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【腐向け】とある兄弟の長期休暇(後編)

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「まるで夫婦みたいです」
 いつもの台詞は最後まで言わせないよう、綺麗な笑顔で言い切る言葉。ただの例えで他意はありませんと笑顔に建前が張り付いているが、この場に居る中でヴェネチアーノにだけは「この二人で楽しみたい」という言葉が読めた。
(ド直球で切り込んだー!)
 普段大人しい友人の大胆な行動に、ヴェネチアーノは心の底から賛辞を贈る。ロシアと違い恐れられていない彼の言葉なら、兄も聞いてませんでしたとは出来ないだろう。
「なっ……!」
 予想通りロマーノは顔を真っ赤にして絶句している。口をパクパクさせるだけで反論も突っ込みも無かった。
「え、ええと……」
 対するスペインは、珍しい日本に押されつつ兄の様子を窺っている。これは再度仕掛ける覚悟を決めているのかも知れない。
「あはは、じゃあ兄ちゃん達は熟年夫婦だね!」
 ビッと親指を立て、日本のファインプレーに応える。眩しい程のいい笑顔が返ってくると同時に、ようやく正気に戻ったロマーノが突っ込んだ。
「誰が熟年ふ、夫婦だよっ」
 そんな所でどもってしまえば動揺がバレバレ。
 相当意識している兄の言葉に、ヴェネチアーノは悪乗りをして答えた。
「え? まだ新婚さんなの?」
「こんのバカ弟~っ!!」
 首にロックを掛けられてちょっと苦しい。それでも笑顔を消さずに居れば、顔を赤らめたスペインが両手で自身の頬を挟んだ。
「二人共からかっていややわぁ。……俺らはまだ清い交際やで?」
「お前も何言ってんだよ、ヴァッファンクーロ!」
 首が軽くなり、スパーンとメニューで頭を叩くいい音が店内に響く。怒りをスペインにぶつけ始めるロマーノだったが、それでも夫婦のように見られるのは嫌だと言わなかった。
 そんな彼に気付いているのか、スペインの顔は頭突きを受けようと笑顔が消えない。むしろベタベタとし始める状態で、ロマーノの怒りに油を注いでいた。
(いい感じ、いい感じ!)
 によによと見守りつつ、ケーキを頬張る。
 それに、こんなに暴れたならば夜はぐったりとするだろう。いつも激しい抵抗にあうお願いでも、疲れている時は面倒になって折れてくれる兄の事だ。きっと今夜は一緒に眠れる筈。
 今から夜のことを考え頬を緩めていると、隣の日本がハンカチで額を押さえていた。
「どうしたの、日本」
「いえ……この暑さの中では、少々目に毒ですね」
 目の前で繰り広げられている、バカップル(予定)の激しいスキンシップ。見ていて楽しいけれど、夏の暑さの中ではどうにも暑苦しい。
 そんなことをぼやく友人に笑い、ヴェネチアーノはこっそり耳元で囁いた。
「俺、これからもアレずっと見るんだけど」
「……頑張って下さい。この夏、私は家で過ごす予定ですので、何かあったら来て頂いて構いませんよ」
「う~ん、なって欲しいような、欲しくないような……」
「身内の幸せは、喜ばしいことなのですけれどね」
 こちらの複雑な気持ちを汲んでくれる言葉に苦笑し、バカップルの観察に飽きたら行くよと話す。飛行機の時間がきたので帰るという日本を見送り、ヴェネチアーノは太陽の下で思いっきり背伸びをした。
 眩しい太陽はどこかいつもと違って見え、見知らぬ景色も相まって不思議と気持ちが高揚する。ぐっと浮かんだ気分に安堵し、バカンスの続きを楽しもうと自然に思えた。
「あれ?」
 支払いを終えて出て来た二人の纏う空気が、先程より少し変化している気がする。どこかぎこちない様子に首を傾げていると、背後から大きな声が掛けられた。