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Weird sisters story

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Lachesis 10




暗闇に光が差し込んできて、いつもならそのまま瞠目しているだけのレイは薄っすらとその瞳を開ける。
やけに上機嫌な少年が、得体の知れない笑みと共に真っ直ぐこちらに向かってくる気配を感じた。
「メシ」
カチャン、と床にトレイが置かれる。
鉄格子の下方、それ専用に空けられた小さなスペースから、それが差し入れられる。
「今日は食べろよ」
いつもなら喧嘩腰で怒鳴っている所も、存外落ち着いて言葉を放っている。
何かあるな、とは感づくが、考えるのも面倒でそのまま腕を伸ばした。
少しだけ緩慢なその動作に、アウルは面食らったように目を丸くしている。
それに構わずパンの切れ端を一掴みすると、僅かに歯を立てた。
咀嚼していると、不躾な視線が煩わしく目を合わせてみる。
腑抜けた顔をしていた。
それが余りに呆けているものだから、レイは軽く息をついた。
「なんだ?」
「え?」
「食べろと言ったのはお前だ」
「ん、まぁ…」
それだけ言うと、アウルは拍子抜けしたようにその場に腰を下ろす。
腕を後ろに突っ張り、興味深そうに鉄格子の中を見つめている。
「なんだよ、なんで急に食ってんの?」
「別に」
「答えになってねーよ」
アウルは舌打ちをした。
彼の胸のポケットには、ネオから無理矢理に奪った鍵が入っていたのだ。
今日、また食事に手をつけないのなら強引に中に入る気で居たのに。
その様子を察したのか、レイが視線を逸らしながら静かに口を開く。
「捕虜になった場合、できる限りの飲食は抑えるように訓練されている」
「はっ、僕達を疑っていたわけ」
「どう解釈しようとお前の勝手だ」
少しずつパンを口に含みながら、レイは淡々と言い切る。
それに対しアウルはムッとしていた。
「お前ってさ、最初見たときから思ってたけど、ヤな性格してるよね」
言うと、今まで逸らされていた視線が合わされる。
この薄暗い中、やっと見えるくらいに口元を緩め、嘲笑した。
「よく言われる」
その様が、とても囚われた人間だとは思えないほど挑発的で。
簡単に言えば、絶句していた。
そかし直ぐに、アウルもまた笑みを零す。
「…なぁお前、ここから出してやろっか?」
「そんな事をして、罰せられるのはお前だぞ」
「カンケーないね、そんなの。ただ、」
お前と居ると面白そうだ。
言葉にこそならなかったが、その薄緑色の瞳はそう言っていた。
レイは無言で答えていたが、やがて重々しいドアが開き、新たに光が飛び込んでくる。
「…アウル、早く鍵を返せ」
新しく入ってきたその人は、腰に手を当て溜息混じりに零す。
「いいぜ。面白いモン見れたし」
アウルは立ち上がり、ポケットからリングにはめられた鍵を取り出した。
それを放り投げると、鍵は乾いた音を立てネオの掌に収まる。
「それから、アビスのデータはまだ不足しているそうだが」
「んだよ、さっき取ったばっかりじゃねーか」
「いいから早く行け。いい加減にしないと、無理矢理にでも取らされるぞ」
その言葉に含まれる裏を読み取ったのか、アウルは無言で足を進める。
営倉から出て行く直前で、くるりと振り返った。
「今度僕とバスケやろーぜ」
レイは当然、答えない。
それに満足したのか、アウルはそのままドアの外へ消えていく。
「随分と、懐かれたみたいだな」
壁に寄りかかっていたネオが口を開く。
「あいつは一番気難しいのに、よくやるよ」
「どうでもいいだろう、そんな事。それより、言いたい事があって来たんじゃないのか?」
「さすが、鋭いね…」
ネオは鉄格子の傍まで来ると、先程受け取った鍵で錠を外す。
「お前の処分が決まった。ついて来て貰おうか」
レイは静かに、立ち上がった。







久しぶりに室内灯の当たる部屋に通らされた。
当然、両手首には頑丈な錠がはめられてはいたが。
「さて、処分を言いつける前に、少しだけ聞いておきたい事がある」
「なんだ」
指揮官室だろうか。割と豪華な部屋にネオ・ロアノーク以外の気配は感じられない。
わざわざ人払いをする程の事なのだろう。
「お前のサンプルから裏づけは取れているが…お前、本当にナチュラルか?」
「だからこうして此処に居ると言っただろう」
「裏切られた、ね…」
ザフトのエースが逃亡した理由はそこに在った。
生まれてからずっと、コーディネーターとして育てられてきた。
しかし、本当の自分は。
「薬があっただろう。分析はしたのか?」
「今、解析待ちだ」
「あの薬はナチュラルの身体を無理矢理コーディネーターのレベルまで持っていく為の物だ」
「ふぅん、強化人間エクステンデッドと同じか?」
「いや、薬剤強化型ブーステッドマンに近い。以前地球軍が使用していた物より、副作用は少ない。精神状態も極めて安定する」
「なるほど。で、いつわかったんだ?お前がナチュラルだと言う事を」
「ロドニアに潜入した時だ。ラボを見た時、フラッシュバックに似たものが起きた」
「クーデターの時か。随分と古い話だな…」
ネオは暫く、黙っていた。
その手には通達文書らしい物が握られている。
「ザフトから新型を強奪した所で、コーディネーターとナチュラルの差は大きい。戦況は芳しくない一方だ」
握られていた文書が机に落される。
そのまま腕は組まれ、仮面の中から真っ直ぐな視線がレイを射た。
「我々地球軍としても、現在人員不足を抱えている。数だけが取り得だったのに、無様なものだ」
「…それで?」
ふっ、とネオは笑う。
恐らく、この元ザフトの兵士は告げられる言葉がわかっているのだろう。
「レイ・ザ・バレルを今日付けで、地球軍第八一独立機動群“ファントムペイン”所属とする」
「ファントムペイン、か…」
その名は、己にこそ似合っているのではないか。
ある筈のない身体が起こす痛み。それは心でも起こりうるのだろう。
「そこでだ。悪いとは思うが…こちらとしても裏切られては困るんでね」
ネオは諦めたように笑う。
レイもそっと、自嘲した。
「判っている。消すのだろう?俺の、記憶を――」
あぁ、まただ。
俺はまた、裏切るのだ。

『覚えていて、レイ』

俺は何度、彼を苦しめればいいのだろう。


シン、どうしてお前は、俺を選んでしまったんだ。


作品名:Weird sisters story 作家名:ハゼロ