二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

【腐向け】とある兄弟の長期休暇(後編)

INDEX|5ページ/8ページ|

次のページ前のページ
 

結婚したい!


 屋敷に着くと、ロマーノが夕食を作ると宣言。残り二人はキッチンを追い出され、テレビを見ながら膝を抱えていた。
「あっちゃー、ロマ怒らせてしもたわ~」
「もー、俺も一緒に料理したかったのに」
 まったく悪びれた様子もなく、スペインは頭を掻く。一人になりたかったのかついでのようにヴェネチアーノも追い出され、思わず愚痴が零れた。
「イタちゃん堪忍したって。ロマのスペイン語なんて、何十年ぶりやで」
 中々覚えなかった上にあまり喋らないので、今でも彼が完全にスペイン語が話せるのか分からないんだとスペインは言う。
「え、そうなの? うちじゃ時々出るけど」
 ぼんやりしている時に話しかけると、高確率でスペイン語混じりになる。その度に、兄の深くにスペインが根付いていると感じさせられていた。
「……ほんま?」
「うん。今日も日本と入ったお店のメニュー訳してくれたし。可愛いウエイトレスの子とスペイン語で話してたよ」
 まぁ、スペインの前で話したくない気持ちは良く分かったけど、という言葉は飲み込む。きっと子供の勉強を褒める親のように、頭を撫でられ可愛がられるのだろう。
 親子ではない関係を目指す兄にとって、それは辛そうだ。
「ロマが……日常的に……スペイン語を……ええ子やぁ」
 現に目の前の親分様は、こちらの情報だけでうっとりとした顔をしている。今すぐ撫でたい、自慢したいという顔がどれ程二人の溝になっているのか、まったく理解していないらしい。
「そうやって子供扱いしてるから、兄ちゃんに本気にして貰えないんじゃないの?」
 呆れ気味に突っ込む。つれないつれないと言う割には、本人の努力が足りない気がした。長い間親子のように暮らして来た二人だから仕方ないとはいえ、己の気持ちの変化に気付いてから随分経っている。
「大人扱い……ええの?」
「スペイン兄ちゃんに中間って無いのかな」
 頬を染めながら視線を外されると、どう反応したらいいのか難しい。身内での想像は生々しいなと溜息をつき、一応例を考えて見た。
「告白が通じないなら、キスしてみるとか」
 ……あ、駄目だ。
 自分で言っておいて何だが、あの兄なら「酔っ払ってんじゃねーよ」とか突っ込んで終わりにしそうだ。かといって普通に好きと言っただけでは通じない。
 好き以上、性行為未満。そのラインを探し腕を組みながらうんうん唸っていると、真向かいのスペインがもじもじしながら呟いた。
「結婚したってって言うんは早いかなぁ?」
「それだー!」
 愛情溢れる親分の曖昧な「好き」ではなく、確実に特別扱いな「結婚したって」が一番パンチが効きそうだ。今のイタリアとスペインならば、昔のような意味での結婚ととらえることは無いだろう。
 昔の意味での結婚だと、どっちにもメリットがない。ちょっと寂しい考えに泣きそうになりながら、ヴェネチアーノはほくほくとした顔で同意した。
「それならきっと兄ちゃんも分かってくれるよ! 結婚は許さないし兄ちゃんはあげないけど!」
 あくまでも結婚は例えだからねと釘を刺す。恋人は祝福しても結婚は駄目。自分達兄弟を離す事は出来ないのだと、無い髭をひっぱりながらヴェネチアーノはおほんと咳をした。
「イタちゃんって結構ブラコンやね……。だが、お兄さんを俺に下さいっ!」
「断るっ!」
 二人で大げさにポーズを取りながら、結婚を申し込む男と恋人の父親役になりきりった会話は続く。ある時は有名映画の台詞を言い、ある時は小説の台詞を言い合っていると、後方から呆れたような声が落ちた。
「……お前等何やってんだよ……」
 柱に背を預け、腕を組んだロマーノが夕飯だと告げる。今日はパスタだという台詞に喜び抱きつけば、ぽこんと頭を殴られた。
「パエリア……」
「うるせー! 材料足りなかったんだよ」
 本当に期待していたらしく、スペインがしょんぼりとする。その態度に兄は怒ると、逆に親分様は顔を綻ばせた。
「って事は、作ろうとしてくれたんやね」
「うぐぐ……」
 しまったという表情をありありと浮かべ、ロマーノは顔を真っ赤にして口を噤む。辺りに漂うによによとした空気に耐えられず走ってキッチンへ逃げると、遠くから「アホスペイン!」という罵声を響かせた。
「……これはいける!」
「いけるんだ」
 何をどう確信したのか、スペインが瞳を輝かせて拳を握っている。先程のやりとりで少し疲れたヴェネチアーノは、今夜は気を遣って早めに寝ようと考えた。

「お休み~」
 食事を終えると、今日は疲れたからと先に休ませて貰う。
 これから二人で何とかくっついて欲しい。
 そんな事を考えつつ、階段を上って客室に入った。ベッドにダイブし、じんわりと体に広がる疲労を感じる。 そういえば、スペインは夕食に出たワインに一口も口つけていない。一口でも呑んだら兄に「酔っているせいだ」と取られてしまうからか、今夜決めようとする彼の意思は強かった。
 今夜こそ成功するのだろうか。
 重たくベッドに沈んでいく意識の端で、階下からロマーノの声が聞こえた気がした。

 次の日。朝食に起きると、キッチンには無心で玉ねぎを刻んでいる兄がいた。ギクシャクとした動きで、どうやらオムレツを作っているらしい。いつもなら少し眉を潜めるジャガイモも無視して刻んでおり、ヴェネチアーノは首を傾げた。
「兄ちゃん、おはよ」
「……オハヨ」
 どこか固い口調だが、返事は一応返って来る。
 何か心を飛ばしているような、忘れようとしているのか、平然を装うとしている顔。そこに険悪や悲しみの色は見えず、もしやという期待を込めてそっと彼の背後に忍び寄る。
 小さく耳元で囁けば、ロマーノの手からごろんと卵がシンクに落ちた。
「どうしたの、兄ちゃん。まるでスペイン兄ちゃんに告白されたような顔してるよ?」
「!」
 みるみるうちに、顔から首まで赤く染まっていく。細かく震える肩に笑みが浮かび、ヴェネチアーノは背後から抱きついた。
「されたの? されたんだ!」
 おめでとうと喜び、ぎゅうぎゅう抱きつく。羞恥に震える兄は暫くすると、蚊の泣くような小さな声で「うん」と頷いた。
「ちゅーは? キスはしたの!?」
「うるせー、黙れこんちくしょーめ!!」
 調子に乗って矢継ぎ早に聞けば、流石に怒られた。宥めつつ二人でわいわい話しながら朝食を作って居ると、ようやく屋敷の主が起床してくる。
 明らかにスペインを意識している兄と、それを暖かく見守る恋人。まるで新婚のような姿に、ヴェネチアーノは流れるような仕草でポケットから携帯を取り出す。
 掛ける先は、もちろん空気の読める優しい友人。
「ああ、日本。……うん、俺そっちでバカンスしていいかなぁ?」
 正直先程までは祝福していたものの、目の前に二人揃うと張り裂けそうな程お腹が膨れてくる。どんどんトーンが落ちていく声に日本は笑うと、滞在を喜んで了承してくれたのだった。