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【腐向け】とある兄弟の長期休暇(後編)

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EX


 今日は疲れたからもう眠ると、ヴェネチアーノは先に上がってしまった。その背を見送り、ロマーノはテレビに視線を戻す。
 ソファの隣にはスペイン。同じようにテレビを見ているが、その手はクッションを抱いているだけでテーブルの上のワイングラスには伸ばされない。
 いつも夜には必ず少し呑むのに珍しい。そういえば夕飯の席でも彼は呑んでいなかった。
 医者にでも止められたか。もう年かもな。
 そんな事をぼんやり考えていると、隣のスペインがそわそわしだした。こちらを窺うような視線がロマーノの横顔に刺さる。その癖振り返ると、視線を逸らしてしまう。
 何だか妙に意識されている。
 そう思うとこちらも意識してしまい、この状況が恥ずかしくなってくる。いつも通りとはいえ、ソファに隣同士。しかもぴったりとくっついて座っているのだ。
 まるで恋人同士のようだと脳内で突っ込むだけで頬に熱が篭り、徐々に緊張が増していく。くっついた部分に意識が集中し、テレビの声が頭に入らなくなってきた。
「なぁ、ロマ」
 ふとスペインが声を掛けてくる。何だと顔を動かせば、触れそうな程近くに彼の顔があった。
「なっ、何だよ」
 驚きのあまり体を後ろに逸らす。少し顔を離して距離を取ると、ずずいっとスペインは距離を詰めて視線を合わせてきた。
「俺、今日は呑んでへんで」
「ああ、珍しいな。年か?」
「ちゃうわ、まだ若いつもりやで! そうやなくて……あんな、ロマに大切な話があんねん」
 手にしていたクッションを放り投げ、スペインはロマーノの手を両手でしっかりと握る。伝わる体温は熱く、緊張の為か少し湿っていた。
 じっとこちらを見つめる瞳は真剣そのもので、頬は高揚の為か少し赤い。呑んでいるのかと突っ込みたかったが、一滴も呑んでいないのは先程彼が言っていた通りである。
 ……『大切な話』とは一体何だろう。
 頭の片隅で希望が光るが、ロマーノはそれを否定した。目の前の男は、今までことごとく期待をへし折ってきた男だ。少しでも期待したら負けだと自分を支える。
 大方「明日こそパエリアがいい」とか、そんな自分にとってどうでもいい話だろう。最悪は「イタちゃんと二人でバカンスを過ごしたい」辺りだろうか。
頭の中で今日一日の出来事から思いつくパターンを数個考えていると、掴まれた手がぐっと引かれた。背中を逸らし続けていたのは辛かったので有り難いのだが、反動でスペインの胸に飛び込んでしまう。
「ス、スペイン」
「ちょっと黙って聞いててや」
 頭の上で、いつになく緊張した声が響く。勢いをつけるように数度手をぎゅっぎゅと握ると、スペインは手を離して強くロマーノを抱き締めた。
 一体これはそういうことだ。何がどうなってこうなった。
 ロマーノの頭の中はぐるぐると疑問が渦巻き、いつもとは違う色の抱擁にパニックを起こす。逃がさぬよう必死な腕はどこか過去の彼を思いださせ、やがて戦争から帰って来た時の抱擁と重なる。
 絶対逃がさない。ここから居なくならないで欲しい。
 そんな心の声が聞こえそうだった、あの時代のスペイン。度重なる戦争で子分を失い続け、一人になる恐怖と戦っていた彼の抱擁もこんな風に胸にくるものだった。
 胸にせり上がる過去の哀愁が涙腺に響く。泣きたくなりそうな気持ちについスペインを茶化したくなるが、先程黙って聞いて欲しいと言われてしまっているので黙る他無い。
 仕方なく胸に頭を寄せ大人しくしていると、暫く黙っていたスペインが震える声で呟いた。
「……結婚したって」
 聞こえた声に目をぱちくりとさせる。自分は何と聞き間違えたのだろうかと必死に自衛していると、強く肩を捕まれ体を離された。
 再び二人の視線が合う。驚き過ぎて間抜けな顔を晒しているロマーノにスペインは思わず苦笑した。
 肩を掴んでいた手を滑らせ、ロマーノの頬を両手で挟む。優しく包んだ頬は昔と違ってぷにぷにとはしないが、手にしっかりと馴染んだ。
「ロマーノが好きや。愛してる」
 頬の感触に緊張が解けたスペインは、笑いながらそう告げる。驚愕しているロマーノの脳は処理出来ず停止したままだったが、頬の熱が急激に上がっていることを彼の両手に伝えた。
「だから、……結婚したって?」
 固まったままの表情に更に笑い、スペインは小首を傾げて可愛らしく言う。ロマーノの唇はわななくこともなく、時を止めたように固まっていた。
 それ本気なのかとか。
 何可愛らしく言ってんだ、年を考えろとか。
 突っ込みたい言葉は山ほどあるのに、まったく唇が動かない。突然の告白が嫌な訳では無かった。元々それを望んでいた筈。
 もちろん胸には歓喜が渦巻いている。
 でも、頭は恐怖を感じていた。
 生ぬるい関係の終わり。自分の背中で世界が壊れていく気配がする。スペインの背後に見える新しい世界は未知のもので、ただひたすらに怖かった。
 望んでいた筈なのに、一歩進めない。
 怖がりな自分に涙が浮かぶ。どうしていつもこんなに臆病なのだろう。
 新しい関係に進みたいと願い頑張ってきたのに、いざそれが目の前に出されると足が竦む。思い返せばいつもそうだ。
 新しい親分だと目の前に差し出された手。あの日の自分も、新しい支配者を怖がり彼の手を掴めなかった。
 ベルギーが自分達は家族のようなものだと笑った日。一人じゃないと嬉しかったのに、いつか失う事を恐れその声に同意出来なかった。
統一しようと弟に延ばされた手を払ったのも、恐怖から。
 思い出せば出す程悲しくなり、目から涙が溢れてくる。自虐は脳内を走り回り、逆に何故スペインは自分なんかを愛したんだと怒る始末だった。
 うん、と頷きたい。
 今度こそ手を取りたい。
 なのに恐怖が体を支配する。
 ロマーノは数度瞬いて悲しい涙を押し流す。そこで、唯一自力で動かせる瞼の存在に気付いた。