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Weird sisters story

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Lachesis




(聞かれていたな…)
目前に迫るビームを避けると、反射的に撃ち返す。
予想通り敵機は爆散し、画面右上にあるスコアが少しだけ上昇した。
シンは無表情でメインカメラを動かす。
捉えた先に居たストライクダガーへと、ビームサーベルを突き立てる。

『レイが選んだのは―――』

「………っクソ!」
ブーストの稼働率を上げ、敵機と一直線のベクトルに並ぶ。
放たれたビームに2機とも落された。
同時に機体を後方へ退かせ、頭上へと迫っていた機影へとサーベルを翳す。
更に移動しながら2発立て続けにライフルを発射、スコアが飛躍的に上昇していく。
『シン!終わりだ!!』
「っ!」
ハッとして気付けば、もうどこにも敵の姿はなく、そして終了を知らせるメッセージが画面に表示されていた。
『α型の戦闘フェイズ、終了だ』
画面に映るアスラン・ザラが、そう告げる。
『次はβ型で行う。少しデータを入れ換えるまで時間があるから、その間は休憩していてくれ』
「……はい」
そう言うと、シンは直ぐに通信を切った。
シミュレーターの電源もオフにすると、途端に静かになる。
シンは座席を倒して、空を仰ぐ姿勢をとった。
そして思う。
マユが持ってきた赤服。
彼女の言を信じるなら、それはレイから頼まれたとの事。
だとすると、レイは確実にあの場に居た事になる。
「…相変わらず、卑怯な奴だよ」
シンは自嘲めいた笑みを作った。
出合った時からそうだった。
自分がザフトのスパイであると隠していたくらいだ。
瞑目すると、あの時のレイが甦ってきた。
解けた靴紐を結び直していた、あの時。
ふと見上げた視界に映った、彼。
綺麗だった。
ただ、純粋にそう想う。
潜入前に嫌というほど見せられた顔だというのに。
実際、それが目標ターゲットのレイ・ザ・バレルだと気付くのに数秒を要したくらいだ。
「…………レイ…」

俺はあの時、言えなかった言葉を今も押し殺している。

ふと、身体が揺れた。
ハッとして身を起こせば、シミュレーター自体が揺れている。
「何がっ……」
途端、響き渡るアラート。
『工廠内で戦闘と思しき熱源を感知、6番ハンガーにて新型MS3体を何者かに強奪された模様。セキュリティレベル・MAX、コンディションレッド、パイロット各員は直ちに搭乗、これの強奪を阻止、もしくは破壊せよ。繰り返す、工廠内で…』
『シン!テストは中止だ!』
アナウンスを遮る形で、アスランが通信を入れてきた。
「隊長、これは…!」
『新型だと…!?カオス・ガイア・アビスか!』
インパルスとセイバー、その2機を残し、先にロールアウトした機体だ。
『冗談じゃない!』
アスランが荒々しく通信を切った。
それと同時に、シンもまたシミュレーターを抜け出し、駆け出していた。





(…クソっ!)
アスランは負傷したパイロットやいきなりの戦闘態勢に慌てる整備士の間を走り回っていた。
おおかたの機体は既に出撃しているらしい。
この混乱では、整備士を捕まえて訊くより、自分で走り探した方が早かった。
「っ!」
と、3番ハンガーの隅に緑にカラーリングされた機影が目に入った。
(ザクか!)
アスランは直ぐにそれへと足を向けた。
その機体の前に立ち、リフトを操作する。
その稼動音に気付いたのだろう。
茶色の髪に赤いメッシュを入れた一人の整備士が驚いたように振り返った。
「だっ、ダメですそれは!!機体のパワーバランスがまだ未調整で…」
「だが動けるんだろう!」
アスランはそれだけ言い捨てると、コックピットのハッチを開く。
「でも、無理に動かすと暴発する可能性が…!」
「構わない!何も出来ず、見ているよりはマシだ!」
メインカメラが点灯、完全に起動したザクは整備コードを引き千切る。
ブラックアウトしていた画面に周囲の状況が映し出される。
何より先に、アスランは通信画面を開いた。
「目標は…!?」
『現在、第9区画に3機とも点在!バビ6、ゲイツR7、ジン5、ザク2で応戦するも目標は尚も南下中!…!更にバビ2、撃沈!』
アスランは苦々しげに舌打ちすると、ザクのバーニアを噴かし、ハンガーの外へと飛び立って行った。
「あああもう!」
「ヴィーノ!さっきここにあったザクは!?」
機影を目掛けて走ってきたのか、シンもまた肩で息をしている。
「アスラン・ザラが乗って行ったんだよ!やばいってあれ!整備不良なのに!!」
ヴィーノの言葉に、シンは少しだけ眉を寄せる。
あの人ならば、己の安全より軍人としての任を取るだろう。
「他に無いのか!?」
「もう何処も空っぽだよ!」
「インパルスは…!」
「まだ…システムが」
「何とかならないのかよ!」
無理な事はわかっている。
けど、言わずには居られなかった。
だが、口論になる直ぐ後ろで、そっと落ち着いた声が聞こえてきた。
「派手に暴れてくれる…」
溜息混じりのその声音に驚き、シンは思わず振り返る。
「………トダカ…一佐」
戦闘画面を映し出すモニターを前にして、その人は呆れ果てた微笑を作った。






『なんで…こいつら!』
ルナマリアの苛立った声が聞こえてくる。
まだ実戦投入されていない機体を、ここまで扱える事に納得がいかないのだろう。
それもその筈、Sシリーズであるあの3機はそれぞれに癖があり、乗りこなすのに相当な時間がかかる。
だが目の前のそれらは完璧な動作で起動している。
レイは向けられたライフルをギリギリの所で避け、逆に撃ち返した。
だが容易くシールドに阻まれてしまう。
軽く舌打ちし、機体を後方に流しつつミサイルを放つ。
着弾時に生じた爆煙の中から、カオスの機動兵装ポッドが飛び出してきた。
「………っ!」
肩のシールドで防ぐが、着弾の反動は抑えられない。
僅かに後ろに姿勢を崩す。
『…あっ!!!』
「ルナマリア!?」
ガイアのビームサーベルに圧されたらしいガナーザクウォーリアがバランスを崩す。
そこへ更に追い討ちをかけるガイアの姿が見え、レイはバーニアを最大限に稼動させた。
だが、背後からロックされている事に気付いたのは、その後。
けたたましいアラートが鳴った方を振り返れば、アビスのビームが目前へと迫っていた。
(しまっ……!)
しかし直後襲った衝撃は、明らかに撃たれた為ではない。
レイの目に映ったのは、緑のザクが代わりにビームに貫かれている光景だった。


作品名:Weird sisters story 作家名:ハゼロ