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月の出を待って 前編

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 身体の左側が大層暖かい事が最初に感じた事だった。
それを確かめようと、動かした身体の節々がひどく痛む事が、私の覚醒を促した。

朝日が山肌にあたっているが、私達のいるこの小さな平地へは、まだ差し込んでいない。
早朝の山の冷気と朝靄に身体が冷えていたが、狼の彼が寄り添っていてくれたお蔭で、私は凍えないで済んだ様だ。
それでも硬い地面に寝た事など殆ど無い身には、つらさを感じざるを得なかった。

「おはよう。快適な一夜とは言えないまでも、君が私を暖めてくれたお蔭で風邪もひかないですんだよ。ありがとう」
私は狼に感謝の言葉を告げた。
が、彼は特に何の感慨も受けなかったらしく、のっそりと身を起こして私から離れようとした。
その時、私の手が考えてもいない動きをした。
彼の首に両腕を回して自分のほうへと引き寄せたのだ。

“えっ?”

ギャンッ!
思いがけない動作は、彼の折れた足に負担をかけてしまい、苦鳴が発せられた事で、私は自分のした事にひどく慌てた。

「ああ、すまない。つい……。感謝を態度で表そうと思って…」

口からこぼれる言い訳を耳にしながら、頭の中では混乱をきたしていた。

“何故彼が離れるのを阻止したのだろう。寒くなるからか?それとも彼と別れ難かったのか?私は…”

理由のわからない無意識の行動に答えを見出せぬまま、私は彼を腕に抱きしめ続けていたが、彼の尻尾が不機嫌そうに地面をパタンパタンと叩くに至って、やおら腕の拘束を解く。

「さて、この崖を登って元の山道へ戻るのが今日の一番最初の仕事となるわけだが、君のその足では登るのが困難だろう?まずは私がザイルとピッケルで上に上がる。ザイルの端を君の胴に括り付けておいて上からたくし上げる事にしようと思うのだが、どうかな」
私がそう言うのを彼はじっと見つめていたが、いきなり不自由な足をつきながら急斜面を登り始めてしまう。

「君!そんな事をしたら足が!!」

私は慌てて彼を止めようとしたのだが、その彼の口がザイルの片方を咥えてしっかりと爪で斜面を捕まえながら登る姿に感動をしてしまったのだ。
野生の力は凄い! と
そのせいで彼を止める事も出来ず、彼が山道に登って太い幹にザイルを巻きつけ端を咥えて伏せるまで、呆然と見る結果となってしまった。
だが、同時に疑問が湧いてくる。
彼はあまりに頭が良過ぎるのだ。
本当にただの狼なのだろうか、との疑問が再燃する。
それでも疑問に捕らわれて行動を停止している場合ではない。

私は彼の助力を無駄にする事無く、ピッケルと垂らされたザイルに掴まって、5分もしないうちに上の山道へとこの身を移動させていた。
その頃には朝日が私達を照らし、運動をした事もあって身体が暑いほどになっていた。

「ありがとう。君のお陰で山道まで楽々戻る事が出来た。そのお礼と言っては何だが、君の足の治療を私に任せてもらえないかい?」

私は上がる息を押して一気に彼に畳み掛けた。
そうしないと彼が仲間の下へと戻ってしまうのではないかと思えたからだ。
事実、彼は私が山道へ到着すると同時に立ち上がり、歩き出そうとしていたから
私の声に彼が立ち止まって振り返ってくれる。カッパーアイが朝日にキラキラと輝いている。

「頼むから私と共に一旦山を下りてもらえまいか。君を背負って車のところまで連れて行く。そして街の獣医に君を診てもらう。どっ!」

どうだろうかと続くはずの言葉は、彼が素早く身を翻した事で尻上がりに途切れた。

“行ってしまう!”

私は瞬時に胸に湧いた熱い思いのままに、彼の胴へと腕を巻きつけていた。

ギャウンッ

彼が苦鳴に再び唸り、振り向いた牙が私の腕に掠った。
ゆっくりとジワリと赤い筋が色を濃くしていく。
が、私は痛みを感じていなかった。

「頼む!行かないでくれ。私は君と離れたくないんだ!!」

私の今までの人生において、これほど切実に別離を辛く感じた事はなかった。
まるで身体の一部を持っていかれる様に感じたのだ。だから素直に想いを口にした。
だが、彼は私の身体の下から逃れようと蠢き暴れる。

「止めてくれ!足がっ、君の足が悪化する!」
“私が手を離せばすむ事だろうに”

冷静なもう一人の自分の声が頭に流れたが、感情的な部分の私は彼をどうあっても離したくなかった。
私はザイルを手繰り寄せると、彼の前足と無傷の後足を一括りに縛って太い木に括り付けた。

ガウルルル

彼が牙を剥いてその怒りを知らせるが、私は彼の感情に目を瞑った。

「行かせないよ。君に飼い主が居ようが仲間が居ようが関係ない。君は私と共に来るんだ!」

私はリュックからタオルを出すと、彼の口をぐるぐる巻きにし、牙を剥けない様にしてしまう。そうしておいて彼の身体を首から両肩に渡して背負うと、リュックを前からかけるようにして、山道を汗だくになりながら車のもとへと下ったのだった。

2009/04/10

作品名:月の出を待って 前編 作家名:まお