲気の兄に新鮮さを感じていた。
 長らく支配されていた国の言葉は身に染みており、自分達兄弟は同じイタリア語でもそれぞれ宗主国なまりがある。その違いが寂しいと思うと同時に、親のような宗主国との繋がりを感じられ、ヴェネチアーノは己の身に残る言葉に密かな幸せを感じていた。
 それはたぶん兄も同じ。時折家でも飛び出すスペイン語は、彼の奥にスペインという国が根付いている証だろう。
 動乱の時代、ただ受け入れるだけしか出来なかった自分達。
 それでも親には恵まれたなと、兄弟で飲みながら笑った覚えがある。
(兄ちゃん達は、その枠を超えちゃった訳だけど)
 宗主国と保護国、親分子分。関係の名は変わろうとも、お互いが一番大切。それだけは変わらない二人。
 変わらない事を受け入れながら、それに甘えず新しい関係に挑戦する兄達の気持ちが眩しく写る。
 壊れるのが怖い、離れるのが怖い。
 自分達兄弟のような断ち切れない繋がりが無いから、たとえ一度でも手を離せないのだと兄の元宗主国は言っていた。
 二度と手が掴めなくなるのは恐ろしい。
 ……でも、手を離さなければ抱き合えないから。
 よりお互いの頂点を目指して、この手を離す勇気を。
(大丈夫なのにね)
 コーヒーを口にしつつ、ヴェネチアーノは兄達を思う。
 スペインはいつだって兄なら両手を広げて受け止める男だ。
 兄は口は悪いが、相手の気持ちを汲み取れる人。
 どちらもお互い限定で、無条件に全てを受け入れる懐の持ち主だ。だから安心して一秒でも早くくっついてくれと思いつつ、ヴェネチアーノは先程とは色の違う溜息をついた。
(……いいなぁ)
 思わず羨望が胸を突き上げる。
 兄の一番であるスペインが、誰かの一番になっている兄が。
(いいなぁ)
 胸が痛むほどに羨ましい。
 自分には無い「一番」が眩しく、そっと視線をテーブルに落とす。
 本当に、早く二人が恋人になればいい。
 自分の為にもそう願う。羞恥と幸福に震える兄をからかって笑えば、きっとこの悲しい気持ちは溢れる兄へ愛情で胸の奥に消えるだろう。
「あった、あった」
 額の汗を腕で拭い、スペインが席に戻ってくる。自分の席にある覚えのないコーヒーに気付くと、わしゃわしゃとロマーノの頭を撫でた。
「俺の分も注文しててくれたん? ロマありがとさん!」
「や、やめろこのやろっ」
 子供のように褒められ、頬を真っ赤にした兄が抵抗している。いつもの笑みで席に着く彼に鼻を鳴らすと、ぼさぼさになった髪を撫でつけつつ備え付けの砂糖を渡した。
「お二人は本当に、仲がよろしいですよね」
 聞かれなくとも砂糖を渡せる、入れる量を知っている。
 当たり前のように行われる行為に、日本はカップを置いて微笑んだ。その穏やかな横顔をヴェネチアーノが見ていると、彼の視線がこちらに向けられる。
 あ、この目は何かを企んでいる目だ。
 長い付き合いになった友人の微かな変化に気付き、ヴェネチアーノはにんまりと笑った。先程の店での会話が脳裏を過ぎり、次の一手を期待する。
「まあなー、俺達」
 照れたスペインがいつものように『親分子分やし』と告げるより先に、日本は彼にしては珍しい力技で相手の言葉を叩き潰した。