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Weird sisters story

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Atropos




明かりが落とされた室内に、壁にかけられたデータボードが淡く光る。
シンは頬杖をつきながらその上を流れる指示棒の動きを追っていた。
「前対戦中に地球軍に奪取されたカーペンタリア基地を叩く」
アスランが口頭でこの作戦の概要を述べていく。
「ここは現在、地球軍の重要な拠点となっている。オーブ基地に物資搬入、調達などはほぼこの基地を経由していると言っていいだろう。しかし戦闘で近隣の基地との連携を取りやすいのも事実。こちらが挟撃されるケースもしばしば見受けられた。よって今回は、逆にこちらが挟撃する」
ピピッと電子音が鳴り、画面上に自軍と敵軍のマークが現れた。
「先遣隊は通常通りカーペンタリアを攻撃。敵が応じてきたら僅かに後退しつつこのポイントまで引き込む。その後上空より第二部隊が敵の背後を突く。そうなると、恐らく敵は他の基地から戦力を借りるだろう。そこで」
再び聞こえた電子音。複数個の自軍のマークが、一気に増えた。
「ゲリラ戦術の応用だ。各隊、それぞれの方向より順に敵軍、基地を攻撃。詳しい内容は配布してある資料に記してある。各自、目を通しておくように」
言い終えると、室内の明かりが灯った。
顔を上げたアスランが部屋を見渡しながら口を開く。
「以上。質問は?」
誰も身動き一つ、しなかった。
暫く待った後、解散、と短く終了の声が聞こえる。
その場に集まった人がそれぞれに席を立つ中、シンはひとりぼんやりと資料を眺めていた。
すると、ポンと肩を叩かれる。
振り返ると、ルナマリアが立っていた。
「ルナも居たんだ」
「今回は後方支援だけどね。それよりシン、大丈夫?」
「何が?」
訊くと眺めていた資料のある部分を指差された。
そこに書かれていたのは、X56S−インパルスの配置位置。
―――先遣隊に組されていた。
「一番危険で、かなり難しい役回りよ?」
「そうみたいだね」
「何ソレ。もうちょっと慌てなさいよ」
呆れたように肩を竦めるルナマリアに、小さく笑って返した。
「インパルスは装甲、機動性、エネルギー支援、そのどれも超一級品だから当然配置されるならココだろ。それに」
すっと、資料に目を走らせた。
インパルスと同じ列にある、セイバーの文字。
「あの人も、居るんだし」
そう呟いたシンの顔は影になって、ルナマリアからは見えなかった。






上から送られてくる命令文書に目を通していると、段々と気が悪くなった。
嫌気が差してそのまま机に投げ捨てコーヒーに手を伸ばす。
すると、急にドアが開く音がした。
「ネーオ!」
「アウル、部屋に入る時は一言声を掛けてから入れと言ってるだろう」
くるりと振り返って見ると、そこに居るのは予想と違ってアウルだけではなかった。
やけに嬉しそうな顔のアウルと、その少し後ろに立っているレイの姿。
はぁーっと、盛大に溜息をついた。
「……勝手に捕虜を解放するな」
「残念、今回は僕じゃないんだよね」
「どういう事だ?」
判らずに訊ねると、そっとレイが口を開く。
「俺が頼んだ」
「お前が?何故?」
「話あるんだってよ、ネオに」
質問には、代わりにアウルが答えた。
ネオは少しだけ訝しみながら椅子を回し完全に向き合った。
「話とは、何だ?」
「外で話す。あまりこういった場所で話したくない」
こういった場所?と首を傾げるが、直後に納得した。
いくら私室とは言え、会話は録音されている可能性がある。
ネオはゆっくりと立ち上がり、部屋を出る。
ついて来るとばかり思っていたアウルは、意外にも別の方向へと足を向けた。
「じゃあな、レイ。約束忘れんなよ!」
捨てゼリフを残して走り去った。
あれ程通路を走るな、と言ったのにと思うより先にアウルの言った言葉の方が気に掛かった。
「約束?」
「一時的に解放してやるかわりに、今度一緒にバスケをやれと」
「あぁ…」
それであんなに機嫌がよかったのか、ともうひとつ納得した。
「それにしても、ホントに上手いな。アウルの扱い方が」
独り言のように零すと、クスリとレイは笑う。
「似たようなのがザフトにも居たからな」
「成る程ね…」
曖昧に答えて、会話を打ち切る。
ネオの私室は、割と外に近い場所にある為直ぐに陽に照らされる海が見えてきた。
海鳥の鳴き声と、波が打ち寄せる音、潮の匂いが一気に押し寄せた。
「それで?」
建物内から数歩離れ、立ち止まってもう一度訊ねた。
レイは潮風に煽られる髪をそのままに、水平線から視線を外さずに口を開く。
「単刀直入に言えば、ネオ・ロアノーク。お前は地球軍があまり好きではないだろう」
風に乗って聞こえた言葉に、息が詰まった。
しかし直ぐに口元に笑みを作る。
「どういう根拠での言葉かな、それは…」
レイは目だけでネオを見遣ると、また直ぐに逸らす。
「正しくは、地球軍のエクステンデッドについて、だが…」
「………………」
完全に笑みを消し、沈黙したネオにレイは一呼吸置いて語りかける。
「小さい頃からラボで薬漬けにし、殺し合いをさせ、更には記憶まで変えて用が済むと捨てる。…そんなやり方が気に食わないのだろう?」
ネオはまだ押し黙っていた。
「俺の記憶が消える前に、これだけは言っておきたい」
岸壁に打ち付けられた波音が、一際大きく鳴り響いた。


作品名:Weird sisters story 作家名:ハゼロ