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【腐向け】とある兄弟の長期休暇(後編)

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「みゃ、脈ありって……何言ってんだよ!」
「えへへ~、兄ちゃんの心はお見通しであります!」
 ビシッとドイツ仕込みの敬礼をしてみせれば、口をパクパクさせている。どうしてとかなんでとか、たぶんそんな言葉を言いたいんだろう。
 そんなに自分には分からないと思っていたのかと頬を膨らませつつ、ヴェネチアーノはもう一度ぎゅっと抱きついた。
「ほんっと、二人は似たもの同士なんだから」
「似たもの同士って」
「こっちから見れば、二人共同じことしてるんだよ」
「同じこと……」
 瞳を覗き込めば、困惑した色が見える。不安を滲ませた顔ににっこりと笑うと、ヴェネチアーノはぎゅっと抱きしめる事で彼の背中を押した。
「え、何これ楽園やん」
「見てて暑いんだぞ、君達」
 犯人の引渡しを終えた二人が戻ってくる。呆れたようなアメリカと対照的に、スペインは瞳を輝かせていた。
(あ、まずい)
 可愛がられるのは問題ないのだが、このままでは兄の嫉妬を買ってしまう。せっかくいい感じになりそうなのだ。慌ててロマーノの背中に逃げ込み、近くのお店で飲み物を買おうと離れた。
 いつもなら機嫌が悪くなる兄は、先程のやりとりでぼんやりしているの態度は変わらない。だがいっそワザとらしい程にスペインから視線を外すと、肩を竦めていたアメリカに声を掛けた。
「引渡し終わったのか?」
「うん。往生際が悪かったから、ちょっとお仕置きしたけどね!」
「へ、へぇ……」
 朗らかに告げられる内容に少し引きつり気味の返答を返し、用事があるというアメリカを見送る。またメールするねという友人同士の会話の横で、スペインは張り付いた笑顔を浮かべていた。
(うわ、どっちも怖っ!)
 買った飲み物を手に、空を見上げる。このまま二人が嫉妬モードになると困るので、太陽が傾き始めたし今日は帰ろうと声を掛けた。
「そうだな、……あ、車のキーがねぇ」
 運転手を譲らないロマーノが、ズボンのポケットを叩く。先程男の突進で怯えた際落としたようで、すぐ足元に落ちていた鍵に気付いたスペインが拾って渡した。
「ほいっ。親分の車大切にしてーな」
「ん、グラシアス……あ」
 つい素直に出た「ありがとう」の言葉。日本と居た店でウエイトレスと話していたせいか、スペイン語でロマーノの口から零れた。
「ロ、ロマ……ロマがスペイン語喋っとる!」
「いや、これはっ……」
「かんわえええええええええ!」
 これだからスペイン語は言いたくねーんだよと叫び、抱きついてくるスペインから逃げようともがく。感激の表情で頬擦りをつづける親分様は、ずっと可愛いという言葉を繰り返していた。
(……結構恥ずかしいな、この状況)
 裏道とはいえ、人通りの多い道で成人男性がぎゅうぎゅうとハグしている。先程の自分の行為を棚に上げ、ヴェネチアーノはそっと兄に近付くと車の鍵を取り上げた。
 そのまま車に向かい、エンジンをかける。こんな時だけ空気を読んだスペインがロマーノを抱き締めながら後部座席に乗り込み、車はスペインの屋敷へ猛スピードで発進したのだった。